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作品名:ラビリアンファンタジー 作者:ディオス

第145回   百四十四話 別れと記憶 悲しみを乗り越えて

最後の修練を無事にクリアした次の日、マサシとジゼルは覚醒空間に来た時に立っていた広場にやって来た。ユグドラとシルドラの話では元の世界に戻るための入口もその広場に現れるらしい。二人は持ち物を確認し入口の現れる時間を待っていた。

「短い様で長かったな」
「うん、辛かったけど修練をクリアした時は嬉しかったなぁ」
「ハハハ、確かにな」

二人が覚醒空間での日々を振り返っているとユグドラとシルドラがやって来た。

「何を話してるんだ?」
「ん?ここでの日々を振り返ってたんだよ」
「覚醒空間での?」
「うん、この空間のおかげであたし達はレベル・5になれた、辛い時もあったけどいい思い出よ。ライディーンとアナスタシアには本当に感謝してるわ」
「ふ〜ん」

ユグドラが頷いているとジゼルがユグドラとシルドラに近づく二匹の子竜を自分の胸に抱き寄せた。

「わわっ!」
「な、何よいきなり!?」

突然の抱擁(ほうよう)に驚くユグドラとシルドラが顔を上げてジゼルを見上げる。そこには笑顔で自分達を見下ろすジゼルに顔があった。

「勿論、貴方達にもね」
「え?」
「ア、アタイ達に、感謝?」
「ああ、お前達が俺達に色々と助言をしてくれたり励ましてくれたから俺達は今ここにこうして居るんだ。ありがとな」

ジゼルの隣で子竜達に感謝をするマサシ。二匹の子竜は頬を赤くした。

「オ、オイラ達は励またりしちゃいねぇよ」
「そうだよ、アタイ達はライディーン様とアナスタシア様の命でやっただけなんだからな」
「それでも、感謝してる。だから言わせてくれ。ありがとう」
「ありがとう」
「「・・・・・・」」

ユグドラとシルドラは黙りこんでゆっくりとジゼルの腕の中から抜け出て再び飛び上がる。

「・・・・オイラ達はこの覚醒空間が開いている間しか存在できない」
「え?どういう事だ?」
「言ったとおりさ」
「覚醒空間が開かれた時に生まれ、そして、空間が消える時に、アタイ達も消える・・・・」
「「え?」」

ユグドラとシルドラの存在理由を知りマサシとジゼルは驚き表情を固めた。自分達の目の前にいる二匹の子竜は覚醒空間が開いている間だけ生きる事ができる悲しい存在だったのだ。

「それがオイラ達の宿命、でもオイラもシルドラもその宿命を恨んだりは無い。むしろ誇りに思っているよ」
「何を・・・・言ってるんだよ?たった五日だけの命にどうして誇りが持てるんだよ?」
「そうよ、覚醒空間が開いている間だけ生きて、消えたら死んじゃう、そんな宿命なら普通は恨むでしょ?」

二匹の子竜を見て悲しそうな声を出すマサシとジゼル。たった五日の間だけしか一緒に過ごしていなかったが、その五日間の間に二人は二匹の子竜に親しみ感じるようなったのだ。

「いや、恨みはしない。だって、アンタ達に出会えたんだから」
「え?」

シルドラの言葉にジゼルが少し驚きの表情を見せる。隣に立っているマサシも同じだった。そしてユグドラが話を続ける。

「お前達の言うとおり、普通は恨むだろうな。オイラ達は契約者の力を上げる為だけに生まれてきた存在、それが普通だと思って何も感じなかった、怒りも喜びも悲しみも、でも今のオイラ達は喜びを強く感じている。たったそれだけの存在であるオイラ達にお前達は感謝してくれたんだからな」
「ユグドラ・・・・」

自分達に出会ったことでその宿命に強く感謝しているユグドラを見てマサシは水色の子竜を少し悲しそうな目で見つける。

「だから、そんな顔しないでよ、アタイ達は喜んでいるんだから、アンタ達も喜んでおくれ」
「シルドラ・・・・」

喜ぶように笑ってジゼルを見るシルドラ。二匹の子竜はマサシとジゼルに出会ったことで決して感じる事のない気持ちに気付く事ができた。その事に気付いたのか、マサシとジゼルも自然に笑みを浮かべていた。すると、背後から何かを感じ、マサシとジゼルが振り返ると、光のトンネルが現れた。

