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作品名:ラビリアンファンタジー 作者:ディオス

第140回   第百三十九話 毒を掻き消せ!渾身のウインドグレネード!

コンタ、シオン、レイナ、ネリネの四人が倒され、神竜隊もユウタ一人になってしまった。毒まみれの仲間の姿を見てユウタの顔から次第に焦りが現れ始めた。バジリスクはそれを見てニヤリと笑う。

「どうした、仲間がやられた姿を見て怖気づいたか?」
「ふ、ふざけるか!誰が・・・・」
「声が震えているぞ?」
「ッ!!」

痛いところを突かれたバジリスクを睨むユウタ。彼は腰のバックパックに手を入れて新しいチャクラムを取り出し指で回した。

(戦いでこれまで敵を恐ろしいと思ったのは初めてだ。コイツ、ゾーク並に強いのか・・・・?)
「・・・・そうだ、冥土の土産にいい事を二つ教えてやろう」
「いい事?」

突然のバジリスクの言葉に訊き返すユウタ。そしてバジリスクはゆっくりと親指で自分を指した。

「まず一つは俺の事だ。俺はディアボロス様、ルシフェル様直属の暗黒戦士、魔人の一人だ」
「ま、魔人だと!?」

レイナと同じ様に魔人の言葉を聞いたユウタは驚き、チャクラムを回している指を止めた。

「フフフ、レイナ・スズキも同じ様に驚いた、お前達のその表情を見ていると俺は晴々とするぜ」
「お前がマサシの言っていたディアボロスとルシフェルが作り出した魔人だったのか・・・・」
「ああ、そうだ。ちなみに俺以外にもあと四人の魔人はいるぞ」
「何っ!よ、四人だと!?」

バジリスクと同じ魔人があと四人、これにもユウタも思わず声を出してしまった。

「俺達魔人は元々お前達神竜隊を倒すために生み出された存在だ。だからお前達の攻撃パターンなども全て把握している」
「クッ!から五対一でもこんなに俺達(こっち)が不利だったって訳か・・・・」

魔人の秘密と強さを知り、恐ろしさと悔しさにユウタは歯を食い縛る。

「そしてもう一つは、コレだ」

バジリスクは右手をユウタの前に出した。バジリスクの手には掌サイズの茶色い瓶が乗っていた。

「・・・・薬瓶?」
「そうだ、この瓶の中には俺の毒を消すための解毒剤が入っている」
「何だと!」

解毒剤、その言葉を聞いたユウタは表情を急変させた。

「コイツを体に掛ければ毒は完全に消える。もしお前が俺に勝つ事ができれば、お前はこの解毒剤を手に入れ、仲間達を救う事ができるぞ?」
「・・・・・・」
「フッ、安心しろ偽物じゃない、本物の解毒剤だ」

疑うようにジッとバジリスクを見るユウタに対し鼻で笑い本物だと告げるバジリスク。

「なぜ解毒剤の事を俺に教えた?」
「そうすればお前も少しはやる気を出してくれると思ったからだ。ただそれだけだ」
「それは挑発か?」
「挑発であり、そして挑発ではない。俺はただ全力のお前と戦いたいだけだ。どうする?」

バジリスクが魔人だと分かった以上、できるだけ魔人との戦いは避けたい。だがコンタ達は既に毒に犯されている、見殺しにはできない。ユウタは鋭い表情をし再びチャクラムを回しだした。

「お前を倒して、その薬瓶を手に入れてやる!」
「フフフ、それでいい。もっとも、俺を倒す事ができたらの話だがな」

そう言ってバジリスクは薬瓶を懐にしまった。それを見たユウタは大きく後ろに跳び、二つのチャクラムをバジリスクに向けて飛ばした。しかしバジリスクは動くことなく両手をチャクラムに向ける。そして手から毒が分泌され手を被う様に広がりその手で飛んできたチャクラムをキャッチした。だがバジリスクの手は毒で被われているため斬れる事はない、それどころかチャクラムは毒に触れた瞬間に腐食しだした。そして回転を止めてゆっくりと地面に落ちた。

