竜の姿になったUrs(ウルス)の様々な攻撃を避け、時には受ける事もあったが、なんとか持ち堪えたマサシとジゼル。だが、決せて有利ではなかった。姿を変えてからUrsは人型の時にはできなかった複雑な攻撃をして来る。しかも竜になってから二人の攻撃は一度もUrsに当たっていない。
「早いとこケリをつけないと危ないな」 「でもどうするの?」
電流を受け、体が麻痺して思うように動けないジゼルは座り込んで立っているマサシを見上げた。マサシは視線をそのままにしてジゼルに言った。
「ジゼル、動けるか?」 「ゴメン、まだ体が痺れてうごけない・・・・」 「そうか、よし、ジゼルお前のここで痺れが取れるまで休んでいろ」 「え?」 「その間は防御の結界を張る事を忘れるなよ?」 「で、でも・・・・」 「俺は大丈夫だ、だから休んでろ。その代わり痺れが取れたらすぐに助けに来てくれよ?」
最後にニッと笑って親指を立てるマサシ。そんな彼の顔を見たジゼルも少しだけ笑って頷いた。
「分かった、すぐに行くから」 「ああ、じゃあ行ってくる!」
マサシは竜翼を広げUrsに向かって飛んでいった。そしてジゼルはエンジェリックシールドを張って防御に専念した。
「いくぞ、Urs!」
マサシは黒龍刀と白龍刀を再び構えてUrsに突っ込んでいく。Ursは自分に突っ込んでくるマサシに向けて鋭い鉄の爪を構える。そして、お互いの攻撃が届く距離まで近づいた瞬間、マサシは二本の刀で攻撃し、Ursも勢いよく鉄の爪で突いた。マサシの交差する刀とUrsの爪がぶつかり火花を散らす。
「フッ!」 「ハッ!」
低空で浮いたままのマサシはUrsの爪を弾くようにして離れ距離を作る。Ursは弾かれた爪を気にもせずにマサシの方を向いて大きな竜の口を開いた。口の中が黄色く光だし攻撃の準備に入る。
「またアレか!」
浮いたままマサシはUrsが再びアトミックイレイザーを放ってくると確信し契約魔法の演唱を始めた。
「雷雲よ、我が意志となり敵を貫く刃となれ!」 「演唱はさせん!アトミックイレイザー!!」
口から黄色い大きなビームを発射させ、そのビームはマサシに迫っていく。だが、それと同時にマサシの演唱も終わった。
「サンダーソード!!」
刀を持ったまま左手をUrsに向けると、マサシの目の前に紫色の電流の剣が現れUrsの方に飛んでいく。そして剣とビームがぶつかり、大きな爆発を起こした。
「おわっと!」
爆風に押され、空中で少し体制を崩したマサシはクルっと一回転してゆっくりと着地した。煙が消える頃、マサシの視界には一歩も動かず、無傷のままのUrsの姿が飛び込んできた。
「なかなかいい判断だ、あの状態で契約魔法を発動し俺の攻撃を防ぐとは」 「お褒めにいただき恐縮」
そんな事を言ってはいるがマサシは全然喜んでいない、それどころか逆に苛立っているくらいだ。マサシは再び二本の刀を構えてUrsの攻撃に備える。
「だが、そんな戦法がいつまで俺に通じるかな」 「何が言いたい?」 「忘れたのか?俺は機械ではあるか心臓部は人間の脳だ、更に俺の脳は機械と直結している。ようするに俺は人間の知性でコンピュータと同じ学習能力と速度を持っているのだ。お前の戦法やパターンをすぐに見極める事ができる」 「だから負けないって言いたいのか?」 「フフフフッ」
マサシの質問に笑って返すUrs。マサシは構えたまま頭を回転させて次の手を考えていた。
(落ち着いて考えろ、奴の言っている事は恐らく本当だ。このまま同じように戦っていてもすぐに戦略が読まれちまう、どうすれば奴の裏をかける?)
必死で対抗策を練っているマサシを見てUrsはゆっくりと翼を広げる。
「いくら考えても無駄だ、お前では俺には勝てない。俺は常に相手の先を読んで行動するのだ、お前がどんな方法で攻撃してこようと俺には通じない」
Ursが翼を広げた後、翼の真ん中のブースターが火を噴いた。ゆっくりと浮上するUrsを見てマサシもゆっくりと翼を広げて飛ぶ準備に入った。
(チッ!あの巨体でこんな狭い訓練所を飛び回れたら大変な事になる。早いとこ・・・・・・ん?)
