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作品名:ラビリアンファンタジー 作者:ディオス

第142回   第百四十一話 越えられない黒い壁

最後の修練を始めたマサシとジゼル。だが、彼等の目の前に現れたのは青白い肌、そして全身を黒い衣服で被っている自分達だった。目の前に現れた自分自身を倒さなければレベル・5にはなれない、二人はレベルを上げる為に向かってくる自分と戦うのだった。

「来るぞ、ジゼル!」
「うん!」

マサシは白龍刀を構えながらジゼルに言う。ジゼルもメタトロンを構えながら返事をした。そして最初に仕掛けてきたのは黒いマサシだった。黒いマサシは黒龍刀を振り下ろしてマサシに襲い掛かった。だがマサシは白龍刀を横にし、頭上からの斬撃を防いだ。

「単純な攻撃だな」
「・・・・・・」

マサシの言う事に反応する様子を見せず、黒いマサシは残っている白龍刀でがら空きになっているマサシの胴体に横切りを放った。マサシはすぐに気付いて大きく後ろに跳んで距離を取った。

「危ねぇ〜、もう少しで真っ二つだった」
「・・・・・・」

黒いマサシはマサシの方をしばらくジッと見た後、小声でブツブツ何かを言い始めた。マサシはそれを見た瞬間にハッと何かに気付いたような顔をして構える。そしてその直後に黒いマサシの頭上に紫色の電流が現れ、それが徐々に剣の形に変わっていった。

(やっぱり契約魔法、しかもサンダーソードかよ!)
「・・・・・・」

黒いマサシがサンダーソードをマサシに放つ。マサシは横に跳んでサンダーソードをかわし、黒い自分へ向かって走り出す。マサシはギリギリまで近づき、右から白龍刀で斜め切りで攻撃する。だが黒いマサシは自分の白龍刀でその斬撃を防ぐ、そして右手の黒龍刀でカウンターを仕掛けてきた。それを見たマサシは後ろに跳んで距離を取った。

「・・・・・・」
「接近戦は難しいな、だったら・・・・」

マサシは白龍刀をゆっくり下ろして空いている左手を顔の前まで持ってきて目を閉じて契約魔法の演唱を始めた。

「聖天(しょうてん)よ、魔に潜む者に裁きの波動を!フォトンブラスト!!」

マサシは素早く演唱を終えて左手を黒い自分に向けた。その瞬間マサシの掌から白い波動が一直線に放たれた。黒いマサシは高くジャンプしてその波動を回避する。波動は闘技場の壁に命中した直後に爆発し周囲の壁を吹き飛ばした。

「ウ、ウソだろ、スッゲェ威力だ」

魔法の破壊力を見て目を丸くするマサシ。今のマサシは以前のマサシとは全然違う、契約魔法の力、呪文演唱の速さ、明らかに強くなっている。だが驚いたのは一瞬、すぐにジャンプした自分の目で追う、その先には黒い竜翼を広げて空から自分を見上げる黒い自分がいた。

「今度は空で戦うってか?」

ニッと笑いマサシも純白の竜翼を背中から生やし大きく広げて高く飛び上がり黒いマサシの目の前まで上がった。地上ではジゼルが黒いジゼルとメタトロンぶつけ合って戦っている。ガキンガキンと高い金属音を上げながら二つのメタトロンがぶつかり火花を散らす。

「なかなかやるわね、でも自分自身だから戦い方は分かるわ!」

ジゼルは一度後ろに跳んで距離を取り、メタトロンを構え直す。呪文の演唱を始めた。彼女もマサシと同じ様に演唱の速さが上がっていた。

「氷塊よ、全てを切り裂く結晶の刃となれ!ダイヤモンドダスト!!」

ジゼルの周りに巨大な氷の結晶が四つ現れて黒いジゼルに向かって飛んでいった。だが黒いジゼルはメタトロンの短い部分を飛んでくる結晶に向けた。そして柄の先端についているスイッチを押した。すると短い部分から衝撃波が放たれ結晶を粉々に砕いた。

