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作品名:ラビリアンファンタジー 作者:ディオス

第130回   第百二十九話 力無き悔しさ

突然の除隊命令、マサシとジゼルは目を丸くして驚いた。

「除隊って・・・・どういう事ですか!?」
「言ったとおりです、貴方とジゼルには神竜隊を辞めてもらいます」
「だからどうしてですか!」

冷静に話すエミリアと引き換えに興奮して立ち上がりながら話すマサシ。そんな彼を見ても表情一つ変えずに話を続けるエミリア。

「貴方とジゼルは契約者と聖天使人の力を失い普通の人間になってしまいました。つまり、ディアボロス達と戦う事ができなくなったのです、普通の人間では勝てない敵と貴方達を戦わせる訳にはいきません」
「しかし!」
「貴方達は力を失ったのです、それで何の役に立つの言うのですか?」
「「!!」」

静かに、そして冷たく現実を話すエミリア。マサシは事実を告げられ黙りながら席につく、ジゼルも同じ様に黙って俯いた。二人を見た後、エミリアは静かな声で話を進めていく。そして彼女は二人に新たな命令を与えた。

「貴方とジゼルにはこのラビリアンから地球へ行ってもらいます」
「地球に行くって、どういう事ですか?」

今度はジゼルが座りながら少し低い声で、悲しそうな表情で尋ねた。

「今日の夜に地球から物資補給の為に次元移動装置を使って我が社の社員達がやって来ます。貴方達にはその時に装置を使って地球へ行き、そっちで普通の人間として生活するのです」
「そ、そんな!皆が命懸けで戦っているのにあたしとマサシだけ地球へ行けって言うんですか?」
「そうですよ!俺とジゼルだって力を無くしても傭兵です、雑魚くらいとなら戦うことだってできます!ですから・・・・」
「いけません!」

突然大声で否定するエミリアに神竜隊全員が驚いた。そして再び静かな声で話し出す。

「ディアボロスとルシフェルの目的はこの世界を創りかえる事、そして貴方達を殺す事です。殺されると分かっていて私は貴方達をこの世界に残すつもりはありません」
「ですが・・・・!」

マサシが更に抗議しようとする。だが、それより先にエミリアが止めとも言える言葉を口にした。

「それに傭兵と言えど貴方達は子供・・・・・・戦力にならないのに居ても、邪魔になるだけです」
「!!」

ずっと母の様に慕ってきたエミリアの口から出た言葉にマサシは耳を疑い固まった。ジゼルもマサシほどではないが表情が凍りついていた。

「因みに、ここに居る神竜隊の隊員全員が私と同じ考えです」
「「えっ!?」」

二人は驚いてコンタ達の方を見た。よく考えたコンタ達は二人の除隊命令の話が出てからずっと黙っていた、つまり皆はこの事を既に知っていた、そして異議は無いという事だ。

「本当なのか、皆?」
「「「・・・・・・」」」

黙って目を閉じているコンタ達。

「・・・・クッ!」

マサシは歯を食い縛り、握り拳を作ってながら目を閉じた。ジゼルも目を閉じて黙っている皆を見て言葉を失った。

「これ以上この事で貴方達と議論するつもりはありません。マサシ、ジゼル、私達はこの後ここで作戦会議を続けます。退室してください」
「エミリア様!」

必死で話を続けようとするマサシ。だがエミリアは目を閉じたままマサシの声を無視した。そんなエミリアは見て、マサシは悔しそうな表情のままエミリアに背を向け、早歩きで出口に向かい、乱暴に扉を開けて退室した。

