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作品名:ラビリアンファンタジー 作者:ディオス

第141回   第百四十話 最後の修練 エミリアの修行

「・・・・・・うう」

ゆっくりと目を開くとユウタの視界に白い天井が入ってきた。彼は今、ロードグラン城の一室のベッドの中にいる、隣を見ると自分と同じ様にベッドで眠るコンタ達の姿があった。デノンでのバジリスクとの戦いに敗れた神竜隊は駐留基地の増援に助けられ、そのままロードグランに運び込まれたのだ。

「ここは確か、ゼルキアスのロードグラン城だったよな・・・・」
「そのとおりです」

声が聞こえてユウタが横を見ると、エミリアが椅子に座って自分を見ている姿が目に入った。

「ここに運ばれてから既に6時間が経っていますが、気分はどうですか?」
「大丈夫です・・・・」
「そうですか」
「あの、コンタ達は?」
「命に別状はありません。貴方が手に入れた解毒剤と契約者、聖天使人の回復力のおかげです」

実は増援部隊がデノンに着いてユウタ達を発見した時、ユウタはまだ意識があり、気を失う直前に増援部隊に解毒剤を渡しておいたのだ。

「目を覚ましてすぐなところを悪いのですが、話していただけますか?あの町で何が遭ったのかを」
「・・・・ハイ」

ユウタはベッドに横になったままバジリスクの事、ヘルデストロイヤー襲撃事件の真相、全てをエミリアに伝えた。

「魔人バジリスク、マサシの言っていたディアボロス直属の戦士。たった一人で契約者と聖天使人を倒すほどの実力を持っているとは・・・・」
「ええ、しかもその魔人がバジリスクを除いて、あと四人もいるんです」
「・・・・・・」
「更に言えば、奴は最後に自分は全力の半分しか出していなかったと言っていました。半分の力であんなに苦戦するなんて・・・・」

自分の弱さに腹を立てるユウタは握り拳を作り、目を閉じて悔しがった。そんなユウタの姿を見たエミリアはゆっくりと立ち上がった。

「とにかく、今はゆっくり休んでください、医師の話ではあと1日は安静にしていろとの事です」
「お、俺は大丈夫です・・・・うぐっ!」

起き上がろうとするユウタ、だが体に走る痛みがそれを妨げた。

「その体で言っても説得力はありませんよ?解毒剤を使って毒は消えてもまだ疲労が残っています。それに貴方以外の神竜隊はまだ眠っています、今は安静にしていなさい」
「・・・・・・ハイ、分かりました」

エミリアの言うとおりし、ユウタは横になって体を休めるのだった。





その頃、覚醒空間では、マサシとジゼルが次の修練を受けていた。今二人は深い森の中を歩いていた。森の中は木と木の間から差し込んでくる僅かな太陽の光だけで上を見ると大きな木の枝や葉で空が見えないくらい覆われていた。そんな森の中で、二人は体に切り傷などがつけ、呼吸も乱れていた。

「ハァハァ、これで何匹目だ?」
「ハァハァ、56匹だよ」

二人が足元を見ると、そこには爬虫類の様な姿をした大きな生き物の死体が沢山転がってた。いや、爬虫類と言うよりも、恐竜と言った方がいいだろう。姿は小型恐竜のヴェロキラプトルに似ている、体の色は恐竜ではまず有りえない黄色い体をしている、黄色い鱗に黄色い皮、そして手足から伸びる鋭い爪に口から生えている牙。大きさはマサシとジゼルより一回り大きい位だ。二人は第三の修練が始まってから森の中でこの恐竜達と戦っていたのだ。しかも第二の修練をクリアしたことで、二人はレベル・3を発動できるようになっている。その証拠にマサシとジゼルの体にはそれぞれ純白の光のラインと薄い黄色のラインが浮かび上がっている。

「なかなかやるよね、あの二人」
「うん、なにしろ第二の修練をあっという間にクリアしちゃったんだから」

マサシとジゼルから少し離れた所ではユグドラとシルドラが木の枝に座り込んで二人の様子を見ていた。

「第三の修練、襲い掛かってくる『軍隊竜 レクセル』を3時間以内に180匹を倒す、だったよね?」
「うん、始まってか1時間、もう56匹まできてるんだもん。驚いたよ」

二匹は二人の勇姿を目にし改めて二人を見直した。しかし180匹とは随分と中途半端な数だ。

「よし、この辺りにはもうレクセルは居ないだろう、ジゼル、移動するぞ」
「うん」

マサシとジゼルはそれぞれの武器を強く握り、森の奥へ走って行った。ユグドラとシルドラも二人の後を追う様に飛んでいった。しばらく森の中を走っていると、マサシが突然立ち止まった。

