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作品名:ラビリアンファンタジー 作者:ディオス

第123回   第百二十二話 ベンヌという名の棺桶

最下層でのエミリアとゾークの激闘。黄色と紫の光に包まれた部屋に大きな衝撃が響く。そして光と衝撃が治まったとき、部屋の真ん中に真っ直ぐ立つエミリアと膝をつくゾークがいた、エミリアが勝ったようだ。

「私の勝ちね、ゾーク」
「クッ、まさかこの私が・・・・」

まだ自分の敗北が信じられないのか、ゾークは俯いたまま低い声で言った。

「もう貴方には戦う力は残っていない、Urs(ウルス)も自然の四塔(フォーズド・ガイア)も全滅したわ。貴方達の負けよ」
「・・・・・・」

俯いたまま黙っているゾーク。エミリアはそんなゾークを見たまま話を進めていく。

「この戦いが終わり、ラビリアンの全てが元通りになったら、私達は混沌の楔を行う。それでようやく私達の呪われた運命も終わるわ」
「・・・・そうだな」

さっきまで黙っていたゾークはゆっくりと立ち上がりエミリアの方を見た。

「確かに、全て終わる」
「・・・・?」

何かゾークの言うことが引っかかるエミリアはジッとゾークを見た。

「私達の運命も、このラビリアンもな!」

ゾークは大きく後ろに跳び、無傷の核発射の制御装置の前に下りた。

「ゾーク!貴方、何をする気なの!?」
「分かるはずだ、私は無様に一人で敗北する男じゃない。今発射可能な核をサンドリアに撃ち込むのだ!」
「なっ!?」

なんとゾークはサンドリアに核を撃ち込むサンドリアに住む人々とその近辺にいる傭兵達を全て消し飛ばすつもりなのだ。

「やめなさい!これ以上無駄な血を流す必要はないわ!それにサンドリアの周りには貴方の部下達もいるのよ!」
「構わん!私と運命を共にしたのだ、こうなる事ぐらい覚悟しているはずだ!」
「やめて、ゾーク!!」

エミリアはゾークを止めようと走り出す。だが既に起爆コードを入力され発射ボタンにはゾークの指がついている。もう間に合わない。

「さらばだ!愚かな異世界人、そして哀れな傭兵達よ!」

ゾークは叫びボタンを押した。

「!!!」

エミリアは表情を固めその場に立ち止まった。核が発射され地上にいる多くの人々が命を落とした、はずだった・・・・。

「ん?なぜだ、なぜ核発射の合図であるサイレンが鳴らない?」
「え?」

ゾークは予想外の事に驚き部屋を見回す。それにつられるかのようにエミリアも辺りを見回した、確かに部屋の隅には工事現場などで使かわれているサイレンのような物が付いているが作動する様子はない。

「まさか、エミリア」
「え?」

突然自分の方を向いて話しかけてきたゾークに驚くエミリア。

「まさか君は俺がこうする事も予想して・・・・」
「え?ちょっと待って。私は何も指示してないわ」
「何?」

そう、これはエミリアも予想しないてかった出来事だったのだ。ゾークは腰についている無線機を慌てて取りスイッチを入れる。

「こちらゾーク、核装填班!一体どうしたのだ!」

無線機からはザーという音しか聞こえてこない。それもそのはずだ、この時、核装填班は何者かに襲撃を受けて全滅していたのだ。しかも核発射砲は修理不可能な状態まで破壊されていた。更にこの事はライトシンフォニア、ヘルデストロイヤーの両社の人間は誰一人気付いていない。





同時刻、格納庫を制圧したコンタとシオン、管制室を制圧したユウタとレイナはブリッジのある階へ続く階段で合流した。

「コンタ、シオン!」
「二人とも無事だったか」

ユウタとレイナは無事だったコンタとシオンを見て喜びの声を出す。レイナは相変わらず表情を変えず話しているが、声は明らかに嬉しそうな声だった。

「ユウタ、レイナ!二人も無事だったんだね」
「でも酷い怪我よ、大丈夫なの?」
「ああ、これくらい平気だ」
「でも念のため治療しておかないと、コンタ、お願い」
「分かりました」

ユウタとレイナはその場に座り、コンタは二人に回復魔法をかけ始める。そんな中、ユウタとレイナは何かを考えるような表情をしていた。

「どうしたの二人とも?そんな怖い顔しちゃって」

シオンがユウタとレイナの表情に気付いて尋ねると、二人は顔を上げてシオンのほうを向いた。

「いや、ここに来る途中に不気味なものを見ちまってな」
「不気味なもの?」
「管制室からここに向かう途中にヘルデストロイヤーの傭兵達の死体の山があったのだ・・・・」
「「!?」」

死体の山という言葉を聞いてフッと顔を上げるシオンとコンタ。

「死体の山・・・・?」
「ああ、しかもその死体は全て刃物で斬られて様な跡が付いていたんだ」

ユウタの説明を聞いていたコンタとシオンは俯いた。それに気付いたユウタは二人に声をかける。

「どうしたんだ?」
「実は、僕達もここに来る途中でヘルデストロイヤーの傭兵達の死体を見たんだ」
「「!?」」

コンタとシオンも死体を見た、これにはユウタとレイナも驚いた。

「お前達もか・・・・?」
「ええ、しかもその死体は全て殺傷力の高い猛毒を全身に浴びていたわ」
「毒・・・・」
「こっちは斬殺死体、そしてお前達は毒殺死体を見た、同一犯ではなさそうだな・・・・」