「あっ!マサシ!」

退室したマサシの方を見て立ち上がり手を伸ばすジゼル。そして彼女もエミリアを悲しそうな目で見て静かに退室した。

「・・・・・・」

二人が退室した後、エミリアは立ち上がり窓の近くへ歩いて外を見ながら両手を背中に回した。

「エミリア様、なにもあんな言い方・・・・」

先まで黙っていたコンタが静かな声でエミリアに言う。すると、ユウタがコンタを止めた。

「止めろコンタ」
「でも、これじゃあ二人が可愛そうだよ」
「お前の気持ちも分かる、だがな、今この状況で一番辛いのはエミリア様だ」

ユウタに続いてシオンも話しに加わってきた。

「そうよ、この戦いはヘルデストロイヤーとの戦いよりも更に激しさを増すわ。更にあの二人はディアボロスとルシフェルに命を狙われている、二人をこの戦いから遠ざける為にも、ああ言うしかなかったのよ」

そう、エミリアがマサシとジゼルに酷い事を言ったのは二人をディアボロスとルシフェルから、この戦いから守るためだったのだ。

「でも、それならそう言えばよかったのに・・・・邪魔なんて言い方・・・・・・」
「正直に言って、あの二人が下がると思うか?」

俯いてい言うコンタを見てレイナが言う。

「あの二人の性格だ、絶対に自分も戦うというはずだ」
「それは分かってるけど・・・・」
「それに・・・・」

レイナがジゼルが退室した後からずっと俯いているネリネを見た。

「ネリネだって、苦渋の選択をしたのだ。力を失った妹を戦わせて危険な目に遭わせるか、それとも一生会えなくなるが、妹を守る為に地球へ行かせるほうを選ぶか・・・・」
「・・・・うん、そうだったね。ゴメン」

コンタはネリネの方を見て頭を下げた。コンタ達に背を向けたままエミリアは外をジッと見たいた。

(ごめんなさい、マサシ、ジゼル。貴方達二人をこの戦いから逃がす為には地球へ行かせる以外、他に方法が無いの。私を恨んでも、見損なってもいいです。だからお願い、地球へ戻って・・・・)

心の中で謝罪したエミリアは再び椅子に座り作戦会議を始めるのだった。





「クソッ!」

サンドリオ城の中庭にある木を力一杯殴るマサシ。何時ものマサシなら今の一撃で簡単に気を倒す事ができただろう、だが今の彼では倒す事は愚か凹ませる事もできなかった。

「ここに居たんだね」

背後から聞こえてくる声の主はジゼルだった。マサシは振り向かずに木を殴った手を下ろした。そして動かずにジゼルに言った。

「ジゼル、悔しくないか?」
「え?」
「何もできない事が悔しくないか?」
「・・・・・・」

ジゼルは黙ってマサシに近寄り静かに口を開いた。

「勿論悔しいよ、皆が命を賭けて戦うって言うのに自分だけ安全な所に逃げるなんて、あたしは何もできない自分か情けない・・・・」

黙ってジゼルの言う事に耳を傾けるマサシ。

「さっきは酷い事を言ったけど、エミリア様だって本心じゃないはずだよ。きっとあたし達の事を思って・・・・」
「分かってる!」

ジゼルの話している最中の大声で言うマサシ。ジゼルは少しだけ驚いたがすぐに元の表情に戻った。

「分かってる・・・・エミリア様が俺達の為を思って言った事も、ユウタ達も同じ気持ちだって事も!」
「マサシ・・・・」
「でも、アイツ等が、ディアボロスがこの世界に現れたのは俺の責任だ!そしてそのせいこの世界が消えちまう事も!それなのに、何もできずに逃げるなんて、俺は・・・・俺は悔しいんだよ!!」
「ッ!・・・・・・マサシ」

自分のせいでラビリアンが創りかえられてしまう絶望感、そしてそれを自分で止める事のできない無力感、マサシはその事を悔しがっていたのだ。それに気付いたジゼルは優しく背中からマサシを抱きしめる。そして彼女は一滴の涙を流した。すると、その時。

「ラビリアンに住む全ての者に告げる!」
「「!!」」

突然聞こえてきた聞き覚えのある声。そう、その声の主はディアボロスだ。マサシとジゼルは辺りを見回す。だが何処にもディアボロスの姿は見当たらない。そして再び声が聞こえてきた。

