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作品名:ラビリアンファンタジー 作者:ディオス

第126回   第百二十五話 消滅と創造

「・・・・・・うう」

意識を取り戻したマサシは痛みに耐えながらゆっくりと起き上がった。ディアボロスの攻撃を受け、気絶してからどれ程の時間が経ったのか分からない。頭を押さえ軽く頭を振るマサシはゆっくりと目を開けた。

「一体、どれ位時間が・・・・ッ!!」

辺りを見てマサシは絶句した。オペレーターのデスクや椅子は壊され、壁には大きな凹みが生まれて煙が上がっていた。マサシは驚きのあまり体中の痛みを忘れていた。

「・・・・俺が気絶している間に何が起きたんだ」
「知りたいか?」
「!!」

咄嗟に声のする方を見るマサシ。そこにはゾークの椅子に座って呑気に何処からか持って来たティーカップの紅茶を飲むディアボロスがいた。

「ディアボロス・・・・!」
「意外と目を覚ますのが早かったな」
「・・・・これはどういう事だ、それに、ジゼル達はどうした!」

ゆっくりと立ち上がりディアボロスを睨むマサシ。ディアボロスはマサシの後ろを指差した。マサシがゆっくり振り向くと壁にもたれて気を失うジゼルがいた。

「ジゼル!」

ジゼルの下へ走りだすマサシ。そして必死でジゼルの体は揺すった。

「おい、ジゼル!大丈夫か!」
「・・・・・・うう、マ、マサシ?」
「フゥ、よかった」

ジゼルの無事を確認し一安心するマサシはゆっくりとジゼルを抱き寄せた。ジゼルは一瞬驚いたがすぐに笑顔を見せてマサシの背中に手を回した。

「ウフフ、ラブラブねぇ♪」

聞こえてくるルシフェルに声を聞き振り返るマサシとジゼル。ルシフェルはゆっくりとディアボロスの下へ歩いていき笑いながら喋った。

「二人とも、何か忘れてない?」
「何?」
「貴方達の、な・か・ま・た・ち♪」
「仲間って・・・・・・」

ジゼルがルシフェルの言葉を気にして辺りを見回すと、彼女の表情が凍りついた。それを見たマサシもつられて辺りを見ると、マサシも同じ様に驚いた。周りには体中から血を流し、倒れたり、壁にもたれて動かなくなっている神竜隊の仲間達が飛び込んできたのだ。

「皆!!」
「ひ、酷い・・・・」

マサシは動かなくなっているユウタ達を見て叫び、ジゼルも両手で口を押さえて震えた。

「安心しろ、死んじゃいない」
「ええ、もっとも一週間は絶対安静だけどね」

紅茶を飲みながら言うディアボロスとそれに続いて笑いながら言うルシフェル。そんな二人を見ながらマサシとジゼルの中に怒りが込み上がってきた。

「お前等、許さねぇ!」

マサシはジゼルを離し白龍刀を構えて跳びかかろうとした、だがディアボロスがその前に静かに告げた。

「止めておけ、今のお前は契約者の力を失っている。契約者である金山達でも勝てない俺とルシフェルに普通の人間であるお前が勝てるわけが無いだろう」
「何!?」

マサシは足を止めて驚いた。彼はまだ契約者の力を失った事に気付いていないのだ。勿論ジゼルも聖天使人の力を奪われた事に気付いていない。

「どういう事だ・・・・?」
「お前達契約者は俺達魔物と契約を交わして力を得ている。だがお前の契約相手である俺がお前と分離したという事は俺との契約も無かった事になる」
「何だって・・・・」

