契約を無事に終えたマサシとジゼルは光の中を通り、ラビリアンに戻って来た。戻って来た二人をエミリアは優しい目で見ていた。
「おかえりなさい、二人とも」
自分達の帰りを待って居てくれたエミリアを見て二人も自然と笑顔を見せた。
「これで貴方達は戦う力を得ました。ですが、失った物もあります。その悲しさに押し潰されないように」 「「ハイ!」」 「今日は駐留基地で休んでください。基地の人達には私から話しておきます」 「分かりました」
マサシはエミリアの顔を見て小さく頷き返事をした。すると、ジゼルがマサシの前に出てエミリアに話しかけた。
「エミリア様」 「何ですか?」 「実はエミリア様にお話が・・・・」 「え?」
何か話そうとしているジゼルを見てマサシが話しに加わった。
「ジゼル、ライディーンが言っていたすぐにレベルを上がる方法の事か?」 「うん」 「え、すぐにレベルを上げる?」
エミリアはマサシの言った事を聞き驚いて聞き返した。
「ハイ、契約を交わす時にライディーンが俺とジゼルに教えてくれたんです」 「すぐにレベルを上げる方法を。そして、レベルを上げてルシフェル達と戦えと」
マサシとジゼルはライディーンとアナスタシアの話していた事をエミリアに話し始めた。しばらくしてエミリアが目を閉じながら口を開いた。
「そんな方法があったなんて・・・・」
二人から話を聞いたエミリアは目を開いて静かに言った。
「その事は明日の作戦会議で貴方達の事をユウタ達に話す時に詳しく話してください。その時にユウタ達に貴方達の事を話すつもりなので」 「ハイ」 「作戦会議は明日の9時に行います。遅れないようにしてください」 「分かりました」 「それでは、私は先に基地へ行っています」
エミリアはマサシとジゼルに背を向けて駐留基地のほうへ向かって歩いて行った。エミリアが去った後、二人はお互いを見つめ合って静かに話し出した。
「フウ、ひとまずこれで第一目的は達成だな」 「うん、でも次はもっと大変だよね」 「ああ、だけど、それよりも大変な事が俺達には残ってるさ」 「え?」 「皆だよ。神竜隊とエミリア様と一部の人間以外は全員俺達を忘れちまったんだ。まずはそこからだろ?」 「あ、そうだったね」
二人は仲間達とどうやって接するかを話しながらゆっくりとエミリアの歩いて行った道を歩いて駐留基地へと向かって行った。
翌日、サンドリア城の作戦会議室ではエミリアとマサシ、ジゼルの二人を除く神竜隊全員が席についていた。
「8時57分、エミリア様、そろそろ会議を始めてはいかがですか?」
腕時計を見ながらユウタがエミリアに尋ねる、だがエミリアは目を閉じたまま両手を顎につけて黙っていた。
「エミリア様、どうしたんですか?」 「どこか具合でも悪いんですか?」
今度はコンタとシオンがエミリアに尋ねる。すると、エミリアが目を開いて二人を見て微笑んだ。
「いいえ、違いますよ。心配してくれてありがとうございます」 「あ、いえ、大丈夫ならいいんですが・・・・」
礼を言われてコンタは少し照れながら頭を掻いた。すると、突然会議室の入口のドアがもの凄い勢いで開いた。
「す、すいません!」 「遅くなりました!」 「「「え?」」」
入口から聞こえてきた聞き覚えのある二つの声。ネリネ以外の神竜隊が声を揃えながら入口を見た。そして彼等の目に汗を掻いているマサシとジゼルが飛び込んできた。
「え?」 「なっ!」 「ええっ!?」 「・・・・・・!」
コンタ、ユウタ、シオン、レイナが驚きの表情のままその場に固まった。そしてそんな四人を見てマサシはニッと笑いながら片手を上げて挨拶をした。
「よう、四人とも、おはよう」 「おはよう、皆」
マサシに続いてジゼルを笑って挨拶をした。そして次の瞬間。
「マサシ!ジゼル!」 「お、お前達どうしてここに居るんだ!」 「そ、そうよ!確か昨日の夜に地球に行ったはずじゃ!」 「どういう事だ・・・・?」
四人が地球へ向かったはずのマサシとジゼルがラビリアンに残っている事に驚いていると、黙っていたネリネがコンタの肩を突いた。
「ね、ねぇコンタ」 「ハイ?」 「・・・・こちらの二人は貴方達の知り合い?」 「え?」
ネリネの口から出た衝撃の言葉にコンタ以外の三人も言葉を失い彼女の顔を見た。突然視線が自分に向けられて驚くネリネ。
「な、何言ってるんですか、二人は・・・・」 「その二人は今日から神竜隊に配属となった隊員です」
コンタの言葉をかき消す様に話し出すエミリア。それを聞いたユウタ達は今度はエミリアに視線を向けた。
「新しい隊員、ですか?」 「ええ、そっちの男の子が秋円マサシ、そして女の子がジゼル・アルフォントです」
エミリアに紹介されて頭を下げる二人。それを見たネリネも立ち上がって深く頭を下げた。そんな三人のやり取りをユウタ達は目を丸くして見ていた。
「どういう事ですか!」
縦長の机を強く叩いてエミリアに講義するユウタ。あの後、エミリアはネリネを会議から一度外して残った神竜隊だけで話を始めたのだ。