「今この声はラビリアン全世界に流されている。一度しか言わないから、耳の穴ほじってよく聞け!」
「ちょっと、そんな変な言い方止めてよ。貴方はこの世界の創造主になるんだから」
「とと、悪い悪い」

ディアボロスの声以外にルシフェルの声も聞こえてきた。そして再び二人の声が話を始める。

「全ての人間達よ!我等は世界を創造する者、『銀河騎士団 エクス・デストロ』!!」
「エクス・デストロはこの世界を正しき方向へ導く正義の軍団」
「チッ!世界を壊そうとしているくせに、何が正義の軍団だ!」

ディアボロスとルシフェルのふざけた演説に舌打ちをするマサシ。その隣で空を見上げるジゼル、そして作戦会議室では窓から外を見るエミリア達も居た。

「俺は『邪竜王 ディアボロス』!エクス・デストロのリーダーにして、この世界の創造主になる者だ!」
「そしてあたしは『堕天使 ルシフェル』」
「我々はこの汚れたラビリアンは創りかえる為にやって来た。この世界を誰もが幸せに暮らせる楽園にする為に来たのだ」
「でも、その為にはこの世界を一度『ゼロビッグクランチ』という力で消さなければならないの」
「そこで、お前達には一度、俺達の世界である虚無宇宙(ゼロスペース)へ足を運んでもらう。そこで世界が創りかえられるまで居て貰い、創り終わった後、再びラビリアンへ戻ってもらう」
「あたし達の創った世界で暮らすのも、それを拒否するのも貴方達次第よ。でも、否定した場合はその人達にはこの世界と共に消えてもらうわ」
「ゼロビッグクランチは今日から一ヵ月後に行われる、もし俺達の計画に賛同するのであれば一ヵ月後に各国の首都に集まれ、俺達の部下が迎えに行く」
「それじゃあ皆、一ヵ月後にね♪」

それの言葉を最後に二人の声が消えた。そして空を見上げていたマサシとジゼルは顔を下ろした。そしてマサシは歯を食い縛り再び木を殴った。

「チッ!アイツ等、結局新しい世界が強い者だけが生き残れる世界だって事を言わなかった!」
「しかも、拒否すればこの世界と一緒に消すなんて、酷すぎる」
「自分達の都合の良い世界を創るくせに何が正義の軍団だ!ふざけてる!」
「でも・・・・」

感情的になるマサシの横で弱い声を出すジゼル。

「・・・・ああ、今の俺達には、何もできない」

力を奪われ何もできない二人は改めて自分達が無力なのを知るのだった。





そして、その日の夜、サンドリアの外の駐留基地に地球から来たライトシンフォニアの補給部隊がやって来た。数台の軽トラックに軽装甲機動車、そしてイーグルまでも送られてきたのだ。軽トラックや軽装甲機動車が次々に基地に入っていき、マサシはその光景をテントの近くで見ていた。

「・・・・この補給が終わったら、俺とジゼルは地球に行かなければならないのか」

再び自分の力の無さを知って沈んでしまうマサシ。

「ハァ・・・・とりあえず、町に戻ってエミリア様に知らせるか」

マサシが基地を出よう出入り口に向かおうとした時、一つのテントの中から男女の会話が聞こえてきた。

「おい、このアタッシュケースは何所に置けばいい?」
「ああ、それは軽装甲機動車に積んでおいて、後で社長に届けるみたいだから」
「分かった。でも、このケースには何が入ってるんだ?やけに厳重にロックされてるみたいだが」
「新しい魔封石が入ってるみたいよ」
「!!」

魔封石という言葉を聞いたマサシは咄嗟にテントの入口に近寄り、気付かれないように耳を傾けた。

「新しい魔封石?」
「ええ、数日前に調整が終わって、今日の補給で二つの魔封石が送られたって話よ。しかもまだ契約する人が決まってないみたい」
「魔封石が、二つ・・・・・・ッ!そうだ!!」

話を聞いたマサシは急いで基地を出てサンドリアへ向かって走り出した。マサシは何をするつもりなのだろうか?


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