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作品名:降っても晴れても。 作者:

第6回   恐怖。
やはり後ろから気配がする。
凪は早足でアーケードを過ぎる。まだ遅い時間ではないが、とにかく早く家に着かなくては。
緊張して息が上がる。大丈夫。駅まで着いてしまえば人ごみで分からなくなるはずだ。
ストーカーまがいの行為をされたのはこれがはじめてではない。
職場の大学にはいろいろな人がいる。
学生だけでなく、院生や助手、出入りの業者も少なくない。
理学部の修士課程に在籍する学生に、図書館で出し抜けに食事に誘われたのを凪はやんわり断っていた。
いい人そうに見えたのに。
凪は思わず舌打ちをしたくなる。こんなに不安な気持ちにさせられるのがひどく不当な気がした。
大丈夫。しばらくすればほとぼりも醒めるだろう。
家まで着いて来れれることもないし、個人情報も漏れていないはずだ。
凪の自意識過剰とまでは言い切れないが、駅までの距離を付けられているだけでは警察も動いてくれるはずはないし、出来るだけ穏便に済ませたかった。

しかし自体はいよいよ深刻化してきた。
最初に家の場所を知られてしまった時点で気づくべきだったのだ。
ポストの意味ありげな文章の手紙を見つけてやっと、凪はことの重大さに気づいた。
朝何気なくポストを開けると、明らかに特定の人間しか分からないことが書いてあった。
警察に行こう、とは思ったが、不思議に翔君には話す気になれなかった。
ちょうど納期が近く忙しいと言っていた。余計な心配をかけるわけにはいかない。
今日手紙が入っていて、いきなり行動を起こすようなことはしないはず。
図書館のカウンター越しに何度か話した、その院生は真面目だがどこか気弱な印象だった。
大学で仕事をしていてもどこかそわそわしてしまい、仕事が終わると凪は一目散でマンションの近くの交番に向かう。
一通りの説明のあと、パトロールを強化します、と言われいくぶんホッとして家路に着いた。
あとをつけらてた形跡はないし、とりあえず今日は安心して眠れそうだ。
ゆっくりとお風呂に入ってくつろいでいたときだった。
部屋の電話が鳴る。家の電話に直接電話をかけてくる人間は少ない。
翔君は携帯にいつも連絡をくれる。
「はい」
出た瞬間嫌な予感がする。
「・・・警察に言ったね?」
不気味な男の声がする。
血の気が引いて、受話器を急いで置く。
急いでドアの鍵を確かめ、カーテンをしっかり閉める。
凪が思っていたより、彼はこちらの状況をわかっているようだった。
もう一度電話が鳴る。恐る恐る電話に出た。
「こんばんは。君のこと、ずーっと見てるよ」
薄ら笑いが混じった、気味の悪い声。
「ストーカー規正法できたの、知らないの?」
凪は冷たい声で言い放ち、電話を切る。
電話はおそらく公衆電話からだ。何となく近い気がした。
マンションの近くに一台、電話ボックスがあるはず。
そいえば、朝アパートの前に大量の煙草の吸殻があったのを思い出す。
どうして気がつかなかったのだろう。ずっと付けられていたのだ。
鼓動が早くなって、息ができない。今もあの男が外にいるのだ。
マンションはオートロックだが、入り込めないわけでもない。
外でガシャン、と何かがぶつかる音がして、思わず凪は小さく声を上げた。
静まり返った部屋で息を殺す。自分の鼓動が馬鹿みたいに大きく響く。
必死に考えていた。警察に連絡。まず電話を・・・
その瞬間、携帯電話が鳴った。
「凪? 今何してた? 最近忙しくてなかなか話す時間なかったから」
明るいいつもの諸君の声を聞いて、ほっとして涙がでる。
「どうした? 何かあった?」
「・・・外、誰かいるの。多分ずっとつけられてて…」
意地を張っている場合ではなかった。緊張の糸が切れてどんどん涙が溢れ出す。
「翔君、怖い・・・」
「すぐ行くから。絶対部屋から出るなよ。いいか」
そういってすぐ電話が切れた。多分会社からだったのだろう。
電話が切れたあと、どっと安心して涙が止まらなかった。
大丈夫。もう大丈夫だ。
また部屋の電話が鳴ったが、今度は出なかった。
大丈夫。少なくとも部屋から出なければ危害はない。
もうすぐ来てくれる。
翔君が来てくれる。


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