「どうやら時間みたいだな」
「ああ、これで、本当にお別れだな・・・・」

再びユグドラとシルドラの方を向いて分かれを言おうとするマサシとジゼル。だが、その時ユグドラが予想していなかった答えを出した。

「いや、何時かまた会えるさ」
「え?」
「どういう事?」

ジゼルが尋ねると、ユグドラの体が水色の光へと変わっていき、マサシの体の中に流れ込んでいき、シルドラの体も桃色の光に変わりジゼルの体の中に流れ込んだ。

「こ、これは・・・・!」
「何なの?」
「オイラ達はお前達の中で力となる」
「アタイ達はアンタ達とずっと一緒さ」
「力に、なる?」
「そう、そして、何時か必ずまた会える」
「それまではお別れだ」
「ユグドラ!」
「シルドラ!」
「じゃあな」
「必ず勝ちなよ!」

ユグドラとシルドラの体は全て光となりマサシとジゼルの中に流れ込み、声は聞こえなくなった。

「あの子達、力になるって言ってたよね?」
「ああ、ずっと一緒だって」
「うん」
「・・・・アイツ等の為にも必ずディアボロスとルシフェルを倒さないとな」
「うん!」
「さぁ、帰ろうぜ、ラビリアンへ!」
「ええ!」

二人はユグドラとシルドラの思いに答えるために必ず勝つ、そう誓って光のトンネルへ飛び込んだ。だがこの時、ユグドラとシルドラの最後の言葉の意味にマサシとジゼルは気付いていなかった。





トンネルに飛び込み、しばらく走っていると奥の方から一筋の光が見えてきた。

「出口だ」
「あたし達がいない間、ラビリアンではなにも起きなかったかな?」
「大丈夫だろう。仮になにか起きたとしてもユウタ達やエミリア様がいるんだ、きっと大丈夫だ」

マサシとジゼルはラビリアンと仲間達の事を考え走る速さを上げた、早く皆に会うために。そして二人が光の中へ飛び込むと、その先は見覚えのある風景が広がっていた。

「ここは・・・・」
「あたし達が覚醒空間に行くためのトンネルを開いた場所、だよね?」

二人が辺りを見回してなにも変わっていないかを確かめていると、背後から声が聞こえてきた。

「おかえりなさい、二人とも」

二人が声のした方を見ると、そこには狐耳の少年、そして久しぶりに見る仲間達の姿があった。

「ただいま、コンタ」
「元気だった?皆」
「ああ、お前達がいない間も大きな事件なども起きなかった」

マサシとジゼルの顔を見てユウタは小さく笑いながら話していると、その隣になっているシオンとレイナも話に加わってきた。

「その様子だと無事レベル・5になれたみたいね」
「と言うか、なってもらわないと困るのだがな」
「ハハハ、相変わらずクールだなレイナ」
「本当ね」

五日ぶりに聞くレイナの冷たい発言に嬉しさを感じて笑うマサシとジゼル。そしてその後ろでエミリアとネリネが立っていた。

「おかえりなさい、よく戻ってきてくれましたね。マサシ、ジゼル」
「おかえりなさい、二人とも」
「ただいま戻りました、エミリア様」
「ただいま、姉・・・・ネリネさん」

危うく姉さんと言ってしまいそうになったジゼルは慌てて言い直した。一瞬悲しさで表情が歪んだがすぐに元に戻った。

「お前達が覚醒空間に入っている間、俺達も新しい力を手に入れたんだぜ」
「新しい力?」

ユウタの言葉にマサシが首を傾げて聞き返すと、シオンが続けるように話し出した。

「アンタ達が強くなるために覚醒空間に入った後に私達はエミリア様から修行を受けていたの」
「エミリア様から修行を?」
「ええ、アンタ達が覚醒空間に入って次の日に私達はロードグランでエクス・デストロの魔人と遭遇したの」
「「魔人!?」」

