バジリスクの毒に触れてしまったレイナとネリネ。二人の全身に体が裂けるような激痛が走る、そして町に二人の叫び声が響いた。
「!?」 「今のはレイナとネリネの・・・・!?」
合流したコンタとシオンがレイナとネリネの叫びに気付いてフッと顔を上げる。
「まさかバジリスクに・・・・」 「多分そうかもしれないわ・・・・」 「行きましょう!相手はディアボロスの眷属です、あの二人でも勝てないかもしれない」 「そうね、急ぎましょう!」
コンタとシオンは出入口の方向へ全力で走った。その途中でシオンは無線機でユウタに連絡を入れて彼の状況を手短に伝えたのだった。そして同時刻、宿屋の屋上では腕に付着している毒から煙が上がり、レイナとネリネは激痛に襲われていた。
「ぐ、ぐぅ・・・・!」 「うう・・・・」
僅かな毒で予想以上の痛みを全身に受けた二人は必死でその痛みに耐えていた。そんな二人をジッと見ているバジリスク。
「どうだ、俺の毒をその身に受けた感想は?」
痛みのせいかバジリスクの声に反応する様子を見せない二人は膝を付き俯いたまま歯を食い縛っていた。
「激痛だろう?気の毒に」 「ク、クソ・・・・」
大量の汗を掻き顔を上げてバジリスクを見上げるレイナは落ちているSAAを右腕で拾ってバジリスクを狙うが、右腕は毒の痛みで狙いが定まらない。
「その腕では銃を握るので精一杯だろう。撃てばその衝撃で腕に更なる痛みが走るぞ?」 「それなら左で・・・・」
レイナはホルスターに納めてあるもう一丁のゴールドエングレーブのSAAを抜こうとしたが、バジリスクはそれを許さなかった。膝をついているレイナの胸に蹴りを入れて彼女を仰向けに倒した。
「グワッ!」 「馬鹿め、無駄な抵抗はよせ。お前達では俺には勝てん」 「そ、そんな事、やってみなければ分からない・・・・」
必死で起き上がろうとするレイナは毒で言う事を聞かない腕を必死で動かしていた。だがその度に彼女の右腕に激痛が走り続ける。
「・・・・・・ッ!!」 「フッ・・・・」
バジリスクは一歩ずつレイナに近づき右手から毒を分泌して槍を作った。
「光栄に思え、魔人の手で命を絶たれるのだからな」 「!?ま、魔人・・・・だと・・・・?」
自分が戦っている相手が魔人、それを知ったレイナは起き上がり、目の前にいるリザードマンを見上げていた。
「以前マサシが言っていたディアボロスとルシフェルの直属の戦士か?」 「そうだ、俺達魔人の力はお前達を遥かに上回る。お前達に万に一つの勝ち目もない」 「お前が・・・・魔人・・・・・」 「これ以上話す事はない。死ね」
そう言ってバジリスクは毒の槍をゆっくりと上げる。だがその時、バジリスクの背後から一つの影が現れた。それは片腕で騎士剣を振り上げ、銀色の翼を広げたネリネだった。
「ハアッ!」 「ん?」
フッとバジリスクが後ろを見た瞬間、ネリネは騎士剣で横に振った。だがバジリスクは毒の槍でネリネの騎士剣を止める。そして騎士剣の刀身が煙を上げて腐食し始めた。だがネリネは騎士剣を捨てて回り込む様に飛んでバジリスクの背後にいるレイナに近づいた。
「レイナ、掴まって!」 「ネリネ!」
自分に向けて伸ばすネリネの手を見てレイナは咄嗟に手を伸ばしてネリネの手を掴んだ。その直後、ネリネは銀色の翼を大きく羽ばたかせて飛び上がり屋上から離れた。
「逃がすか!」
バジリスクは再び毒の槍を作り、離れていくネリネの背後に向かって槍を投げた。槍はネリネの翼に命中し煙を上げだした。
「うわぁーーーー!!」
翼から体に伝わる痛みに苦痛の叫びを上げるネリネはバランスを崩し真っ逆さまに地上へ落下した。
「うわっ!」 「キャアア!」
地面に叩きつけられるように宿屋の前に落下したレイナとネリネは転がっていき、しばらくして動きを止めた。
「うう・・・・ネ、ネリネ、大丈夫か?」 「ううう・・・・」
倒れたままネリネの安否を確かめるレイナはネリネの方を見た。彼女の目の前には白銀の翼に濃緑色の毒が付着し、その痛みにうつ伏せのまま耐えているネリネが飛び込んだ。
「クッ!このままではやられる、早くユウタ達に連絡を・・・・」 「その必要はない」 「!!」
突然聞こえてくる声にレイナはフッと顔を上げと、そこには毒の槍を両手に持って自分を見下ろすバジリスクの姿があった。
「お前達はここで終わるのだ、連絡を入れる必要は、ない!」
そう言ってバジリスクは毒の槍をレイナに向かって振り下ろした。
一方コンタとシオンは出入口に続く大通りを全力疾走していた。
「もうすぐ出口付近だわ」 「確かレイナとネリネは宿屋の屋上にいるって言ってましたよね」 「ええ、その近くにバジリスクもいるはずよ!急ぎましょう!」 「ハイ!」
二人はレイナとネリネに合流するために更に速度を上げる。だがその時。
「急いで何処へ行くんだ?」 「「!!」」
声に驚き足を止める二人。振り返ると、そこには建物の壁にもたれて腕を組んでいるバジリスクがいた。
「バジリスク!」 「これで四人だな」
