マサシとジゼルが覚醒空間に入った日の翌日、ユウタ達はヘルデストロイヤーの多くの残党達が襲われたゼルキアスのロードグランの駐留基地に居た。彼等はマサシとジゼルが覚醒空間に入った後に支度をしてそのままゼルキアスへ向かったのだ。
「以上が昨日入った新しい情報です」
午後2時、ロードグランの駐留基地のテントの中で席についている神竜隊がライトシンフォニアの傭兵達から情報を聞いていた。
「やはり全ての残党が猛毒による毒殺か・・・・」 「ハイ、そしてその毒が先日にネリネ隊長が発見した毒殺死体の毒とこれまで発見された毒は全く同じ毒でした」
顎に手をつけて考え込むユウタに毒が全く同じ事を伝える傭兵。すると、コンタが傭兵に尋ねてきた。
「すいません、その毒の解析はできたんですか?」 「いえ、解析できたのは殺傷力だけでした。調べた結果、信じられない程の殺傷力を現していました」 「毒の成分までは解析できなかったのですね・・・・」 「ハイ・・・・」 「と言う事は当然解毒剤も・・・・」 「ええ、完成していません」
解毒剤が完成していない。いつかはその眷属と戦う時が来る、その事を考えた神竜隊の一同は静まり返った。すると、一人の傭兵がテントに飛び込んできた。
「失礼します!」 「どうした?」
慌ててテントに飛び込んできた傭兵を見てユウタ達はフッと傭兵の顔を見た。
「報告します!先ほどロードグランの南西にある『デノン』が何者かの襲撃を受けました!至急応援よこす様にと連絡が入りました!」 「なんだと!」
報告を聞いた傭兵は席を立ち報告をした傭兵を見た。
「ネリネ、デノンとはなんだ?」
レイナが隣に座っているネリネに尋ねると、ネリネは真剣な表情で答えた。
「デノンはロードグランの南西にある町の名前よ。王都の近くにある町の中でもデノンは軍人の町とも言われているくらい戦力が高い町なの、でも前に私が調査に来た時にライトシンフォニアの部隊が送られたって聞いたんだけど・・・・」
ネリネが話していると、傭兵が彼女の話を継ぐように話し出した。
「ハイ、その時にデノンには一個中隊を派遣しました。」 「その一個中隊が派遣されている町が襲撃を受けた・・・・・。おい、その町を襲撃した敵の情報は無いのか?」
レイナが報告してきた傭兵に敵の事を尋ねると、傭兵はレイナの方を向いて口を開いた。
「ハ、ハイ!未確認ですが、敵は何やら毒物の様な物を使ってくると、報告を受けました」 「「「!!」」」
神竜隊全員が驚き表情を急変させた。
「まさか、エクス・デストロの眷属?」 「でもどうしてデノンを?奴等はこれまでヘルデストロイヤーしか襲ってないはずだよ?」 「さぁな、もしかしたら、デノンにヘルデストロイヤーの残党が隠れていたのか、それともただの無差別な襲撃か・・・・」
ユウタとコンタがなぜデノンの町を襲ったのかと理由を考えていると、レイナがゆっくり立ち上がった.
