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作品名:ラビリアンファンタジー 作者:ディオス

第13回   第十二話 少年の罪滅ぼし

ヘルデストロイヤーの恐ろしい計画を知らされたマサシ達。その対策をする為にマサシを連れて帰るつもりだったが王宮で暴れてしまったコンタはその罪滅ぼしをする為に国王に呼ばれるのであった。そしてマサシ達は王の間に連れてこられた。

「陛下、異世界の少年と連れの者をお連れしました」
「ご苦労だったな、セリーナ」

王の間にやって来たマサシ達を待っていたのはユピローズ王国の王だ。年は50代後半といってところだろう。長い髭と白髪交じりの髪、そして頭にのる王冠。玉座に座ったまま彼はマサシ達を見ていた。セリーナは王の前でひざまずき、そしてマサシ達は玉座の数メートル前で立ち止まった。

「そなたか、異世界から来た少年は?」
「はい、月本コンタです」
「うむ、話は聞いていたが本当に幼いな」
「ど〜も♪」
「何を照れている?そもそも、陛下の前で頭が高いぞ!」
「よいセリーナ、そしてその隣の者はその少年と同じ異世界から来た少年か?」
「はい、秋円マサシといいます」

マサシはそう言ってゆっくり頭を下げた。

「そなたの隣の少女は?」
「彼女はジゼルです私と同じ傭兵です」
「ジゼル・アルフォントです。お会いできて光栄です陛下」
「うむ、そしてセリーナの隣にいるのはシンディ・カルタリオだな?」
「は、はい!」

緊張するジゼルとシンディに比べてマサシとコンタは落ち着いている。おそらく別世界から来た、元の世界でエミリアと普段から会話かしているという理由であまり緊張しないのだろう。

「私はこの国の王、ハイドリア・メル・ユピローズだ。さてコンタとやら、お主はこの王宮で暴れて多くの物を破壊し、兵達に傷を負わせた、それは決して見過ごす事はできん」
「はい・・・」
「しかし、お主はまだ幼く、我が兵達が無理矢理お主を連れてきたと聞いておる。そうだなセリーナ?」
「は、はい・・・」

真実を付かたセリーナはうつむいた。

「そこで私の頼みを聞いてもらいたいのだ」
「頼み?なんですか?」
「セリーナの話ではその幼さで傭兵らしいな」
「はい」
「お主に傭兵としてその依頼に受け、完遂したあかつきには、これまでの罪は全て帳消しにしよう」
「そんな事でいいんですか?」
「勿論、この依頼の危険度は高い。運が悪ければ命を落とす事だってある」
「・・・・・」
「受けるか受けないかはお主が決める事だが、もし受けなければお主は数年間牢獄で生活しなければならなくなる」
「受けさせていただきます」

コンタは迷わず受ける事を選択した。このハイドリアがコンタに与えた依頼(罰)は命を落とす危険がある、だが受けなければ長い間、牢獄の中で不自由な生活を受けなければならない。依頼を受け命を賭けるか、依頼を受けずに牢獄に入るか、これはある意味、重大な選択だ。

「本当によいのか?」
「はい、それでその依頼とはなんですか?」
「うむ、この町の『リーザルム教会』という教会の下水道に潜む魔物を退治してもらいたいのだ。傭兵や兵士達を何度も送り込んだが何人もやられているのだ」
「魔物・・・どんな魔物ですか?」
「生き延びた兵士の話では巨大なスライムのようだ」
「スライム・・・」
「・・・・・コンタよ、考え直す気はないのか?城の兵士達ですら何人も死んでいる、お主では勝てるとは思えんのだ。お主は幼い、死ぬには早すぎる、受けなければ数年の牢獄生活で自由になれる。それでも行くのか?」

ハイドリアはコンタの事を心配して言っているのだろう、だがコンタは・・・。

「行きます、僕は負けません」
「・・・・そうか、ならもう止めん。それで、いつ行くつもりなのだ?」





大きな廊下を歩くマサシ達。先頭で歩くコンタの後ろ姿を見てジゼルはマサシに小さな声で話した。

「ねえマサシ、コンタ君大丈夫なの?あんなに自信満々に言っちゃって?」
「大丈夫だよ、言ったろ?アイツも契約者だって」
「そういえば、昼間に言ってたよね?」
「ああ、アイツは強いぜ。俺と同じ位、いやそれ以上かも」
「そうなんだ・・・・」