バジリスクはゆっくりと二人に近づいてくる。コンタとシオンはファイブセブンと大型ナイフを取り構えた。
「どうしてアンタがここにいるのよ!レイナとネリネは!?」 「ああ・・・・あの二人なら今頃俺の毒を浴びて眠っているだろうよ」 「「なっ!!」」
宿屋の手前ではレイナとネリネが全身に毒を浴びて倒れている。二人はピクリとも動かない、だが微かに声が聞こえる。どうやら死んではいない様だ。コンタとシオンは汗を垂らしながらバジリスクを睨んでいる。
「あの二人が負けるなんて・・・・」 「そんな事があるの・・・・?」
二人が敗れた、信じられない事にコンタとシオンは震えるような声で喋っている。
「次はお前達の番だ、覚悟はできてるか?」
バジリスクは両手から再び毒の槍を作りだしコンタとシオンを見て構えた。
「コンタ、離れて!」
二人はバジリスクを見て大きく斜め後ろに跳んで距離を取った。ちなみにコンタは斜め右後ろに、シオンは斜め左後ろに跳んだ。
「離れても俺の毒からは逃れられねぇぞ!ヴェノムジャベリン!」
バジリスクは二人に向かって毒の槍を投げつける。二人は自分達に迫ってくる槍を見て着地した直後に今度は横へ跳んで毒の槍を回避した。
「このぉ!」
シオンはバジリスクに向かって呪符を投げつけた。だがバジリスクは素早く左手から再び毒を分泌させ、その毒を球状にし呪符に投げつけた。毒に触れた直後に呪符は腐食しだし消滅した。
「これならどうだ!」
シオンの反対方向からコンタがファイブセブンをバジリスクに向ける。
「妖狐気功弾(ようこきこうだん)!!
コンタが引き金を引くと銃口から弾丸が放たれ、その弾は青白い気に包まれ、狐の形に変わりバジリスクに迫った。
「くだらない」
バジリスクは右手を手刀の形にし、目の前まで迫ってきたコンタの気功弾をその手で払った。それと同時に気功弾もまるで霧を掻き消すように消えた。
「か、掻き消された!?」
自分の気功弾を只の手刀で掻き消したバジリスクを見て驚きを隠せないでいるコンタ。だがよく見るとバジリスクの右手は何らや紫色の霧のような物を纏っていた。
「あれは・・・・」 「猛毒の魔刀。ありとあらゆる物を腐食させる事なく切り払う事ができる毒の剣だ」 「うう・・・・」 「惜しかったな?毒を分泌させる間を与えないようにするつもりだったようだが、俺には通用しない」
悔しがるコンタを見ながらあざ笑うように言うバジリスク。だがその時、コンタの方を向いていたバジリスクの背後からシオンの声が聞こえてきた。
「随分余裕あるじゃない、背中ががら空きよ!」
シオンが大型ナイフを握りバジリスクの背中に向かって全力で走り一気に間合いを詰めようとする。だが・・・・。
「本当にお前等は甘いな」
そう言ってバジリスクは左手で持っているの何かを背後のシオンに向かって投げつけた。よく見るとそれは毒の槍だった。突然のバジリスクの攻撃に驚いてすぐに反応できなかったシオンはその槍をまともに受けてしまった。
「うわぁーーーー!!」
体に走る激痛にシオンは叫びを上げる。彼女はそのまま地面に叩きつけられて倒れてしまった。
「シオン姉さん!!」 「お前の事を忘れて何の準備もしてなかったと思っていたのか?そこのガキと会話している間に新しい毒を分泌しておいたんだよ」 「・・・・ッ!クッソー!」
今度は自分に背を向けているバジリスクにコンタが発砲した。だがバジリスクは大きくジャンプをし、まるでバク転をする様に跳んでコンタの背後に着地した。
「ヤバイ!」
背後を取られたコンタは慌ててバジリスクから距離を作るように跳んだ。だが、バジリスクの右手には既に新しい毒の槍が握られており、それを見たコンタは驚いた。
「いつの間に!?」 「お前の頭上を跳んでる時だよ、ヴェノムジャベリン!」
バジリスクはコンタに向かって毒の槍を投げつけた。跳んでいる最中なのでコンタには回避の術がなかった。
「ハァハァハァ!間に合ってくれ!」
コンタ達のいる所へ全力で走っているユウタ。ユウタはシオンからの無線を聞いた後に全力で出入口に向かっていたのだ。そして彼が出入口に続く大通りに足を踏み入れた瞬間、ユウタは足を止めた。
「!!」
ユウタの目の前にレイナ、ネリネと同じ様に全身に毒を浴びて倒れているコンタとシオンがいたのだ。
「コンタ!シオン!」
ユウタが二人の下へ駆け寄ろうとした瞬間、彼の足元に二本の毒の槍が刺さった。
「何!?」 「チッ、外したか」 「!?」
ユウタが声をする方を見ると、民家の屋根の上に座って自分を見下ろしているバジリスクがいた。
「バジリスク、お前が二人を!?」 「ああ、そのとおりだ。あとレイナとネリネとか言う女共も片付けた」 「な、何だって・・・・」
レイナ、ネリネに続きコンタ、シオンまでもが魔人であるバジリスクの前に倒れてしまった。残された神竜隊もユウタ一人、一体どうなってしまうのだろうか!?
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