「あれはG36 バレット!?触れていないのに離れた結晶を砕くなんて、なんて破壊力なの・・・・」

かつての自分とは違って離れた所からG36 バレットを使って攻撃を防いだ黒いジゼルに驚くジゼル。そして黒いジゼルは今度はジゼルにメタトロンを向ける。それを見たジゼルは全力で走り出した。黒いジゼルは走り出したジゼルを追い始めた。後ろから自分を追ってくる黒い自分を見て高くジャンプするジゼルは背中から薄い黄色の竜翼を生やして大きく広げ、そのまま飛び上がった。すると、黒いジゼルもまた背中から黒い翼を生やして飛び上がる。

「ウソッ!アレって聖天使の翼!?」

黒い翼を見て驚くジゼルは速度を上げて距離を作ろうとした。だが、黒いジゼルも更に速度を上げてジゼルの後を追う。何時まで経っても距離を作ることができない、ジゼルは右手のメタトロンを腰に納めながら反転して自分に向かってくる黒いジゼルを見て契約魔法の演唱を始めた。

「聖天よ、魔に裁きの波動を放て!フォトンブラスト!!」

素早く演唱を終えてマサシと同じ契約魔法を発動した。ジゼルが右手を黒いジゼルに向けると、掌から白い波動が放たれて黒いジゼルに向かっていく。黒いジゼルは表情を変えずに華麗に波動を避けた。

「避けた!なんて速さなの!」

攻撃をかわした黒い自分を見て一瞬驚きの表情を見せるジゼル。だがすぐに右手でしまってあるメタトロンを取り再び構える。そして構えなおした直後に黒いジゼルは左手のメタトロンをクルクル回しながら速度を上げて一気に距離を詰める。そしてジゼルの1m手前まで近づくと回しているメタトロンの長い部分でジゼルに攻撃した。ジゼルは咄嗟に右手のメタトロンでその攻撃を防いだ。

「ウウッ!」

メタトロンから腕に伝わる衝撃に必死で耐えるジゼル。彼女は再び後ろに飛んで距離を取って体勢を立て直した。すると、後ろから何かが近づく気配がして振り向くと、そこには背を向けるマサシがいた。

「マサシ!」
「そっちも手こずってる様だな」
「ええ、さすが昔のあたし達ね」
「ああ、全くだ!」

お互いの顔を見た後、二人は再び黒い自分達を見て武器を構えた。その直後、黒いマサシとジゼルは二人に向かって黒い竜翼と天使の翼を広げて突っ込んでくる。二人はフッと見て高く飛び上がった。

「速いな!」
「でも追いつけない速さじゃない、いけるわ!」
「ああ!」

二人は正反対の方角へ飛び、再び別れた。黒いマサシとジゼルも二人の後を追う。

「ついて来い!お前が追いついた瞬間、吹っ飛ばしてやるよ!」

そう叫びながらマサシは全力で飛び続ける、黒いマサシも表情を変える事無くマサシの後を追い続ける。そしてマサシは空中で一気に方向転換し、追ってくる黒い自分の方を向いた。

「もらったぁ!!」

振り向いた瞬間マサシは白龍刀を振り下ろした。だが黒いマサシは体を反らしてギリギリで攻撃を避けた。

「なっ!あれを避けただと!?」
「・・・・・・」

予想外の反応にマサシは驚きの声を上げる。その直後、黒いマサシはマサシの脇腹に蹴りを入れる。

「ウグッ!」

脇腹に走る痛みにマサシは歯を食い縛り、そのまま地面に向かって蹴り飛ばされてそのまま叩きつけられた。

「うう・・・・」
「マサシッ!!」

空中から叩きつけられたマサシを見て叫ぶジゼル。そのままマサシに向かって飛んでいく。だがジゼルの隣を同じ速度で黒いジゼルが飛んでいた。

「そんな、もう追いつかれた!?」
「・・・・・・」

一瞬で追いつかれて事に驚くジゼル、そして黒いジゼルは飛んでいる状態で一回転をして勢いをつけ、そのままジゼルの背中に踵(かかと)落としを放った。

「うわぁっ!!」

黒いジゼルの攻撃でマサシの所へ着く前に地面に叩きつけられた。

「う・・・・あ・・・・」

黒いジゼルはゆっくりと黒いマサシの隣まで飛び上がりジッと二人を見ていた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