「それは行ってみれば分かる」 「そうね」
レイナの言う事に同意したシオンも立ち上がり、報告に来た傭兵に言った。
「その応援には私達神竜隊が行くわ、すぐに行くから持ち応えてと、そうデノンの人達に伝えて」 「ハ、ハイ!」
傭兵は慌てるように敬礼をしてテントを後にした。そしてそのすぐ後に神竜隊の隊員全員が立ち上がった。
「よし、急いでデノンに行くぞ!皆、5分以内に支度をして入口に集合だ!」
ユウタは適確に指示を出し、コンタ達も黙って頷き一斉にテントの外に出た。それから5分後、ユウタ達は準備を終えて入口に集合した。
「全員揃ったか?」 「ええ」 「いつでも行けるよ」
シオンとコンタが準備完了を伝えると、ユウタはそれを確認し、全員は用意していた装甲車に乗り込んだ。
「よし、急いでデノンに向かうぞ!とばすからしっかり掴まってろよ!」
そう言ってユウタはアクセルを踏んで装甲車を全速で走らせた。
その頃、覚醒空間でも夜が明けて明るくなっていた。そしてマサシとジゼルは修練を終えて木陰で休息を取っていた。
「んむんむ、・・・・美味しいね、この木の実」
ジゼルは手にしている黄色の木の実を見ながら口を動かしていた。
「それは『リームの実』って言って一つで一日に必要な栄養を摂ることができるんだ」 「へぇ〜、コレ一つでなぁ・・・・」
マサシとジゼルの前にチョコンと座っているユグドラの説明を聞き、マサシは残った実を口に入れながら驚いた。
「それにしても驚いたなぁ、まさか修練を始めてからたったの6時間でレベル・3になっちまったんだから」
ユグドラがアッサリとレベルを上げた二人を見ながら驚きと感心の言葉を口にした。実はマサシとジゼルは朝に目を覚ました後、簡単な朝食を済ませて次の修練を始め、5分前にクリアしてしまったのだ。
「普通はこの修練でレベルを上げる為に消費する時間は最低でも10時間は必要なのに、それをたったの6時間で次の修練に進めるほどにまでなるとはね、アタイ達も驚きだよ」
ユグドラに続いて隣で座っているシルドラも感心していた。そして、どこか嬉しそうな感じも見える。
「昨日とはえらい違いだ、この分だと直ぐにレベル・5になるかもな」 「ああ、ありえるかもね」
二匹の子竜がお互いの顔を見合って頷きながら話している。そんな時、マサシが青空を見上げながら静かな声で言った。
「今頃コンタ達、何してるんだろうな・・・・」 「うん、ちょっと気になるよね」
マサシと同じ様に空を見上げながら仲間達の事を思い出すジゼル。
「あたし達がいない間にディアボロス達が問題を起こしていなければいいんだけど」 「ああ。でも、あっちにはコンタ達が居るんだ、アイツ等は今の俺達と違ってレベル・5だ。簡単には負けはしないさ」 「うん、そうだよね」 「・・・・分からないぞ」
二人が話していると、ユグドラが低い声を出した。
「「え?」」
ユグドラの言った事がよく分からないマサシとジゼルが声を揃えてユグドラの方を見た。ユグドラは二人の見上げて低い声のまま話を続けた。
「今あっちの世界では厄介な奴等が動いている。お前達、覚えているか?ヘルデストロイヤーの残党どもを襲っているエクス・デストロの眷属の事を?」 「ああ、エミリア様から聞いたぞ」 「その眷属がどんな奴等か分かるか?」 「え?どんな奴等?」
ユグドラのいう事がいまいち理解できないマサシはユグドラに尋ねる。マサシの隣に居るジゼルも気になっているようだ。すると、ユグドラの隣に座っていたシルドラが口を開いた。
「その眷属は、魔人なんだよ」 「「!!」」
魔人、その言葉を聞いたマサシとジゼルの表情が凍りついた。虚無宇宙(ゼロスペース)でディアボロスとルシフェルの部下を名乗った魔人タツノスケの事を思い出したのだ。するとジゼルは少し低い声でシルドラに尋ねた。
「どうして貴方達がそんな事を知ってるの?」 「アタイ達は覚醒の雫が発動した時にその世界の現状を少しだけ知る事ができるんだ。だから詳しくは分からないけどね」 「そう。・・・・できればもっと詳しく教えてくれる?貴方達の知る範囲でいいから」 「ああ、教えてくれ」
マサシもジゼルに続いてシルドラに頼んだ、すると、シルドラは悩むことなく話を続けた。
「ああ、いいよ。元々お前達に教えるつもりだアタイもユグドラも話したんだからね」 「そうだ、だからオイラ達の知っている事は全て教えてやる」 「ありがとう」 「ありがと」