マサシとジゼルの会話にシンディとセリーナが加わってきた。

「ねえ、何の話?」
「え?ううん、なんでもないよ」

マサシが契約者であることを知っているのはこの中ではジゼルとコンタしかいない。シンディはもちろん知らない。

「それにしても『今から行ってきます!』なんて言い出すんだもん、驚いちゃった」
「そうよね、大丈夫なの?」
「本当に大丈夫だって、心配性だな皆」
「私は心配などしていない・・・」

ジゼルとシンディが心配している中、セリーナは腕を組みながらゆっくりと三人の後ろを歩いていた。

「アイツにどんな力があるのかは私は知らないが、油断していると痛い目を見るぞ。スライムは低級の魔物だが、あの下水道にいる奴はそこらのスライムとは違うぞ」
「アイツはどんな時でも油断はしない、それにスライムは全身が液体なんだろ?」
「ああ、そうだが?」
「だったらアイツが負ける事はない」
「なぜだ?」
「それはアイツが戦っている所を見れば分かるさ」

マサシがジゼル達に説明していると歩いていたコンタがクルッと振り返って立ち止まっり、マサシ達の方を見て言った。

「マサシ、見ているのはいいけど、手は出さないでね。これは僕の受けた依頼で、僕の罰なんだからさ」
「分かってる」
「ならお手並み拝見といこうか・・・」

マサシとコンタの会話を聞きセリーナは言った。やはりまだ彼らの事を信じていないようだ、彼らの意思も力も。





何の準備もなくそのまま城を出たコンタ。彼について行くマサシ、ジゼル、シンディ、そしてマサシとコンタの見張りをするセリーナ。城を出てからしばらく歩き、マサシ達は目的地のリーザルム教会に着いた。教会の入口前には一人のシスターが立っていた。とても美しく、そして神々しい雰囲気だ。

「王宮護衛隊長のセリーナ・カリセリナスだ、ここのシスターだな?」
「はい、お待ちしておりました。どうぞこちらへ・・・」

シスターは静かにマサシ達を教会の中へ案内し、畳み五畳ほどの大きさの部屋に案内された。五人は部屋の椅子に腰を降ろした。

「司祭様がもう少しでおこしになりますのでお待ちください・・・」
「・・・・・」

シスターの静かな声にセリーナは少し落ち込むように顔を下にした。何度も傭兵がやられ、頼みの綱である王宮の兵士ですらやられてしまったのだ、評判が落ちたのだろう。

(おい、シンディ)
(なに?)
(何なんだ、この雰囲気?)
(何って?)
(城のから魔物退治の使者が来たのにあんまり教会の人が嬉しそうじゃないからさ・・・)
(陛下も言ってたでしょ?何度も失敗してるって。それで王宮の騎士団や護衛隊の人気が落ちたのよ・・・)
(なるほど・・・)

マサシとシンディのヒソヒソ話をしていると、部屋に白いローブを着た男が入ってきた。リーザルム教会の司祭だ。

「またおこしになったのですか?」
「・・・・・」
「これまで何人も王宮の兵士がスライムを退治しに来てはやられ、それの繰り返しです。これ以上繰り返してもあのスライムを倒せる者などおりません。どうかお引取りください」
「我々はこの町の人々が平和に暮らせる為に戦っているのです。倒せるまで何度でも挑むつもりです」
「それで一体何人の兵士や傭兵の命があの魔物に奪われたと思っているのですか、これ以上罪もない人々の命が奪われるのを我々は見ることができません。それに、我々は近いうちのこの教会を捨て、別の場所に移るつもりだったのです。これ以上あのスライムを刺激したら、また罪のない人々の命を奪うでしょう、これ以上スライムを刺激しないでください」
「では、あなた方は教会を捨てるのですか?」
「教会よりも人々の命を優先します、きっと神も分かって下さいます」
「待ってください」