驚いて一歩下がるマサシ。この時、ようやく戦った時の異変に納得した。それに続いてルシフェルが力を奪った事をジゼルに言い始めた。

「そしてジゼル、貴方の聖天使人の力もあたしが分離した時に貰ったわ。ゴメンね♪」
「あ、あたしの力も・・・・」
「ええ♪」

ニコっと笑って頷くルシフェルに言葉を失うジゼル。マサシも驚いていたがすぐに正気に戻りディアボロスの方を向いた。

「答えろ、お前達の本当の目的は何だ!?」

ディアボロスは紅茶を飲み干しティーカップを捨てる。床に落ちたティーカップは高い音を立てて割れた。ゆっくりと立ち上がったディアボロスはマサシの方を向いて答える。

「いいだろう、教えてやろう。俺とルシフェルの目的をな」

ディアボロスとルシフェルは一歩ずつマサシとジゼルに近づき、約1m手前で止まった。

「俺達の目的、それは、世界のリセットだ」
「「!!?」」

ディアボロスの言葉に驚きと戸惑いを見せるマサシとジゼル。

「リ、リセット・・・・?」
「どういう事・・・・?」
「言ったとおりだ」
「ええ、この世界を作り直すのよ」
「作り直す?」

意味を理解できないマサシとジゼルに構うことなく話を続けるディアボロスとルシフェル。

「俺達はこの世界の全てを消して俺とルシフェルの理想の世界を作る。つまり、俺達が新しい世界の創造主となるのだ」
「創造主だと?」
「そうだ、まずこの世界の全ての住人を虚無宇宙(ゼロスペース)へ送り、無人となった世界を消して一から作り直す」
「そこにあたし達の理想の世界、強い者だけが生き残れる世界を作るのよ」
「強い者だけが生き残れる・・・・?」
「ええ、そして作り変えた後に虚無宇宙に送った人達をもとの戻すの」

いつの間にかマサシとジゼルはディアボロスとルシフェルに話しに傾けていた。

「正確には選ばれた強い者だけが生き残れる厳しい環境にこの世界を変えるのさ」
「空気さえも凍りつく氷原。凶暴な肉食獣が生息する危険なジャングル。全てを焼き尽くす灼熱の砂漠。己の体すらも蝕む猛毒の湿原。そんな辛く厳しい困難を乗り越えた人だけが選ばれし者になるのよ」
「その先には争いは勿論、矛盾や混沌も無く、不満や苛めや悩みも無い。ただ純粋に生きる為だけの世界が、永遠の楽園が待っているのだ。厳しい困難を乗り越えた者にこそ、楽園で生きる資格がある。お前達はそうは思わないか?」

ディアボロスとルシフェルの話を聞いていたマサシはフッと何かに気付いたように顔を上げ、ディアボロスの顔を見て口を開いた。

「ちょっと待て、お前達の話では、その世界はあくまで『力の有る者』だけが生きる世界って事だよな?」
「そうだが?」
「だったら力の無い者はどうなるんだ?」

最後にマサシが力のある声で尋ねると、ディアボロスは腕を組み、低い声で言った。

「弱い者は死ねばいい」
「そうよ、弱い者には生きる価値なんて無いわ」
「「!!」」

表情を変えずに冷徹な事を言うディアボロスとルシフェルを見て固まるマサシとジゼル。

「何だと・・・・」
「酷すぎる・・・・」
「酷い?どうして?」

驚くジゼルを見て理解できずに首を傾げる尋ねるルシフェル。ルシフェルに続いてディアボロスが腕を組みながら更に冷徹な言葉を続ける。

「自分の身すら守れない脆弱者には生きる事などできない。つまり存在する事すら許されない」
「だから力の無い者は見捨てるって言うのか!」
「そうだ」
「クッ!お前等イカれてる!!」

平気で弱い者を見捨てると発言するディアボロスを見て怒りが込み上がるマサシ。しかも自分と同じ顔をしているから更に腹が立つのだろう。

「ところでお前達、俺達がどうやって世界を作り直すと思う?」
「知るか!」
「なら教えてやろう。マサシ、お前は『ビッグクランチ』を知っているか?」
「・・・・・・宇宙そのものを収縮するって言われている宇宙現象だろう」
「そうだ」
「それがどうした?」
「あたし達はね、そのビッグクランチと同じ現象をこのラビリアンで発生させるのよ」
「何ぃ!?」