魔人という言葉を聞きマサシとジゼルは声を揃えて驚く。

「ええ、アイツはバジリスクと名乗っていたわ。しかも、あちこちで起きているヘルデストロイヤーの残党襲撃事件の犯人もその魔人だったの」
「魔人、ディアボロスとルシフェルの直属の部下、タツノスケ以外の魔人が出てくるなんてな」
「ええ、でも、その魔人と遭遇して貴方達がここにいるって事は、勝ったのよね?」

ジゼルの勝負の結果を尋ねるとレイナが首を振った。

「いや、私達は負けた」
「え?」

予想外の答えにジゼルは再び驚く。

「バジリスクの力は今までの自然の四塔(フォースド・ガイア)とは比べ物にならなかった、私達は奴の操る毒の前に惨敗した」

レイナの話が終わるのと同時にユウタ達は暗くなったが直ぐに表情を戻した。するとコンタが頭を掻きながら話に加わってきた。

「情けない話さ、惨敗した挙句、解毒剤を渡されて敵に情けをかけられたんだからね」
「私達は魔人に勝つためにエミリア様から修行を受けたんだ。奴等を倒さなければラビリアンを守る事はできないからな・・・・」

レイナが握り拳を作りながら言うとネリネが隣にやって来た。

「バジリスクの話では奴とタツノスケ以外にあと四人魔人がいるみたいよ」
「全部で六人の魔人か・・・・」

ネリネから魔人の事を聞かされて腕を組み考え込むマサシ。するとエミリアがマサシ達を笑顔で見て言った。

「話をそれくらいにして一度町に戻りましょう。マサシとジゼルも疲れている事ですしね」

エミリアの笑顔を見たマサシ達は静かに笑って町へ戻っていった。そして町に戻ったマサシ達はエミリアからエクス・デストロに申し出の会議の結果を聞いた。結果はマサシ達の予想していたとおり、申し出は断る事になった。つまり、エクス・デストロへの宣戦布告という事だ。各国の国王、大統領は全員ディアボロスとルシフェルの考えにはやはり賛同できないようだ、強い者だけが生き、弱い者は死ぬという世界では誰も生きようとは思わなかったのだ。





エミリアから会議の結果を聞いた後、マサシ達は戦いの準備をする為に作戦会議や防衛施設の視察に参加した。全てが終わった時、すでに日は沈みかけており、夕日が町を照らしていた。

「これでエクス・デストロとの戦いは決まったね」
「ああ、もとより奴等との戦いを避けるつもりも無い」
「うん、あたし達はその為にレベル・5になったんだもん」

仕事を終えたマサシとジゼルはエクス・デストロとの戦いについて話しながらエミリアが用意してくれた宿に向かっていた。

「とりあえずエミリア様が用意してくれた宿で休もう。明日からはユウタ達と一緒にエミリア様の特訓を受けるんだからな」
「ええ、レベルが上がったからって特訓を・・・・・・キャア!!」

突然背後からの衝撃にジゼルは驚いてよろけるが、すぐに体勢を直した。

「大丈夫な?」
「う、うん・・・・なんとか」
「イッタ〜・・・・」
「大丈夫?怪我は・・・・ない・・・・?」

背後から聞こえてくる女の子の声に気付き振り返ると、ジゼルは驚いた。そこには見覚えのある女の子が座り込んでいたのだ。

「あ、貴方は・・・・」
「大丈夫かい?」

女の子の後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。ジゼルがフッと顔を上げると、彼女の視界に一人の中年の女性が早歩きでやって来るのが見えた。

「ベル・・・・おばさん・・・・」
「・・・・ッ!」

そう、その女性とは孤児だったジゼルを拾って育ててくれた、ジゼルの育ての親のベルだったのだ。そして目の前で座り込んでいるのは、ずっと妹のように慕っていたあの少女だった。

