お互いの最強の契約魔法をぶつけ合ったシオンとサヤカ。2つ炎がぶつかった事で起きた爆発は格納庫に一瞬で広がり、ベンヌの分厚い装甲を突き抜け、機外まで爆発が届いた。ベンヌからは黒煙が上がっている。
「う・・・・」
格納庫の中でうつ伏せに倒れているシオン。大爆発で格納庫の中はメチャクチャだった。停止していたハリアーUは全て大破し、格納庫の壁に大穴が開き、外から丸見えになっていた。
「イタタタ、少し派手にやりすぎたわね・・・・」
傷口を押さえながらゆっくりと起き上がったシオンは格納庫を見回した。
「!」
格納庫を見回すシオンは何かを見つけた。それは仰向けに倒れピクリとも動かないサヤカだった。
「サヤカ・・・・」
立ち上がりふらつきながらサヤカに向かって歩いていくシオン。サヤカの近くまで歩いてきたシオンはゆっくりと正座をした。
「皮肉よね、10年前(あの時)お互い契約を交わさなければこんな事にはならなかったのに・・・・」
10年前に契約を交わしてしまった事を思い出しながら寂しそうに言うシオン。すると、倒れていたサヤカの眉が微かに動いたのが見えた。
「うう・・・・」 「・・・・サヤカ?」 「う・・・・シ、シオン・・・・」 「この勝負、アンタの負けよ。私はこうやって起き上がる事が出来るけど、今のアンタはもう起き上がる事も出来ないでしょう?」 「ええ、そうね・・・・私の負けよ・・・・・・」 「!?」
サヤカはさっきまでと違い気の抜ける様な喋り方はしていなかった。それどころか、彼女の声に少しだけ温かさがあった。それの声を聞いたシオンは驚きの表情を見せた。
「サヤカ、ア、アンタもしかして・・・・元に戻ったの?」
そう、サヤカは契約を交わす前の、シオンの親友だった時の彼女に戻っていたのだ。
「エヘヘヘ、そうみたいね・・・・」 「ど、どうして・・・・?」 「多分、魔物に取り込まれていた『もう一人』の私があなたに倒されたからだと思うわ・・・・」
もう一人の私、さっきまでの気の抜けるような喋り方をしていた「サヤカ」の事を言うサヤカ。彼女は体中傷だらけで力の無い声で笑っていた。
「・・・・シオン、ゴメンね。私のせいでこんな事になって・・・・・・エホッ!ケホッ!」 「サヤカ!」
倒れて咳をしながら吐血をするサヤカ。シオンは慌てて彼女を抱き起こした。
「喋らないでサヤカ!すぐにコンタを呼んでくるから、それまで・・・・」 「ケホッ!ゲホッ!・・・・・・無理よ、肺をやられたわ。治療の魔法でも助からない・・・・」 「諦めないで!絶対助かるわ!」
必死でサヤカを励ますシオン。シオンの目はほんの少しだけだが潤んでいた。
「もういいのよ、多分これは神様が下した私への罰なんだと思う・・・・」 「何言ってるのよ・・・・」
とうとうシオンの目から涙が溢れ、彼女の頬を伝って床に落ちた。
「シオン、私はあなたの事を羨んでいたの・・・・」 「え?」 「私の両親はあなたの両親だけでなく、お互いに不仲だったわ。私が物心付く時から喧嘩ばかりしていて、私の家庭には一筋の光も入らなかった。私の両親とは仲が悪かったけど、お互いに仲がよかったあなたの両親とそんな両親に育てられたあなたが羨ましかった・・・・・・。そこをイフリートに付込まれたんだと思うわ、その結果、私は契約者の力に取り込まれて自分を失ってしまった・・・・。そして、自分とあなたの両親を殺してしまったの・・・・。」 「・・・・・・」
サヤカの話を涙を流しながら聞いているシオン。彼女の目から涙が止まる事はなかった。
「私が・・・・あの時魔封石に触れさえしなければ、あんな悲劇を生み出すことも無かったのに・・・・・・ゴメンね、シオン」
倒れたままシオンに顔を見て涙を流すサヤカ。そんなサヤカを見てシオンは彼女の抱き寄せてゆっくりと口を開いた。
「それなら、私にも謝らせて・・・・私はアンタがそんな辛い思いしている事に気付かなかった。その上、私はアンタが自分の力に取り込まれて変わってしまったのだと勝手に思い込んで・・・・・・」 「シオン・・・・」 「ゴメンね、サヤカ!」
サヤカを抱きしめ、泣きながら謝罪するシオン。サヤカは震える手をシオンの背中に回して抱き返した。
「いいのよ、原因は全て私、あなたが謝る事はないわ・・・・」 「で、でも・・・・!」 「いいの・・・・」
サヤカは弱々しく笑い、そんなサヤカを見てシオンは泣き止んだ。
「ありがとう、シオン。やっぱりあなたは私の最高の友達よ・・・・」 「・・・・・・ええ、親友よ」
笑いながら礼を言うサヤカ。そんな彼女を笑顔を見て涙を拭き笑い返すシオン。
「シオン・・・・最後に、本当の私としてあなたと話せて・・・・よか・・・・た・・・・・・」
最後にシオンに自分の気持ちを伝えたサヤカ。彼女は目を閉じ、シオンの背中に回っていた手はゆっくりと床に落ちた。
「・・・・・・サヤカ?」 「・・・・・・」 「サヤカ?サヤカ!?」 「・・・・・・」
必死でサヤカを呼ぶシオン。だが既にサヤカは息を引き取っていた。
「・・・・・・サヤカ」
泣きながら息を引き取ったサヤカを再び抱き寄せるシオン。自然の四塔(フォースド・ガイア)との戦いには勝利したが、苦い勝利だった。そして何よりシオンの心には大きな傷ができてしまった。
コンタとシオンがハヤテとサヤカとの戦いを終えた頃、ユウタとレイナはヘルデストロイヤーの傭兵達と対峙していた。
「クソッ!なんて数だ!」
十字路の壁に隠れながら通路を覗き込むユウタ。ファマスとMP5を撃っちながら一歩一歩自分達に近づいてくる敵の傭兵。レイナはユウタが隠れている壁の反対側の壁に隠れながらSAAに新しい弾を装填している。
「奴等の後ろに管制室があるって言うのに!」 「やはり重要な部屋の警備は堅い・・・・」 「どうするかねぇ・・・・」
ユウタはP90の弾倉(マガジン)を新しいのに変え、壁に隠れながらそっと敵の方を見た。少しずつ距離が縮んできた、しかも敵は撃ち続けているので反撃できない。
「このままではマズイ・・・・。仕方がない」 「レイナ?」
何かを思いついたレイナはSAAを納めて目を閉じた。
(・・・・・・契約魔法か?)