「どうしたの?」
「居る、数は30匹以上・・・・」
「・・・・・・!」

マサシの言葉を聞いたジゼルはマサシの背後にまわった。二人はお互いの背後を守るように武器を構える。すると、無数のレクセルが木の陰や岩の後ろ、丘の上から顔を出した。完全に二人は囲まれていた。

「囲まれてる、どうするマサシ?」
「そうねぇ・・・・残りは124匹、時間も限られている。短時間で片付けるには分かれた戦うしかないが、二人一緒で、しかもレベル・3の状態でもこれだけ苦戦するんだ、分かれるの危険だ。でも・・・・」

マサシはニッと笑った。すると、マサシの背中から純白の竜翼が生えた。それを見たジゼルは「あっ!」という顔をして何かに気付いた。

「そうか!レベル・3の状態でも翼を出す事もできる、つまり空中から攻撃ができる!」
「そのとおり、戦いでは制空権を握った方が有利に立つ!」

ジゼルは力強く頷き、自分も背中から薄い黄色の竜翼を生やした。そして二人は大きく竜翼を広げて飛び上がった。二人を追う様にレクセル達は顔を上げた。

「ジゼル、一気に行くぞ!」
「OK!」

二人は空中から地上に向かって急降下し、黄色い恐竜達に攻撃を仕掛ける。マサシとジゼルは次の戦いを始めた。そして1時間54分後、二人がなんとか目標の180匹を倒す事に成功した。二人は森を出てすぐに草原に横になった、相当疲れたようだ。

「お疲れさん」

仰向けで横になっている二人を上から見下ろすユグドラとシルドラ。二匹に気付いた二人はゆっくりと体を起こして二匹の方を向いた。

「フゥ、ギリギリ間に合ったぜ。でも、これで俺達はレベル・4になったんだよな?」
「ああ、そうだ。正直驚いたよ、まだこの覚醒空間に入ってから2日しか経ってないのにもうレベル・4になっちまったんだからね」
「そうだね、きっとライディーン様とアナスタシア様もこうなるとは思ってなかったと思うよ」

僅か二日でレベル・4までレベルアップしたマサシとジゼルを見ながら、喋り方は普通だが、内心かなり驚いているユグドラとシルドラ。そして二匹はゆっくりとマサシとジゼルの前に下りてきた。

「次はいよいよ最後の、第四の修練だ」
「次はどんな修練なの?」

第四の修練の話をし始めたユグドラにジゼルが内容を尋ねる。だが、ユグドラはゆっくりと首を振った。

「それはオイラ達にも分からない」
「分からないって、どういう事?」
「最後の修練はお前達二人が最後の力、レベル・5を手に入れるための修練。つまり一番厳しいって事だ。その修練の内容は分からないようになってるんだ」
「それはつまり、修練を受ける時まで内容も成功条件も分からないって事なんだよ」

ユグドラの説明を継ぐようにシルドラが静かな声で説明する。

「要するに、最後の修練に関してはお前達からは一切アドバイスを受けることができない、自分達の力だけでなんとかしろって事か」

マサシの顔を見て二匹はゆっくりと頷く。

「なら、万全な状態で修練を受けられるように、体を休めた方がいいな」
「そうね、とりあえず傷の手当てをしましょう。修練は明日ってことで」
「ああ」

そう言って二人はゆっくりと歩き出して休憩場所へ向かって行った。そして翌日、二人はユグドラとシルドラに連れられて最後の修練の場所へ向かった。

「ここが最後の修練の場所か・・・・」

マサシが修練場を見て少し低い声を出した。彼等の目の前には大きな闘技場のような建物があった。ローマ時代のコロッセオによく似ている。

「ここが第四の修練場『神の精神領域』さ」
「神の精神領域・・・・」

修練場の名を聞いてマサシは嫌な予感がした。だが、だからと言って下がるわけには行かない。マサシはゆっくりと修練場へ向かって歩き出す。ジゼルもそれに続いて歩き出した。ユグドラとシルドラは飛びながら静かについて行く。マサシ達が中に入ると、修練場には何も無かった、ただ広いだけの場所、その真ん中にマサシとジゼルは立っていた。

「何も無いね」
「今までの修練のように何かが襲ってきたり、仕掛けが有るわけでもないらしいな」

二人が修練場の中を見回していると、何処からか低い男の声が聞こえてきた。

「神竜に選ばれし者達よ、よくここまで来た・・・・」
「な、何だ?」
「そこから聞こえてくるの?」

声に驚き二人は再び修練場の中を見回す。そんな中で二人の近くにいたユグドラとシルドラは話をしていた。

「これは離れたほうが良さそうだな?」
「そうだね」

二匹の子竜はマサシとジゼルから離れ、観客用の場所へ飛んでいった。マサシとジゼルは警戒心を強めて白龍刀とメタトロンを構えた。

「もう修練は始まってるって事かな?」
「多分な、とにかく気を付けろよ」
「ええ」

二人が武器を構えると、再び低い男の声が聞こえてきた。

「汝らに与える最後の修練、それは体と心の修練・・・・」
「体と・・・・」
「心の修練・・・・?」
「汝らの前に現れし敵を倒したとき、最後の力を得ることができよう」
「つまり、これから出てくる敵を倒せばレベル・5になれるって事か」
「なんだ、それなら簡単ね、今までの修練のように時間の制限とかが無いもん」
「ああ、でも油断はするなよ」
「ええ、大丈夫よ」

