Ursとの戦いを終えて町に戻ったマサシとジゼルは病院で手当てを受けていた。
「酷い傷ですね・・・」 「幸い命に別状はないけどな・・・・」
医者とは看護婦はUrsとの戦いで傷を負った二人を見ながら言った。あの後二人は傷だらけの身体でサンドリアに戻りそのまま病院へ向かったのだ。
「一体どうしたらこんな傷を負うのだね?」 「いや、色々ありまして・・・・」
マサシは医者の質問を適当に流して隣のベッドで横になっているジゼルの方を見た。
「ジゼル、大丈夫か?」 「う、うん・・・・なんとかね・・・」
ジゼルはマサシの問いかけに少し戸惑いながら背を向けて返事をした。黒竜の姿のマサシを思い出したのだろう。
「これで治療は終わったが、しばらく傭兵の仕事は禁止だぞ」 「はい」 「は〜い」 「はい、もう起きても大丈夫よ」
ベッドから起き上がったマサシとジゼルはゆっくり病室を出て待合室に向かった。
「・・・・・」 「・・・・ねえ、マサシ」 「ん?」 「さっきはごめん・・・」 「さっき?」 「さっきマサシが心配してくれたのに、あたし・・・」 「そんな事を気にしてたのか?」 「だって・・・・ドラゴンから元の姿に戻った時や町に帰って来た時も」 「気にするなって。まあ、少しはショックだったけど」 「ご、ごめん、ごめんなさい」 「冗談だ♪」
マサシの半分ふざけた様な言い方にジゼルは頬を赤くしながら怒った。
「も、もう!あたしは真剣に謝ってるのに!」 「わりぃわりぃ、でも少しは元気になった」 「え?」 「気にしすぎだ。やっぱりお前には落ち込んでる顔は似合わねぇよ、明るい顔の方が俺は好きだぜ」 「・・・・・」
マサシの中の小さな優しさを改めて実感したジゼル。彼女は思った、どうして彼はこんなに優しいのだろうかと。
診察が終わり、薬をもらって病院を出た二人は施設に戻ろうとした。すると、遠くのほうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「二人ともー!」 「ん、あれって・・・」 「シンディだな・・・」
シンディがもの凄い勢いで走ってきた、砂煙を上げながら。そして二人の目の前でキキーッと音を立てながら急ブレーキをかけた。
「ど、どうしたの、シンディ?」 「どこか昔のギャグマンガのリアクションに似ていたな・・・」 「マンガ?」 「い、いや、なんでもない・・・・」
慌てて誤魔化すマサシを見て首を傾げるジゼル。そんな事を気にする事もなく二人の顔に自分の顔を寄せるシンディ。
「ハァハァ・・・ア、アンタ達・・・探したわよ。ハァハァ・・・」 「お、落ち着いてシンディ」 「まず顔を離せ、吐息がかかって気持ち悪い・・・」
二人に言われ顔を離し、大きく深呼吸をして落ち着いた彼女は再びゆっくりと口を開いた。
「アンタ達、どうしたのその怪我?」 「今気付いたの?それよりどうしたの?」 「王宮の兵士達がアンタ達を探してるのよ」 「ええ!王宮の人達が?」
声を上げるジゼル。王宮にシンディの知り合いがいる事は二人も知っていたが、この様子だとただ事ではないという事も二人は分かっていた。
「どうしてあたし達を?」 「さあな、そもそもどうして王宮の人間が俺達の事を知ってるんだよ?」 「ユニフォリアの事は町中だけじゃなくて王宮にも知れ渡ってるらしいのよ」
マサシ達が飛竜ユニフォリアを倒した事は相当大きくなっているようだ。当然だろう、この時期に出るユニフォリアはとても凶暴で倒せる傭兵などいない、でも実際、マサシ達はそのユニフォリアを倒したのだから。