司祭とセリーナの話が終わった直後、コンタが司祭に話しかけた。

「君は?」
「僕はコンタと言います、スライムを退治するために来た傭兵です」
「よ、傭兵?君がですか?」
「はい」

コンタが傭兵だと名乗った後司祭とシスターは少々驚きの顔をし、司祭はセリーナに向かって口を開く。

「いくら人手不足だからといってこのような幼い子供を戦わせるなんて、何を考えていらっしゃるのですか!?」
「それは誤解です、この者が自分から志願したのです」
「そんなはずありません!こんな小さい子が・・・」
「本当ですよ、コンタが自分から言い出したんです」

突然マサシが話しに加わり、シスターが声を止めた。

「君は?」

突然加わってきたマサシに司祭が問い掛ける。

「俺はマサシです、よろしく」
「マサシって、あのユニフォリアを倒した異世界の傭兵の・・・?」

マサシの名を聞いたシスターが最近聞いた噂を思い出して彼に訊いた。

「ええ、まあ・・・」

マサシが照れるように頭を手で掻く姿を見ている人物がいた。

(私達もいたのに〜ッ!)
(まあまあ、落ち着いて・・・)

一人だけ注目を受けているマサシを見て悔しがるシンディ、それを宥めるジゼル。

「司祭様、彼が言うのでしたら間違いございません。きっと彼等ならあの魔物を倒してくれます!」
「そ、そうだな・・・・・わかりました。お願いします」

しばらく考えた司祭は彼等に魔物退治を任せる事にした、だがマサシは・・・。

「申し訳ありませんが、今回俺は魔物退治に参加できないんです」
「え?どういうことですか?」
「実はこの魔物退治はコンタにだけ与えられた仕事なんです。俺達は手伝ってはダメだという王様の命令で・・・・」
「そんな、こんな小さい子に一人で戦わせるの気ですか!」

マサシの参加できない理由を聞き声を上げるシスター。いくら王であるハイドリアの言葉でも納得できないのだろう。

「コイツは強いです、ですから心配ありません」
「ですけど・・・・」

コンタの頭を撫でながら言うマサシを見て司祭は心配そうに言った、すると部屋に一人のシスターが慌てる様に飛び込んできた。

「何事ですか?神の下に仕える者がはしたない!」
「た、大変です!あのスライムが下水道から外に出てきました!」
「なんだって!!」

マサシ達が慌てて教会の外へ出て、教会の真下にある下水道へ繋がるトンネルにやって来た。そこには青い液体の塊があり、その中心に人間の眼球が一つ浮いている、そして底のほうでは人間の頭蓋骨やいくつかの骨が浮いている、おそらくこのスライムが喰らった人間の成れの果てだろう。

「コイツが?」
「はい、いつもは下水道の奥のほうで大人しくしているのですが、どうして・・・・」
「お腹が空いてきたから外へ出てきたんじゃないかしら?」
「多分そうだろうな、下水道の住んでる生き物を餌にしてきたんだろうけど、それも底を突いた様だな・・・」

ジゼルとマサシがスライムの行動を推理していると、スライムがマサシ達を見つけゆっくりと近づいてきた。

「危険です!早く逃げてください!」
「は、はい!」

司祭達は慌てて教会の方へ走って行った。コンタは司祭達が逃げた事を確信すると、スライムにゆっくりと近づき構えた。

「お前の力、確かめさせてもらうぞ」
「ご自由に・・・」

セリーナの試す様な言い方に顔色一つ変えずコンタは返事をした。セリーナの隣でコンタを見守るマサシとジゼルとシンディ。

「マサシ、本当になにもしないつもりなの?」
「仕方ねぇだろ?王様の命令なんだから、それに・・・・」
「それに?」
「傭兵の仕事、止められてるんだよ、俺」

マサシはUrsとの戦いで怪我をしている為しばらく傭兵の仕事ができない。彼はその傷をシンディに見せ苦笑いをした。

「見て!」

ジゼルの声に反応し、二人がコンタの方を向くとスライムがコンタを飲み込もうとしている、だがコンタは後ろに跳びそれを回避。そして腰の納めてあるファイブセブンを二丁抜いた。