「昨日の補給で二人は地球へ行くはずだったのでしょう!?なのに何で二人がここに居るんですか!」
感情的になりながらエミリアに尋ねるユウタ。そんな時レイナがユウタに言った。
「落ち着けユウタ。二人がここに居るのには何か事情があるはずだ。まずはそれを聞いてからだ」 「・・・・ああ、そうだな」
冷静さを取り戻したユウタはゆっくりと座った。それを見たエミリアは静かな声で話を始めた。
「まず、二人がここに居る理由を話します。二人は昨日の夜、補給が終わった直後に地球へ行くはずでした。ですが、二人は昨日の夜の補給で基地に届いた新しい魔封石を使い契約を交わしたのです」 「ええ!!」
真っ先に声を上げたのはコンタだった。その後に残った三人も声こそ出さなかったが驚いていた。
「そ、それじゃあ。さっきのネリネの言葉は・・・・」 「ええ、彼女は完全に二人を忘れています」 「「「!」」」
シオンの言葉を引き継ぐように話したエミリア。そしてその答えを聞いて言葉を失う四人。そしてその後にユウタがエミリアの正面の席に座っているマサシとジゼルに話しかけた。
「二人とも、どうして契約を交わしたんだ!契約を交わせばお前達は俺達契約者以外の記憶から消されるんだぞ。しかも契約を交わしてもお前達はレベル・1のままだ、まともに戦う事すらできない」 「そしてなによりもジゼル、お前は妹を守るために一生の別れを覚悟したネリネの想いを台無しにしたのだぞ?それが分かっているのか?」
ユウタとレイナの少し強い言葉に少しだけ黙っていたマサシとジゼル。だがすぐに口を開いて自分達に考えを告げた。
「確かに、俺達の行動はお前達の気持ちを踏みにじった最低な事かもしれない。でも、だからこそ、俺達は戦わなくちゃいけないと思ったんだ。俺とジゼルを助けるためにこの世界に残る事を決意したお前達の為にも、エミリア様為にも、そしてこの世界を救う為にも!」 「だからあたし達は契約を交わす事を決意したの。皆と一緒に戦って新しい未来を手に入れる為に」
真剣で表情で話す二人を見てレイナが静かに言った。
「口で言うのは簡単だが、現実はそんなに生易しいものではないぞ」 「そうだよ、今の君達じゃ敵の雑魚と戦うのが精一杯だと思う」
レイナに続いてコンタも静かな声で告げる。だがマサシとジゼルは怯む事無く話を続けた。
「それでも俺達はお前達と一緒に戦いたいんだ、このラビリアンを守るためにも!」 「あたしもマサシと同じ、故郷が危険な状態なのに自分だけ安全な所にいるなんてできないよ!」
二人の話を聞いている神竜隊の中でシオンが小さな溜め息をついた後に言った。
「フゥ、全く。いつもマサシの言う事には不満を感じないのよね。もしかして、その私達を、仲間を守りたいって言う強い意志が原因なのかもね」
少し嬉しそうに言うシオンを見て、いつの間にかコンタ達も笑っていた。
「そうだね」 「俺達は知らず知らずに内にマサシを強く信頼していたって事か。だからいつもマサシの言う事をすぐの納得しちまうのかもしれいないな」 「現に今も私達はマサシとジゼルの言う事に不満を抱かず納得してしまっている」 「ええ、結局、私達もマサシとジゼルが残ってくれた事を喜んでいるのかもね」
四人は自然とマサシとジゼルを受け入れていた。これはマサシへの信頼が原因なのだろうか、それともそれ以外の何かが働いているのだろうか。誰にも分からない。
「でも、ジゼル、貴方は本当にこれでよかったの?実のお姉さんであるネリネにも忘れたれちゃったのよ」 「うん、たとえ姉さんに忘れられても、あたしと姉さんの思い出はあたしの中にちゃんと残ってるもん」
ジゼルはそう言って自分の胸に手を置いた。
「なんかアニメみたい」 「フフ、そうね」
笑ってジゼルを見つけるコンタとシオン。
「それに、あたしはマサシと一緒に戦うって前から約束してたもん、どんな時でもあたしはマサシと一緒よ」 「ジゼル・・・・」
ジッとお互いの顔を見つけ合うマサシとジゼル。すると、その場に居たエミリア以外の全員が声を揃えて。
「「「ご馳走様〜〜」」」
四人の方を見て顔を赤くするマサシとジゼル。二人はそれを誤魔化す様に笑った。
「フフフ、さて、そろそろ会議を始めましょう。シオン、ネリネを呼んできて下さい」 「ハイ」
シオンは別室で待たせているネリネを呼びに行く為に席を立ち会議室を出て行った。それから少ししてシオンがネリネを連れて戻って来た。二人は席につき、全員が揃った事を確認したエミリアは口を開いた。
「これで全員が揃いました。では、これよりエクス・デストロに対抗する為の作戦会議を始めます」
神竜隊に戻って来たマサシとジゼル。その二人を歓迎するユウタ達。そしてこの後、エクス・デストロに対抗するために作戦、そしてマサシとジゼルがレベルを上がる方法に関しての会議が始まるのだ。
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