「なるほど、それで俺達の事を知ってるって事か・・・それで、なんでその城の連中が俺達を探してるんだ?」 「アンタの事はかなり噂になってるの『異世界から来た謎の傭兵少年』ってね」 「それで?」 「それで、アンタと似たような格好をした子供を見つけたって聞いたの」 「子供?マサシと同じ世界から来た人間って事?」 「そこまでは分からないけど、とにかく、その子供にお城の人間も手を焼いてるのよ。そこでアンタを探してるって訳」
マサシは自分と似た格好、同じ世界から来た人間かもしれない、という事に頭を悩ませた。する何者かが声をかけてきた。
「おい、そこのお前!」 「ん?」 「お前か、ユニフォリアを倒したという異世界の傭兵は?」
マサシ達が声のする方を向くと、そこには青いマント、金髪のポニーテールの女が立っていた。
「セリーナ!」 「シンディ、お前も一緒だったか」 「シンディ、知り合いなの?」 「ええ、彼女はセリーナ・カリセリナス。ユピロース王家の護衛隊長よ」 「護衛隊長!?」 「ええ、ちなみに彼女が私を護衛隊に入らないかって誘ってくれたの」
突然現れた王宮の護衛隊長に驚くジゼル、だがマサシはそれほど驚く様子はなかった。
「でもセリーナ、どうしてここにいるの?」 「お前に例の子供の話をしたら、途端に顔色を変えて酒場を出て行ったから部下に後を付けさせたんだ」 「あらら・・・」 「お取り込み中悪いんだけど、俺になんか様かセリーナ隊長?」 「フン、異世界の人間が気安く私の名を呼ばないでもらいたいな」 「失礼、それよりも、シンディから聞いたんですけど、俺と同じ世界から来たという子供は今どこに?」 「城だ、突然『自分は傭兵だ!』などと言い出すからふざけているのかと思ったが、そいつの力を見たら只者ではないと確信した。おまけに捕まえようとした私の部下が数名そいつにやられて怪我を負ってしまった」 「そりゃ捕まえようとすりゃ誰だって抵抗するさ」
そう言った直後、マサシは心の中で確信した。自分と同じ世界の人間だと。
「そいつに合わせてくれるか。て言うか、会わせる為に俺を探してたんだろ?」 「その通りだ、我々と一緒に来てもらおう」 「わかった・・・」 「マサシが行くならあたしも・・・」 「ダメだ」
ジゼルの行動はセリーナに阻止された。
「どうして?」 「関係のない人間を城に連れて行くわけにはいかない」 「セリーナ、この子は彼と一緒にユニフォリアと戦った子なの。関係ない事はないわ、だから連れてってあげて」 「お前の頼みでもそれはできん」
シンディのフォローも簡単に砕かれてしまった。するとマサシが言った。
「彼女を連れて行かないのなら俺も行かない」 「なに?」 「マサシ・・・」 「彼女はこっちの世界では俺の事を一番よく知っている人だ。彼女は今では俺の相棒同然だ、いやならこの話はなかったことに・・・」 「いいのか?アイツは城でかなり暴れたからな、このまま放っておけば処刑せれるかも知れんぞ?」 「脅しか?俺には脅しは効かん。それに、そいつは多分俺の知っている奴だ。もしそうだったら、放っておけば処刑する前に城が滅茶苦茶になるぞ」 「な、なに!?」
一度その子供の力を見たことのあるセリーナはマサシの言っている事に一理あると踏んだ。そして彼女は折れた。
「わ、分かった・・・・」 「ニッ♪」 「フフッ」
マサシはジゼルの方を向きニヤリと笑い親指を立てた。ジゼルもマサシの笑う姿を見て微笑んだ。
セリーナに案内され、城門前にやってきたマサシ、ジゼル、そしてシンディの三人。門の前で四人は立ち止まった、城門が開くのを待っているのだろう。するとマサシはセリーナに問い掛けた。
「訊きたい事があるんだけど」 「なんだ?」 「その子供、なんていう名前だ?」 「随分変わった名前だ」 「だから、なんていう名前だ?」 「本人はツキモトコンタと言っていたな」 (やっぱり・・・・)
誰なのかが分かった時マサシは心の中で呟いた。