「クッ!やっぱり効かないか・・・・」
「愚かな、俺にはそんな物は効かない。月本コンタとレイナ・スズキの銃撃が効かなかった時点で理解しているはずだが?」

距離を取ったユウタは両手を顔の前まで持っていき上段構えを取る。そんなユウタの姿を見てバジリスクは大きく口を開けて笑った。

「ハハハハッ!俺と素手でやり合う気か?それこそ愚かな行為だぞ?」
「只のパンチなら確かに愚かだ・・・・」
「ん?」
「だが、これならどうだ!」

ユウタは大声を出した直後、ユウタの両手が風を纏いだした。そしてその風はユウタの腕の周りをもの凄い勢いで回りだし。

「ほぅ、風の篭手か」
「これならお前の毒に触れることなく攻撃できる!」

ユウタは地面を力強く蹴りバジリスクに向かって走り出す。バジリスクもユウタを見て手を被っていた毒を掌に集めて槍の形に変える。だが攻撃しようとした時にはユウタは既にバジリスクの目の前まで来ていた。

「遅い!ウインドグレネード!!」

風を纏った腕でバジリスクにパンチを放つユウタ。だがバジリスクは焦った様子も見せずに一歩下がった。するとユウタのパンチはバジリスクに掠ること無く終わった。

(何!?避けられた?一歩下がっただけじゃ避けられない距離まで近づいたんだぞ?)

ユウタは心の中で驚きの声を上げながら表情を変えた。攻撃が当たらなかった事にかなり動揺しているようだ。ユウタの表情を見てバジリスクは静かに言った。

「どうした?何を驚いている、感覚浸食の霧はお前達の五感を狂わせる。五感が狂っているという事は方向感覚や距離感覚も狂っているという事だ、忘れたのか?」

驚いたユウタは大きく後ろに跳び、再びバジリスクから距離を取った。だがバジリスクはユウタを逃がさなかった。

「逃がすか、ヴェノムジャベリン!」

両手の毒の槍をユウタに向かって投げるバジリスク。ユウタは咄嗟にバックパックから新しいチャクラムを取り出し、飛んで来る毒の槍に向かって投げた。ところがチャクラムは毒の槍に当たる事無く横を通過した。

「なっ!?」
「言っただろ?方向感覚と距離感覚が狂っていると!」

バジリスクがそう言った瞬間、毒の槍はユウタの両脇腹を掠った。

「ぐわああぁ!!」

脇腹から全身に走る激痛にユウタの叫び声が町に響く。そしてユウタは叫びながら仰向けで地面に叩きつけられた。

「う、うう・・・・何だこの痛みは・・・・・・」

倒れたまま顔を上げたユウタは歯を食い縛り、自分の脇腹に付着している毒を見た。毒からは微かに煙が上がり、何かが焼けるような音が出ている。

「微量でそれほどの激痛が襲い掛かるんだ、全身に浴びたら大変だな?」

倒れている自分を見下ろして笑いながら言うバジリスク。そしてそんなバジリスクを倒れたまま睨むつけるユウタ。

「ク、クソォ・・・・」

痛みに耐えながら体を起こすユウタ。それを見たバジリスクは再び毒を分泌し、新しい槍を作った。

「まだやる気か?」
「あ、当たり前だ・・・・、お前に勝たなくちゃ、解毒剤は手に入らないんだからな・・・・・!」
「止めておけ、お前は感覚浸食の霧で五感が狂っている、更に毒を受けてお前の体は激痛に襲われ、戦力は削がれている。大人しく俺に殺されろ」
「お断りだ!」

痛みに耐えながらユウタはバジリスクに怒鳴る。バジリスクはユウタを見て目を閉じ、やれやれと言いたそうな顔をした。

「うう・・・・勝負はこれからだ!」

ユウタは立ち上がり、右腕に風を纏わせ、左腕は脇腹の近くで震えていた。

「それはさっきやって当たらなかった事をもう忘れたか」
「さっきはお前が一歩下がったから当たらなかったんだ、今度は逃がさない!」

地面を蹴りバジリスクに向かって走っていくユウタ。バジリスクはそれを見て両手の槍を投げつけた。それを見た直後にユウタは横へ動いて回避行動を取った、まだ距離はかなりある筈なのに。だが次の瞬間、毒の槍はユウタの横を通過した。