そして黒い二人はそのまま霧のように消えてしまった。その様子を離れた所で見ていたユグドラとシルドラは立ち上がり小さな竜翼を羽ばたかせて飛び上がった。

「勝負ありだね」
「流石に最後の修練は今までの様には行かないか」

そう話しながら二匹の子竜は倒れているマサシとジゼルの所へ飛んでいき、ユグドラはマサシのそばに、シルドラはジゼルのそばへゆっくりと降り立った。

「大丈夫か、マサシ?」
「うう、ああ・・・・なんとかな」

体中の痛みに耐えながら体を起こすマサシ。離れた所ではジゼルがシルドラと話していた。

「起きれる?」
「う、うん・・・・ありがとシルドラ」

二人はゆっくり立ち上がり落ちている自分の武器を拾ってしまう。そして空を見上げるが、その時には既に黒い自分達は消えていた。

「消えている・・・・」
「失敗だよ」
「え?失敗?」

ジゼルがシルドラの方を見て訊き返す。シルドラは小さな腕を組んで頷く。

「うん、失敗したからアイツ等も消えたんだよ」
「そ、それじゃあ、あたし達負けたって事?」
「そう、また一からやり直しだよ」
「それじゃあ、もう一度・・・・」
「いや、待った」

ジゼルが再挑戦しようとした時、マサシがそれを止めた。

「どうしたの?」
「再挑戦はもう少ししてからにしよう」
「え?でも、早くレベルを上げないといけないのに・・・・」
「落ち着け、さっき戦ってみて思ったんだが、このまま戦ってもまた負ける」
「どうして?」
「気付いてると思うけど、黒い俺は黒龍刀と白龍刀の両方を持っていた、そして黒いお前は黒い天使の翼を生やしていた。つまり・・・・」
「あの二人は契約を交わす前のあたし達、つまり過去のあたし達・・・・」
「そうだ、過去の俺達って事は俺達はアイツ等のどんな攻撃をしてくるかを知っている。だが、それは相手も同じだ」
「相手もこっちの攻撃パターンを知っているって事よね?」
「ああ、だからアイツ等は俺の攻撃を簡単にかわしたり、お前の行動をすぐに読めたんだ」

マサシがさっきの戦いで気付いた事をジゼルに細かく説明し、ジゼルも真剣な表情で聞いている。

「要するに、過去の俺達が知らない戦略を編み出さないと、俺達は勝てないって事だ。だから再挑戦はその戦略を編み出してからってわけ」
「でも、新しい戦略なんてすぐに編み出せるの?」
「時間は掛かるだろうけど、大丈夫だろう。まだ二日あるんだ、焦らず慎重に行こう」
「・・・・そうね、焦ったらうまく行くものも、うまく行かないからね」

少し考えてジゼルは頷いてマサシの考えに賛成した。それを見ていたユグドラとシルドラは二人の肩に下りてきた。

「話は終わったようだね」
「ああ」
「それで、どうするの?」
「あたし達、一度修練を止めて新しい戦略を考える事にしたの。それからまた挑戦するって事になったわ」
「そう。まぁアタイ達はただ見守るだけしかできないけど、頑張りなよ」

マサシとジゼルは肩に子竜を乗せたまま神の精神領域を後にした。





その頃、ラビリアンではゼルキアスの荒野でユウタ達はエミリアと特訓をしていた。

「ハァハァハァ・・・・」

荒野で呼吸を乱しながら立っているユウタ達。そしてそんな彼等を離れた所で見ているエミリア、彼女の手には愛用の大剣が握られていた。どうやら神竜隊はエミリアと模擬戦闘をしていたようだ。

「どうしたのですか?五人で戦っているのに私一人に押されているなんておかしいですよ?」
「ハァハァ、強い、五人挑んでるのにでエミリア様一人に勝てないなんて・・・・」
「私が強いのではありません、貴方達にまだ強くなるための願いと戦略が無いのです」
「戦略?」

エミリアの言葉を聞きコンタは訊き返す。

「そうです、何度も同じ戦法で戦っていれば対処法もすぐに見抜かれてしまいます。まだ誰も知らない新しい戦略も必要なのです」
「戦略・・・・ですか・・・・?」

コンタの隣でシオンがエミリア方を見る。エミリアは黙って頷いた。神竜隊のメンバーは仲間達の顔を見て頷く。そして武器をゆっくりとしまった。

「皆、一度作戦を立て直そう、それからもう一度エミリア様に挑むんだ!」

マサシとジゼル、そして神竜隊はそれぞれ新しい戦略を考える為に一度武器から手を離した。彼等は一体どんな戦略を考えるのだろうか、そして力を得る事ができるのだろうか?


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