レイナが推理していると、シオンが話を続けた。

「でも、私達の会社には強い毒を使える傭兵も契約者もいないわ」
「ああ、俺達も斬殺死体を見たとき、マサシかエミリア様がやったと思っていたが、二人はあそこまで惨いやり方はしない」

シオンに話にユウタも加わり犯人が誰なのかを考えていると、突然無線機から発信音が聞こえてきた。レイナは無線機を取りスイッチを入れる。

「こちらレイナ」
「レイナか、俺だ」
「マサシか、どうした?」
「今何処にいるんだ?」
「ブリッジのある階へ続く階段だ、もうすぐそっちに着く。コンタとシオンにも合流した」
「そうか、たった今エミリア様から連絡が入った、ゾークに勝ったそうだ」
「本当か!」

エミリアの勝利の知らせを聞いて普段表情を出さないレイナの顔にも喜びの表情が出た。勿論コンタ、シオン、ユウタも同じだ。

「これで戦いも終わるな」
「ああ・・・・。ところで、お前達そこに行く前に最下層の核発射砲のある部屋に行ったか?」
「核発射砲?いや、行っていない」
「・・・・そうか」
「どうしたんだ?」
「実は、エミリア様の報告を聞いたとき、ゾークが悪あがきで核を発射しようとしたんだ」
「何!?」
「「「!!」」」

レイナ達は驚きの表情でマサシの声が聞こえる無線機を見た。

「あ、大丈夫だ。核は発射されなかった」
「そうか・・・・」
「だが引っかかる事がある、核を装填するヘルデストロイヤーの傭兵達から連絡が途絶えたらしい」
「え、どういう事?」

コンタが話に割り込むような形で尋ねると、無線機から低いマサシの声が聞こえてきた。

「この事はゾークも予想していなかった事らしい。エミリア様もそんな指示を出していない・・・・」
「という事は・・・・」
「俺達以外にこのベンヌに乗って勝手な事をしている奴がいるって事だ」
「・・・・第三者」

コンタが第三者という言葉を口にしたすぐ後に今度はユウタが話に加わってきた。

「マサシ、実は俺達も気になる事があるんだ」
「ん?」

ユウタは自分とレイナが見た斬殺死体、コンタとシオンが見た毒殺死体の事をマサシに話した。そして数分後、再び無線機からマサシの低い声が聞こえてきた。

「死体の山、か・・・・。まるでこのベンヌが巨大な棺桶みたいだな」
「うん・・・・」
「とにかく、エミリア様はゾークを連れてブリッジに戻るそうだ、お前達もブリッジに来てくれ」
「了解」

レイナは無線のスイッチを切り腰に収めて立ち上がった。

「一体、このベンヌで何が起きているの・・・・」

シオンが腕組んで考えていると、コンタがユウタの治療を終えて立ち上がりシオンの方を向いた。

「その事はブリッジに着いてから考えましょう」
「そうね、行きましょう」

四人は階段を駆け上がりブリッジへ向かって走り出した。それから数分後、四人はブリッジをドアを潜りマサシ達と合流した。

「マサシ!」
「よう!皆無事だったか」
「あったりまえよ♪」

シオンが親指を立ててウインクするとマサシ、ジゼル、ネリネの三人は顔を見合って笑った。その後ろからレイナ、コンタ、ユウタの三人も顔を出した。

「無事で何よりだ」
「お前もな」

ユウタはマサシの顔の前に拳を作り、マサシも拳を作ってユウタの拳に軽くぶつけた。ジゼルとネリネもレイナとお互いに無事を確認し合っていた。

「大丈夫か、二人とも」
「うん、あたしも姉さんも大丈夫、大きな怪我はしていないよ」
「ええ」
「そうか」

元気な二人の顔を見て少しだけ笑うレイナ。すると、傭兵の一人がレイナを呼びレイナはそっちに向かう。ネリネもコンタ達に挨拶してくると行ってしまった。残ったジゼルは窓から外を見ているマサシの方へゆっくりと歩いていった。

「これで終わったわね」
「ああ、これでこの世界にも平和が戻ってくる」
「うん」

ジゼルはマサシの隣に立ち一緒に外を見ていた。すると、ジゼルがマサシに話しかけてきた。

「ねぇマサシ」
「ん?」
「あの時の話の続き、聞かせてくれる?」
「あの時?」
「言ったじゃない、この戦いが終わったら貴方はどうするのかって話してたときよ」
「終わったら・・・・ああ、あの話か」

マサシはブリッジに向かう前に休憩でジゼルに話していた時のことを思い出した。

「言ったでしょう、この戦いが終わったら話すって」
「あ、ああ。そうだったな」

マサシは少し照れる様な表情でジゼルの方を向き、ジゼルもマサシの方を向いてお互いに向き合う形になった。

「ジゼル」
「うん」
「あのさ・・・・」
「うん」
「俺と・・・・」
「・・・・・・」

ジゼルは黙ってマサシが言うのを待っていた。

「ジゼル、俺と・・・・」

マサシがジゼルに自分の思いを打ち明けようとした、次の瞬間、マサシの体を何か鋭く尖った細長い何かが貫いた。

「なっ?」
「え・・・・?」

突然の出来事に驚きを隠せない二人。そしてマサシの背後から一人の男がゆっくりと顔を出した。それはなんと、赤い眼にマサシと同じ顔を持つ男。そう、ディアボロスだった。

「ご苦労だったな、お二人さん」

遂に戦いが終わった、かと思われた矢先、マサシとジゼルの夢に出てきたあのディアボロスが現実世界に現れマサシを襲った。一体この後どうなってしまうのか!?


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