策を練っているマサシが何かに気付いた。
(アイツ、さっきなんて言った?・・・・・・確か、『俺は常に相手の先を読んでいる』って・・・・)
マサシはUrsの言った事を思い出し、改めて作戦を練り始める。そして何か思いついたような顔をしてUrsと同じ高さまで浮上した。
「いい作戦が浮かんだか?」 「ああ・・・・」
同じ目線まで上がってきてマサシに尋ねるUrs。マサシは低い声で頷いた。
(奴が開いての先を読むなら、それを逆手に取ればいい。だがこれはハッキリ言って捨て身に近い。あとでジゼルに怒られるだろうが、仕方ないか)
心の中で呟き、最後に苦笑いをすマサシ。
「何を笑っている?」 「なんでもない、決着をつけるぞ!」 「フン、ぬかせ!」
そう言ってUrsが全速でマサシに突っ込んでいき、マサシも全力でUrsに突っ込んでいった。ぶつかる直前にマサシは降下しUrsの真下を通り過ぎた。
「背後を取ったか?」
自分の真下を通過したマサシを見たUrs。だが慌てる様子はない、どうやらこれも予想していたのだろう。
「無駄な事だ」
そう言った瞬間、Ursの尻尾の先が自分の後ろにいるマサシに向けられた。そして尻尾の先から赤いレーザーが放たれた。
「何ぃ!?尻尾からもレーザーだと!」
背後から迫るレーザーを見て驚くマサシは上昇しながらクルッと円を書きレーザーをかわした。
「あっぶね〜!」
なんとかレーザーをかわして一安心するマサシ。だが後ろからUrsがもの凄い勢いで迫ってきた。
「安心するのは俺を倒してからにしろ!」 「!」
迫ってくるUrsを見て一緒ン驚いたがすぐに表情を戻すマサシ。
(さぁどうする秋円。かわすか?それともレベル・3を発動するか?まぁどんな手を打っても俺はすぐに対処できるがな)
マサシがどんな行動を取ってもすぐに対処できるように考えながら向かって行くUrs。だが、マサシはUrsが予想もしていなかった行動に出た。なんと、もの刀を構えながらUrsに向かってきたのだ。
(何!正面から突っ込んできただと!?)
予想もしていなかった事に驚くUrs。当然だ、今のマサシの行動は特攻。それは万策尽きた時に使う捨て身の行動なのだから。
(奴程の男がすでに万策尽きたとでも言うのか?いやだからと言って奴がこんな捨て身の仕掛けてくるはずがない!)
マサシの考えを読む事ができずに混乱するUrs。そんな事をしている間にマサシはもうUrsの目の前まで来た。
「ッ!このぉ!!」
Ursは咄嗟に右手の爪でマサシに攻撃したがマサシは再びUrsの真下へ移動して攻撃を回避し、そのまま二本の刀を縦に持ち、飛んだままUrsの体を真下から切り裂いた。
「クッ!ガキがぁ!!」
マサシが自分の真下を通り過ぎた直後にUrsは尻尾でマサシの背中を攻撃した。
「グワァ!!」
背中に走る痛みにマサシは声を上げてそのまま落下していき床に叩きつけられた。
「マサシ!」
離れていた所で休んでいたジゼルはエンジェリックシールドを解除し、翼を広げてマサシの所まで飛んで行きマサシの近くに座り込んだ。
「マサシ!大丈夫!?」 「う、あ、ああ。なんとかな・・・・」 「何考えてるの!真正面から突っ込んで!」
マサシが予想していたとおりジゼルは目くじらを立ててマサシを怒鳴りつけた。
「ハハハ、悪い・・・・」 「ハハハじゃないわよ!今の貴方はさっきの電流を受けてかなり体が弱ってるのよ!そんな体で突っ込むなんて、無謀もいいところだわ!」 「ゴメン、でもアイツを見てみろよ・・・・」 「え?」
マサシは倒れたまま空中のUrsを刀で指し、ジゼルもそれを見る。彼女の目には体に大きな縦の切り傷を二本残したUrsが飛び込んできた。そこからはバチバチと電気が走っている。
「ガ、ア・・・・お、おのれぇ・・・・!」
斬られた箇所を押さえて痛みの耐えるUrs。その光景を見てジゼルは驚いていた。
「ど、どうして?アイツの体はアストラル超合金でできてるんじゃ?」 「ああ、確かにそうだ・・・・」