ユウタの読みは当たっていた。レイナは目を閉じて小声で呪文を演唱していた。
「猛れ、大地を揺らす王者の咆哮!グランドブレイク!!」
演唱を終えて魔法の名前を叫ぶと、敵の傭兵達の足元から先の尖った岩の柱が次々と現れ、傭兵達を一掃した。
「「「ぐわあああああああ!!」」」
通路に傭兵達の叫び声が響き、魔法攻撃が終わると岩の柱は砂が舞うように消えた。敵が倒れた事を確認したユウタ達は警戒しながら傭兵達に近づいていく。
「これど先へ進めるな・・・・」 「ああ、しっかしこんな狭い通路でこんな派手な契約魔法使うか?敵が気付いて飛んで来るぞ?」 「奴等は既に私達のことに気付いている、今更派手にやろうと現状は変わらん・・・・」 「それもそうだな」
レイナの言う事に納得したユウタは倒れている傭兵達をまたいで先へ進み、レイナと同行している数人の傭兵もその後を追う。しばらく通路を走っていると、彼等の目に1つのプレートが飛び込んできた。「管制監視室」と書かれていた。
「ここだ!」
ユウタはプレートの隣のドアを見てレイナ達を呼んだ。
「ここを制圧すれば敵の動きやベンヌの軌道を変える事が出来る」 「よし、突入するぞ・・・・」
ユウタとレイナがドアを挟む様に壁に張り付き管制室の様子を探った。そしてユウタがドアの横についている小さなボタンを押し、ドアを開けた瞬間中に突入した。だが・・・・。
「「!?」」
ユウタとレイナは管制室を見て眼を疑った。
「誰もいない?」
ユウタが辺りを見回すと、部屋の中には無数のコンピュータやキーボード、そして沢山のモニターがあるだけで誰もいなかった。
「どういう事だ?」 「気配がないな・・・・」
意識を集中させて誰かいないか探るが、やはり自分達以外の気配は感じられない。
「変だな、ここはベンヌを管理する重要な部屋の1つだ。無人なんておかしすぎる」 「何であれ、一度細かく調べてみたほうがいいな・・・・」 「ああ」
レイナは部屋の奥へ歩いていき、ユウタは外で待機していた仲間の傭兵を呼んだ。
「今からこの部屋を徹底的に調べる、もしかしたら罠が仕掛けてあるかもしれない、十分注意して調べてくれ!」 「「「了解!」」」
ユウタの命を聞き敬礼する5人のライトシンフォニアの傭兵達。彼等はG36を構えながら散開した。
(・・・・・・しかし、やっぱり気になる。どうして誰もいないんだ?)
ユウタが心の中で考えていると、突然何処からか声が聞こえてきた。
「待っていたぞ、ライトシンフォニアの諸君」 「「「!!」」」
管制室に響く男の声を聞きユウタ達は驚きの表情で天井を見上げた。天井にはスピーカーが取り付けられており、そこから声が聞こえてきたのだ。そして次の瞬間、管制室のドアが閉まり、ガチャっとロックのする音が聞こえた。
「しまった!」 「罠か・・・・」 「そのとおりだ」 「「!!」」
ユウタとレイナが奥にある別のドアから聞こえてくる男の声に気付き、自分達の武器を構える。それにつられる様に仲間の傭兵達もG36を構えた。聞こえてきたのはスピーカーから聞こえてきた男の声と同じ声だ、そしてドアがゆっくりと開き、中から二人の男女が出てきた。
「・・・・!お前達は」 「リーズ、そしてゴードン・・・・」
そうドアから出てきたのは自然の四塔のリーズとゴードンだったのだ。
「ようこそ、俺達のバトルステージへ」 「ここでお前達を屍に変えてやろう・・・・」
ハヤテ、サヤカの二人を倒し、残る自然の四塔もゴードンとリーズのみ。だがユウタとレイナはゴードンとリーズの罠にかかり、管制室に閉じ込められてしまった。一体どうなってしまうのか!?
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