話をしてくれる二匹の子竜に礼を言うマサシとジゼル。そして二匹の子竜は静かに話を始めた。
「今ラビリアンでヘルデストロイヤーを襲っているのはタツノスケじゃない」 「え?」 「タツノスケ以外の別の魔人がラビリアンに居るんだよ。そいつの名は『バジリスク』・・・・」 「バジリスク・・・・・・」
新しい魔人の名をゆっくりと口にするマサシ。そして二匹は再びゆっくりと話し出した。
「実力はタツノスケとほぼ互角。奴の攻撃手段は自分の体から分泌される毒を使った攻撃だ」 「そしてタツノスケの攻撃手段はマサシと同じ剣術、タツノスケの攻撃手段を剣術だけだと考えるのなら、厄介なのはバジリスクの方かもしれないね」 「なっ!あ、あのタツノスケとほぼ互角・・・・?」
マサシは前にタツノスケが日本刀を自分の首筋に付けた時の事を思い出し、首にそっと手を付けた。
「もし今の金山達が奴と戦った場合、例え神竜隊全員で挑んだとしても、金山達が勝つ確率は・・・・ゼロだね」 「「・・・・・・・!」」
マサシとジゼルはバジリスクの話を聞いて言葉を失ってしまった。タツノスケよりも強いと言われるバジリスク、今の二人にはユウタ達がそのバジリスクと遭遇しない事を祈る事しかできなかった。
一方、ラビリアンではユウタ達がデノンに向かって装甲車を走らせていた。凸凹道をもの凄いスピードで走り、その衝撃で車内は大きく揺れている。
「皆、舌を噛まないように口閉じてろよ!」
ユウタはコンタ達に口を閉じるように言って更に深くアクセルを踏んだ。それから数分装甲車を走らせると、デノンの村が見えてきた。だが、よく見ると村の彼方此方から煙が上がっているのが見える。
「村から煙が!」 「遅かったか!?」 「とにかく急ぎましょう!」
村を見て神竜隊は急いでデノンに向かった。そしてデノンの入口の前に着いた神竜隊は装甲車から飛び降りて村に入っていった。村に入った瞬間、神竜隊は自分達の目を疑った、目の前にはライトシンフォニアの仲間達、ゼルキアスの兵士達、村の人達の死体が転がっていた。しかも全員が濃緑色の液体を全身に浴び、苦しそうな表情をしていた。
「ひ、酷い・・・・」 「やはり遅かったか・・・・」
村の有様を見てシオンとレイナは目を閉じた歯を食いしばった。そんな二人を見てコンタは二人を見上げて言った。
「まだ分かりないよ、もしかして生き残っている人がいるかもしれない。村を調べよう!」 「コンタの言うとおりだ、とにかく村を調べよう!」
コンタと言う事に賛同してユウタも力強い声で言う。そんな彼を見てコンタとネリネ、そして悔しがっていたシオンとレイナも目を開いて頷く。彼等は一度装甲車に戻り武器を取り、ロードグランの駐留基地に連絡を入れて村の捜索を始めた。村を見回すと入口付近と同じ様に毒まみれの死体が転がっている。
「しかし、どうなってるんだ?この村の兵力はライトシンフォニアの部隊を含めても100人はいる、簡単にやられる筈がない・・・・」 「それだけこの村を襲った奴等は強いって事だね」
ユウタとコンタは村の現状を見て村に何が遭ったのか考えながら進んでいくと、神竜隊は大きな広場に出た。その時・・・・。
「お前達が神竜隊か」 「「「!」」」
突然広場に響く声に神竜隊は一斉に辺りを警戒した。すると広場の真ん中に何者かが空から下りて来た。よく見ると、それは人ではなく、蜥蜴だった。いや、リザードマンと言うべきだろう。騎士の鎧を身の纏い、全身が紫色の鱗で被われている。そして爬虫類の目、口から生える鋭い牙、そして手足から伸びる爪、まさに蜥蜴人間だ。
「な、何アイツ!」 「リザードマンって奴じゃないの?」
突然目の前に現れたリザードマンを見て驚くネリネとシオン。そしてリザードマンはゆっくりと神竜隊の方を見た。
「やっと会えたな。お前達をおびき出す為にかなりの数にヘルデストロイヤーの残党を殺したんだぜ」 「俺達をおびき出す為に・・・・?」 「ああ。そう言えばまだ名を名乗っていなかったな。俺の名は、バジリスクだ」
バジリスク、ユグドラとシルドラが言っていたもう一人の魔人がユウタ達の目の前に現れてしまった。マサシとジゼルの祈りは届かなかった、ユウタ達はどうなってしまうのか!?
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