「イタタタ・・・・」
「もう、前も見ずに走るから人にぶつかるのよ!・・・・ごめんなさいね、怪我は無い?」
「ハ、ハイ・・・・」

ベルは少女を立ち上がらせながらジゼルに尋ねると、ジゼルは感情を抑えながら頷く。

「貴方達見かけない顔だけど、引っ越してきたの?」
「・・・・ええ、つい最近」
「・・・・ハイ」

冷静な態度で返事をするマサシと少し俯いたジゼル。マサシはともかく、ジゼルは必死で初対面の様に振舞っている。

「そう、じゃあ世界が平和になってもし何処かで会えたらゆっくりお話しましょう」
「ええ・・・・」
「ぶつかってごめんなさい、お姉ちゃん」
「う、ううん、気にしないで」
「それじゃあ、失礼します」
「バイバ〜イ!」

ベルと少女は手を振って去って行き、マサシとジゼルはその姿が見えなくなるまで二人を見ていた。その後二人は宿へ行き自分達の部屋で休んでいた。マサシは窓から星空を見て、ジゼルはベッドに腰を下ろしていた。ベルと会って以来二人は会話を殆どしていない。だが、静寂を破るようにマサシがベッドに座っているジゼルに近づき話しかけた。

「ジゼル、さっきのベルおばさんの・・・・」

マサシが話しかけた瞬間、ジゼルは立ち上がり、マサシに抱きついてきた。

「ジゼル?」
「ゴメン、今だけこうさせて」
「・・・・・・」
「あたし、馬鹿よね?」
「え?」
「マサシと一緒に戦うために、マサシを孤独にしないようにする為に契約を交わしたのに、ベルおばさんに会ったら急に寂しくなって・・・・」
「ジゼル・・・・」
「マサシとエミリア様の話しを聞いた時に、決意したはずなのに・・・・」

いつの間にかジゼルは涙声になっていた。契約を交わせば同じ契約者以外の人間から忘れられる、それを分かった上で契約を交わした筈なのに、育ての親に会った途端に寂しさが混み上がってきた。自分の決意の弱さにジゼルは悔しさと情けなさを感じていたのだろう。そんな彼女を見てマサシはゆっくりと抱き返した。

「ジゼル、我慢する事はない。悲しい時は悲しんでいいんだ」
「で、でも・・・・」
「いいんだ、俺にはお前に気持ちが痛いほど分かる・・・・」

自分と同じ様に家族を失ったジゼルの悲しみを少しでも減らす為にマサシはジゼルを強く抱きしめた。すると、マサシが何かを思い出したかのようにフッと顔を上げ、ジゼルを少しだけ離した。

「なあ、ジゼル。家族を失った悲しみは、新しい家族を作って掻き消しばいいんじゃないか?」
「え?」
「あの時、ベンヌで言えなかった事を今話すよ」
「え?う、うん」

状況がうまく飲み込めず、とりあえず頷くジゼル。

「ジゼル・・・・」
「・・・・・・」
「この戦いが終わったら、俺と一緒に暮らさないか?」
「え?・・・・そ、それって・・・・・・」
「俺と結婚してくれ」
「!!!!」

突然のプロポーズ、ジゼルは予想していなかったのか驚いて声が出なかった。

「この戦いが終われば、俺達は今までどおりの生活に戻れる。そしたら、俺はこの世界に残ってお前と二人で暮らしたいな」
「・・・・・・」
「家族になって、楽しく暮らしたい。お前と一緒に・・・・」
「・・・・・・」

ジゼルは俯いたまま黙り込んでいた。そして涙声のまま静かに喋りだした。

「馬鹿・・・・」
「ん?」
「人が悲しんでいる時に、突然プロポーズなんかしないでよぉ・・・・」
「え?あ、いや、俺は別にそんなつもりじゃ・・・・」

ジゼルの予想外の反応にマサシはあたふたしながらジゼルの機嫌取りをしようとした。だが、ジゼルが顔を上げると、彼女は涙は流していたが満面の笑顔でマサシを見つめた。

「・・・・・・ありがとう、凄く嬉しい!」
「あ・・・・」

笑顔を見てマサシは一瞬驚いたが、直ぐに表情を直して微笑んだ。

「マサシ・・・・」
「うん・・・・」
「喜んで、御受けします」
「ありがとう」

二人はそのままゆっくりとキスをした。深く、想いをこめて・・・・・・。それから数十分後、二人はベッドの中で生まれた時の姿のまま、抱きしめ合って眠っていた。


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