「そのコンタって、確かマサシと同じ傭兵で貴方の相棒だって言ってた?」 「ああ、アイツは傭兵としては一流だ」 「やはりお前の仲間だったか」
城門の警備をしている兵士がセリーナを確認し、ゆっくりと門を開けた。城門が少し開いた時、一人の兵士が飛び出してきた。それもかなり慌てている様子で。
「セリーナ隊長!」 「どうした?」 「ま、またあの子供が騒ぎ出しました!」 「なんだと!?」
さっきまで冷静だったセリーナが突然熱くなった。
「おのれ、これ以上城の中で暴れられてたまるか!!すぐに捕まえろ、それが無理なら処刑しても構わん!!」 「ハッ!」
兵士はセリーナの命令を聞きすぐに王宮内に戻って行った。そんな光景を見てマサシは慌ててセリーナに言った。
「おい、そりゃまずいだろ!」 「お前には悪いがこうなった以上、もう野放しにはできん!」 「そうじゃない、アイツは俺の組織の中でも指折りの実力者だ。そんな事したら返り討ちに遭うぞ」 「今までは子供だと思って侮っていたが、今度は油断しない!」
セリーナはそう言って王宮の中へ走って行った。
「ねえ、これってまずいよね・・・?」 「ああ、ある意味な・・・」 「だったら急ぎましょ!」
三人は走ってセリーナの後を追った。王宮内を走っていくと一つの部屋の前で数人の兵士が倒れているのが見えた。慌てて部屋の中を覗くと数人の兵士に囲まれている少年がいた。その少年は金色の狐耳と髪、服装は普通のトレーナーに半ズボンとスニーカー、彼は間違いなくマサシと同じ神竜隊の月本コンタだ。
「も〜、これじゃあキリがないよ」 「小僧!覚悟しろ!!」
一人の兵士が剣を抜き切りかかろうとした瞬間、コンタはその兵士の懐に入り込み腹部に掌打を打ち込んだ。掌打を打ち込まれた兵士は部屋の外へ突き飛ばされた。
「おわぁ!」 「キャア!」 「うわぁ!」
兵士にぶつかる寸前に三人はかわした。兵士は壁にぶつかり、うつ伏せに倒れ気絶した。
「凄い力ね・・・」 「ああ、あれでも俺の部隊の中では一番力が弱いんだよ」 「あれで一番下なの・・・?」
ジゼルとシンディは信じられなかった。当然だ、自分の目の前いるのはまだ12歳の幼い子供なのだから。
「何をしている!早く止めろ!」 「は、はい!」 「おいおいおい、それくらいにしてくれよ」
マサシの声に反応し、セリーナや兵士達が振り返った、勿論コンタも気付いた。
「マサシ!」 「よう、コンタ」 「やっと見つけたよー!」
コンタは兵士の間を潜り抜けマサシの元へ走り彼に飛びついた。
「おいおい、抱きつくなよ。女じゃないんだから」 「なに言ってるんだよ、数日も行方不明になった仲間に再会できたんだよ、飛びつきたくなるに決まってるじゃないか!」 「はぁ、まだまだ子供だな」
二人はさっきまでの出来事を忘れたかのように話していた。だがセリーナによってその時間は終わった。
「おい!まだこっちは片付いてないぞ!」 「なんですか!折角の仲間との再会をぶち壊して!」 「お前はこの王宮でどれだけ暴れたと思っている!?お前のやった事は重罪だ!」 「先に僕の事を怪しいって言って捕まえようとしたのは貴方達でしょ?正当防衛だよ!」 「なにを訳の分からない事を、なんにせよ、お前をこのまま無罪にするつもりはない!」 「待ってくれセリーナ隊長!コンタ、お前はどうやってこっちの世界に来たんだ?」 「あ、そうだった。僕、実は任務で来たんだよ」 「任務?」 「一つはマサシを探す事、もう一つはマサシを見つけた後に急いで元の世界に連れて帰る事」 「急いで?どうして?」
数日ぶりの仲間との再会、実際はあきれる様な言い方だが、彼も嬉しいに違いない。だが、コンタの来訪は大きな戦いを知らせるものだとはマサシは気付かなかった。
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