「避けた?」

攻撃を避けたユウタを見て一瞬驚くバジリスク。

(成る程、感覚が狂ったことを考えて速く回避行動を取ったってことか)

バジリスクが驚いている中、ユウタは再びバジリスクに向かって走り出す。そしてバジリスクにぶつかるギリギリの所まで近づいた。

「ウインドグレネード!!」

そして右ストレートを放つユウタ。だが今度は前とは少し違っている。バジリスクの顔には余裕の表情は無く、驚きの表情があったのだ。バジリスクは体をずらしてなんとかユウタのパンチを避けた、だがユウタの腕に纏っている風は刃となりバジリスクの頬を切った。

「!?」

自分に傷を付けたユウタに驚いたのか、今度はバジリスクが大きく後ろに跳んで距離を取った。

「・・・・驚いた、その状態で俺に傷を負わせるとはな」
「それだけじゃないぜ・・・・」
「何?」

ユウタの言っている事が分からないバジリスクはユウタをジッと見た。すると、ユウタの左手には解毒剤の入った薬瓶が握られていた。

「それは!」
「驚いたか、さっき右手でウインドグレネードを放った時、お前に気付かれないように左手で懐から解毒剤を奪わせてもらったんだよ」
「・・・・・・」
「それからもう一つ、俺はお前の弱点を見つけた」
「弱点だと?」
「そうだ、お前にダメージを負わせる唯一の方法だ」
「面白い、聞こう」
「お前は自分の体から毒を分泌して攻撃をしたり防御をしている。ハッキリ言ってお前の毒を使った攻防は恐ろしい、だが、逆に言えば毒を使わなければお前は俺達と大差は無いという事だ」
「フフフ、言ってくれるな。それで、それがどうした?」
「毒を使っていない状態のお前になら普通に攻撃してもダメージを与える事が可能というわけだ。現にお前はさっきの俺の攻撃で毒を分泌していない顔を切っている」

バジリスクの弱点を短時間で見抜いたユウタを見て、バジリスクは突然笑い出した。

「フハハハハッ!驚いた、まさかこんなに早く見抜くとはな!」
(・・・・何だコイツ、自分の弱点を見抜かれたのに笑っている?)

バジリスクの意外な反応に理解できずに首を傾げるユウタ。そして笑うのを止めたバジリスクはユウタの方を見た。

「見事だ金山ユウタ。俺に傷を負わせた上に解毒剤まで手に入れるとは」
「・・・・・・」
「だが、知ってるか?今まで俺は全力の50%の力しか使っていなかったって事を?」
「何?」
「要するに、俺は今まで本気で戦って無かったってことだ」
「負け惜しみなんて見苦しいぞ?」
「これでも負け惜しみと言えるか?」

次の瞬間、バジリスクはユウタの視界から消えた。

「き、消えた!何処だ!?」

ユウタは辺りを見回すが何処にもバジリスクの姿は無い。その時、突然背後から声が聞こえてきた。

「言っただろう?今までは50%しか出していないと」
「なっ!?」

ユウタが後ろを向くと、そこには右腕を毒の腕に変えているバジリスクが立っていた。

「これで終わりだ」
(クッ!ダメだ、避けられない!!)
「ヴェノムアーム!」

バジリスクの毒の腕がユウタを襲う。そして、ユウタは毒に飲み込まれた。

「・・・・・・金山ユウタ、たったこれだけの時間で俺の弱点を見抜くとは大したガキだ」

毒まみれになり、倒れて痙攣をしているユウタを見下ろしてバジリスクは独り言を言っていた。そしてユウタの近くには解毒剤の入った薬瓶が転がっている。

「ぐう・・・・うう・・・・・」
「その解毒剤、お前達にくれてやる。もし助かったらその時はまた相手をしてやるぜ、じゃあな」

そう言い残しバジリスクは倒れているユウタに背を向けて立ち去った。それから10分後、ロードグラン駐留基地から来た増援によりユウタ達は助けられたのだ。


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