二人が話を終えた直後に、二人の前に黒い柱が現れた。その柱を見て更に警戒心を強めるマサシとジゼル。そして、柱が消えた時、二人の前には、なんと全身黒い服に覆われ、青白い肌をした自分達が立っていたのだ。

「何ぃ!?」
「ア、アレって・・・・あたし達?」

突然現れたもう一人の自分達に驚きを隠せない二人。すると、黒いマサシは腰に収めてある2本の刀を抜いた、恐らく黒龍刀と白龍刀だろう。そして黒いジゼルの手には黒いメタトロンが握られていた。

「汝らの体と心を揺さぶる敵、それは己自身。己自身を乗り越えた時、更なる強さを得ることができよう・・・・」
「コイツ等に勝てって事か・・・・」

マサシが汗を垂らして愚痴る様に言った瞬間、黒いマサシとジゼルが地面を蹴り、二人に向かってきた。そんな彼等を見てマサシとジゼルも咄嗟に構えた。





同時刻、ロードグランの駐留基地では回復したユウタ達がテントの中で席についていた。しかし彼等の顔には明るさが無い、バジリスクに惨敗した事が相当効いてたようだ。

「皆揃いましたね」

テントに入ってきたエミリアを見た神竜隊は全員立ち上がってエミリアの方を見た。エミリアは静かに自分の席につき腰を下ろす。

「座ってください」

エミリアの許可を得た神竜隊は揃って腰を下ろす。彼等の顔を見てエミリアはすぐに気付いた、いつもの明るさが感じられない。

(明らかに元気がありませんね、バジリスクに惨敗した自分達に絶望しているのでしょう・・・・)

テントに入ってから一言も喋らない神竜隊の隊員達。そんな中、コンタが沈黙を破った。

「エミリア様・・・・」
「何ですか?」
「僕達は・・・・弱いのでしょうか?」
「・・・・・・」
「僕達はヘルデストロイヤーとの戦いで自然の四塔(フォースド・ガイア)やUrs(ウルス)の機械兵団を倒したました。でも、今回の戦いで僕達はバジリスクに惨敗した・・・・。僕達は弱いのでしょうか?」

コンタの話を黙って聞くエミリア。そしてコンタの周りでは、黙って俯くシオン、机に膝を付き頭を抱えるような体勢のネリネ、目を閉じて腕を組んだまま黙っているレイナ、そして目を閉じて握り拳を作るユウタがエミリアの目に飛び込んでくる。するとエミリアは真剣な表情でゆっくりと立ち上がった。

「それは違います。貴方達は十分強いです、力だけでなく心も。ですが、貴方達にはまだ足りない物があります。それを見つけない限り、この先何度魔人に挑んでも貴方達は勝てないでしょう」
「足りない物?」
「強くなりたいという意志です。敵に勝ちたい、誰かを守りたい、生きたいという強く願う意志が足りないのです」
「意志・・・・」

コンタはエミリアの口にした言葉を繰り返す。そして周りのユウタ達もエミリアの方を向いた。

「そこで、私から一つ提案があります・・・・・・。皆さん、私の直々の修行を受けてみませんか?」
「「「ええっ!?」」」

その場にいた神竜隊は声を揃えて驚いた。それもそのはず、なぜなら神竜隊の中でエミリアから直接修行を受けたの事があるのはマサシだけなのだから。

「私の修行を受ければ、もしかすると貴方達は新たな意志と強さを見つける事ができるかもしれません。どうしますか?」

しばらくの沈黙、そしてその沈黙を最初に破ったのはユウタだった。ユウタは席を立ちエミリアの方を向いて言った。

「エミリア様、お願いします!」

ユウタに続いてレイナも立ち上がった。

「私も受けます」

そして残ったコンタ、シオン、ネリネの三人も立ち上がってエミリアの顔を見て。

「僕も受けます!」
「私も!」
「エミリア様、お願いします!」

暗さが無くなり、彼等の顔には強い意志が戻ってきた。それを見たエミリアは優しい笑顔を見せた。

「分かりました。ではさっそく始めましょう、準備を始めてください」
「「「ハイ!」」」

マサシとジゼルはレベル・5になる為の最後の修練、ユウタ達は強い意志と力を得る為にエミリアの修行を受ける。彼等は新しい強さを得ることができるのだろうか?


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