ビッグクランチをラビリアンで発生させるという意味不明な事を言い出すルシフェル。ジゼルは理解できずに首を傾げているが、マサシは言っている事が理解できたのか驚いていた。

「ば、馬鹿な事を言うな!そんな事不可能だ!」
「不可能じゃないわよ。あたしとディアボロスにはそれができるの」
「ああ、創造主になる俺達にならな」
「クッ!」
「ね、ねぇマサシ、さっきから何の話をしているの?あたしにも分かる様に話して」

話についていけないジゼルはマサシの腕を掴みながら少し怯える様な声で言った。マサシの取り乱し様を見てジゼルも何かとんでもない話をしている事が理解できたのだろう。

「アイツ等はラビリアンにビッグクランチを起こすつもりなんだ」
「ビッグクランチ?」
「全ての宇宙を収縮させる現象だ。『宇宙の終焉』とも言われている」
「宇宙の終焉・・・・。そ、それで収縮したらどうなるの?」
「・・・・消滅するって聞いた事がある」
「ええっ!?」
「この二人はそれと同じ現象をこのラビリアンでやろうって言ってるんだ・・・・」
「そ、それじゃあ、もしラビリアンで起きたら・・・・」
「ラビリアンは収縮し・・・・消える」
「!!!!」

ラビリアンが、世界が消えると聞かされたジゼルは言葉を失った。マサシとジゼルを見ながらディアボロスとルシフェルは笑いながら言った。

「フフフ、安心しろ、消滅するって言っても大陸が消えて海になるだけだ」
「そこに一から大陸を作り新しい世界ができるのよ」
「だが、お前達二人はその世界に足を踏み入れる事はできない。俺達と同じ顔を持つお前達は目障りなんでね」

怒りを表すマサシなど気にもせずに剣抜き、ゆっくりと近づくディアボロス。マサシとルシフェルはそれぞれ白龍刀とメタトロンを取り構えた、だが契約者と聖天使人の力を失った二人が勝つ事は不可能。

「止めておけ、今のお前達じゃ俺とルシフェルには勝てねぇぞ」
「そうよ、諦めてさっさと死になさい」

そう言って剣を構えて近づいてくるディアボロスとその隣で握り拳を作り共に近づいてくるルシフェル。

「クッ・・・・!」
「うう・・・・」

今のマサシとジゼルにはただ武器を持って立っている事しかできなかった。戦う力も、逃げる力も、もう自分達には残っていない。死を覚悟した、その時。

「そこまでです!」
「ん?」
「何?」
「「!!」」

ブリッジの入り口から聞こえてくる女性に声を聞き振り返る一同。そこには大剣を握るエミリアとゾークが立っていた。

「エミリア様!ゾーク!」
「二人とも、無事ですか!?」

エミリアはディアボロスとルシフェルを警戒しながら二人の下へ駆け寄った。

「俺達は大丈夫です、それよりユウタ達が・・・・」
「・・・・・・」

エミリアは傷ついて動けなくなったユウタ達を見て顔を歪めた。エミリアの後ろからゆっくりとゾークが歩いてきてマサシとジゼルを見る。

「無様だな秋円、アルフォント。自分と同じ姿の敵にやられるとは」
「クッ!うるせぇ!!」
「止めなさい、二人とも!」

言い争いを始めるマサシとゾークを止めるエミリアはディアボロスとルシフェルを見てゆっくりと口を開いた。

「話は聞かせてもらいました。と言っても、ビッグクランチを起こすってところだけですがね」
「フッ、そうか。なら、役者もそろった事だし、自己紹介もかねて改めて説明するとしよう」

ディアボロスとルシフェルの目的は世界の消滅と創造だった。そして彼等がいうビッグクランチ。一体何が起きようとしているのか、今はまだ誰も分からない。


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