理由が分からずに驚いているジゼルを見ながらゆっくり起き上がるマサシ。
「もう痺れは取れたのか?」 「う、うん」 「じゃあ、とりあえずアイツの所まで行こうぜ?」 「え?で、でもその体じゃ・・・・」 「大丈夫だよ。さ、行こうぜ」 「う、うん、分かった」
マサシとジゼルはそれぞれの翼を広げてUrsと同じ高さまで飛び上がった。目の前まで飛んで来た二人を見てUrsは低い声を出した。
「クッ!なぜだ!なぜこんな捨て身の攻撃をして来た!?」 「お前は最初に俺達の攻撃を受けた後に竜の姿に変形した。そしてその後は俺達の攻撃を避けてばかり、アストラル超合金でできているお前の体だ、普通の攻撃なら受けても大丈夫なはずだ。それで考えたんだ、竜の姿になったお前は攻撃力が上がる分、防御力は人の姿の時よりも格段に下がってるんじゃないかってな」 「・・・・ッ!!」
自分を指差して推理を口にするマサシを見て驚くUrs、どうやら図星のようだ。そしてマサシの隣で話を聞いていたジゼルも少し驚いていた。
「そもそもお前は体の装甲を動かしてその姿になったんだ。竜の姿になる為に装甲を動かしたのであれば元々装甲の有った箇所は脆くなるそこなら普通の攻撃でもお前にダメージを与えられると思ったんだ」 「それで、あんな捨て身を・・・・?」 「ああ、それにお前は常に相手の行動を先読みしている、だがら俺がやらないような行動にはすぐに対処できずに隙ができると思ったんだ。現にお前はさっき俺の攻撃をまともにくらったしな」 「それじゃあ、さっきマサシが斬りつけた所は・・・・」 「そう、普通の金属でできた所さ」
ジゼルの方を見て頷くマサシ。
「クッ!でもなぜ竜の姿になった俺の防御力が人間の姿の時よりも劣っていると分かったんだ?貴様のさっきの話ではあくまで仮説の筈だぞ!」 「お前が壁に激突した時、最初よりも感情的になったじゃないか。それに頭の装甲、すこし凹んでるぜ?」 「何!?」
そう言って頭を手の届く所まで持っていき触って調べるUrs。確かに少しだけ頭の装甲が凹んでいた、勿論そこはアストラル超合金じゃない箇所だ。
「お前、自分の心がないって言ったが、感情的になるのがお前に心がある証拠だ」 「クッ!」 「・・・・・・Urs、覚悟しろ!」 「!!」
そう言った瞬間、マサシはUrsに向かって飛んで行き、切り傷のある場所に攻撃を仕掛けた。Ursは自分の弱点が読まれた事、マサシの自分に対する怒りに驚いて反応が鈍っていた。
「双竜剣奥義、烈空凱覇斬(れっくうがいはざん)!!」
黒と白のオーラを纏った二本の刀を構え、切り傷のある箇所に斬撃を放つマサシ。攻撃が当たった箇所で爆発が起き装甲が破壊された。
「グワアーーーー!!」 「今だジゼル!」 「う、うん!」
ジゼルはマサシに続いてメタトロンを構え、Ursに近づき爆発した箇所にメタトロンの短い部分を向ける。そして持ち手についているボタンを押した。そして短い部分の先か黄色く光だし、大きな音と衝撃波を放った。G36 バレットの内部破壊攻撃だ。
「グガアーーーーー!!」
G36 バレットの攻撃を受けた箇所で再び爆発が起き、Ursはそのまま落下し大きな音を立てた。
「ば、バカな・・・・俺が・・・コんナ、ニん間に・・・・・・」
その言葉を最後にUrsの機能は完全に停止した。それを空中でマサシとジゼルはジッと見ていた。
「・・・・フゥ、勝ったね」 「ああ・・・・」
静かに勝利を確信してお互いの顔を見る二人、マサシは動かなくなったUrsをもう一度見て目を鋭くした。
「Urs、人の心を弄んだ事、しっかり反省しろ」
遂にUrsに勝利したマサシとジゼル。あとはブリッジに向かいゾークを止めるだけ、いよいよこの戦いもクライマックスに突入する、果たしてどの様な結果を迎えるのか!?
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