ファイブセブン
マサシが使っていたP90の兄弟銃としてFN社で開発された自動拳銃。その最大の特徴はP90と同じ5.7mm×28弾を使っており、自動拳銃の中でも最多数と言われる20発装弾できるという事。勿論P90とほぼ同じ貫通力を持っているため、100m先の防弾チョッキを貫通する。弾丸に比べると地味ではあるが、スライドも特徴的である。通常、拳銃のスライドは、連続発射によって高熱となるが、ファイブセブンスライドはプラスチックで覆われているため、素手で触れられる程度の表面温度にとどまる。

勿論、12歳の子供が使いこなせる代物ではない、だが彼は契約者、身体能力は大人とほぼ同じなので十分使いこなせる。そしてコンタはスライムに向かってファイブセブンを発砲、弾は全て命中。だが相手の体が液体であるため、すぐに命中した場所は元に戻ってしまう。

「やっぱりアイツには物理的攻撃は効かないか〜」

コンタは銃の攻撃が効かないと判断し、ファイブセブンを腰に納めると、スライムから距離を取りなにやらブツブツ言い始めた。

「あれは何をやっているのだ?」
「あれは魔法の呪文を唱えてるんだよ」
「なに?アイツは魔法を使えるのか!?」
「ウソッ!本当?」
「ああ」

驚くセリーナとシンディ。コンタも契約者なので契約魔法を使えるのだ、つまり彼は少なくともレベル・4であるという事だ。演唱するコンタにゆっくりと近づいていくスライム、コンタを飲み込む為に距離を詰めようとしている。だが、時既に遅し、コンタは演唱を終えていた。

「氷河の使者よ、大地よりその牙をむけ!フリーズファング!!」

コンタが魔法の名を叫ぶとスライムの真下から氷柱が姿を現しスライムの身体を貫いた。そしてスライムの体がゆっくりと氷始め、最後にはスライムを完全に凍りついた。

「やったの?」

恐る恐るスライムに近づくジゼル達、でもマサシは恐れることなくスタスタとスライムに近づいて行った。

「あ、危ないよ!」
「大丈夫だよ、でもこのまま放っておけば、いずれ解凍してまた暴れだすだろうな」
「それじゃあどうするのよ」

シンディが慌てるかのように問い掛ける。するとマサシはコンタに何かを合図した、そしてコンタは再びファイブセブンを抜きスライムを狙い、引き金を引いた。凍りついたスライムはその衝撃で粉々に砕け散った。

「これでもう大丈夫ですよ。後はこの粉々になったスライムを処分すれば依頼完遂、だね」
「正確には罰、だけどな」
「も〜っ!こういう時は合わせてよ!」
「ワリィワリィ♪」

マサシとコンタのやりとりを見ているジゼル達。そしてコンタの戦闘能力をその目で見て驚くセリーナ、改めてマサシ達の力を知ったシンディ、それで彼女達も彼らを少しは信用するだろう。

「どう、彼らの力?」
「う、うん・・・・改めて見るとやっぱり凄い・・・」
「うん、それに彼らの顔を見て、凄く嬉しそう。教会の人達を救えて嬉しいんだよ」
「・・・・・・あんな風に笑う子達が私達を裏切るはず・・・ないわよね」
「うん!」

シンディの改心に笑顔で頷くジゼル。彼女が次に見たのは驚くセリーナ。

「セリーナ」
「し、信じられん・・・・我が王宮兵達が何度挑んでも勝てなかった魔物をあんな子供が、たった一人で・・・」
「セリーナ、彼らの事、信じてあげたら」
「・・・・・・」
「セリーナ?」
「・・・・いいだろう、信じてやる」
「そう、よかった」

セリーナの答えを聞き安心するジゼル。

「これでお前の罪は消えた、侵略計画の事は陛下に伝えておくとコンタに伝えておけ」
「まあ、流石のあなたもここまでハッキリと力を見ちゃ納得するしかないわね」
「フン」

シンディの言ったことを軽く流し教会の方へ戻っていくセリーナ。これでコンタの罪は消え、彼は受け入れてもらえた。しかし、彼等はヘルデストロイヤーの計画を阻止する為に元の世界に戻らなくてはならない。マサシが元の世界に帰る、ジゼルはどう受け止めるのだろうか、そして、どうするつもりなのだろうか・・・・。


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