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作品名:平等エレベーター 作者:syuru

第1回   前篇
 岩田幸三(41)はため息ばかりついていた。
 やはりおかしい・・・。
「部長、誠に申し訳ないですが、お昼からお休みを頂けないでしょうか」
 半チャン定食のネギを前歯につけたまま部長は「いいよ」と言って臭いげっぷを幸三に向かって一発吐いた。
 自宅マンションにつくと妻の光江は「なにしに帰ってきたの」と言ってネット販売で買った一つ三百円もする期間限定“魔法のシュークリーム”をテーブルの下に隠した。
「どうしても気になることがあって」幸三は炊飯器の中の冷たくなったご飯を口の中に放り込むと「ちょっと行ってくる」と言って帰ってきたばかりの自宅マンションを出た。
 出たといっても行先はマンション一階のエレベーターホールだった。
 1フロアー4軒の11階建て、計44軒が住む幸三のマンションにはエレベーターが1機あるだけだった。
 平日の昼間だけあってエレベーターはそんなに忙しくは動いていなかった。
 宅急便屋のおにいちゃんや学校から帰ってきた小学生がたまに乗ったり降りたりする程度だった。
 10階で止まっていたエレベーターが動きだした。
 9・・8・・7・・何気なく↓のボタンを押した。
 いい感じで降りてきていたエレベーターが3階で止まった。
 暫くしてエレベーターはまた動きだしやがて幸三の前で大きな口を開いた。
 中には自転車にまだ2歳くらいの女の子を乗せた主婦が乗っていた。
 B1階にはスロープがあり自転車に乗った住人は皆B1階で降りた。
「すいません」と言って乗り込んだ幸三をその主婦はけげんそうな目で見た。
 そして、B1階で「お先に」と言って降りたときも恐い顔をして幸三を睨んだ。
「やはりそうだ」幸三は呟くと携帯電話を取り出し部長個人の携帯の番号を押した。

「なんだよ、休むといったり相談があるといったり…」長年の煙草のヤニが溜まって赤茶色くなった歯を剥き出しにして部長は幸三の顔を見た。
「申し訳ありません、いえ、実は私前々から思っておったことなんですが・・・・」
 二十分後話を終えて会議室から出てきた部長は「あいつ一体何考えてんだよ」と独り言を言って頭をかいた。

 幸三は同じマンションの5階に住む現在の管理組合の理事長である橋本光明(36)の自宅の扉を日曜の朝早くに叩いた。
 橋本は、いったいなんだよといった顔をして扉の向こうから出てきた。
「私、このマンションの8階で住んでおります岩田と申します」
 主婦同士でもほとんど付き合いもない昨今のマンションの近隣事情なのにましてや夫連中などは相手の顔を見たってどこのどいつかわからないのが現実だった。
「朝早くから誠に申し訳ございません」幸三は言いながら会社の名刺を差し出した。
 名刺には“株式会社 東西エレベーター”と書かれていた。
「いえ、実は・・・」
 二十分間、玄関で幸三の話を聞いた橋本は「おい、ビールないかビール」と言って冷蔵庫からきんきんに冷えた500mlの缶ビールを取り出すとカラカラになった喉に一気に流し込み「あの人いったい何者なんだよ」と言ってまだ明けたばかりの空を飛ぶ一羽のカラスの姿を窓越しにじっと眺めた。

 東西エレベーター本社では毎月第一月曜日の朝9時から、技術社員が集まって自分たちが日頃から感じている疑問や新しいアイデアなどを発表する会議が開かれる。
 もちろん9月の第一月曜日の朝9時に開かれたその会議に岩田幸三は出席していた。
 幸三は課長補佐だった。
 自分より若いまだ何の肩書も付いていない社員が一通り発表を終えた後、幸三の順番がやってきた。
 今日の会議のトリだった。
「私、常日頃より疑問に感じていることがありまして・・・」
 幸三のこの声を聞いた途端、部屋の隅で居眠りしていた部長は突然起きだし「すまんが俺急用を思い出したから」と言って逃げるようにして会議室を出て行った。
「それでは続けさせていただきます」幸三は咳払いひとつすると昨日の自分の自宅マンションでの出来事を話した。
「おかしいと思わないですか?」幸三の自信満々のこの台詞で、二十人ほどの出席者のうち約半数が、こいつ何者じゃ?という顔をした。
「明らかに私のほうが先にエレベーターのボタンを押しているんです。
 小さなマンションですから1階下のB1のエレベーター前に誰か来たなっていうのが人の話し声や自転車が出す音でわかるんです」
 幸三は昨日の朝起きて一階のエレベーターホール兼エントランスにある郵便受けに朝刊を取りに行っていたのだった。
「エレベーターが下りてきて一人だけ乗っていた住人が降りてきました。
『おはようございます』と頭を下げている間に扉が閉まろうとしたんです。
 だめじゃないか、俺を乗せてくれなきゃ・・・私は閉まろうとした扉にチョップをしてもう一度開けさせ中に乗り込みました。いつもよりえらく早く閉まるなぁと思いながら8階の“8”のボタンを押したんです。
 するとどうでしょう! エレベーターは下降を始めたんです。
 先にボタンを押したのは間違いなくこの私なんです」
 この時点で二十人ほどの出席者のうち十七、八人が幸三と目が合わないように部屋の空間に視線を漂わせた。
「驚きはまだ続くんです。
 B1で酒臭いこれまで一度も顔も見たことのない朝帰りのどこかの階のおっさんを乗せたエレベーターは上昇を始めたかと思うとなんと1階で止まってしまったんです。そして、ランニング姿の汗臭い初老のおやじが中に乗り込んできました。
 さっきまで私以外にエントランスには誰もいなかったんです。明らかにこいつは絶対間違いなく私より後にエレベーターのボタンを押したんです。
 そして、皆さんほんとに驚かないで下さいよ。この後とんでもないことが待っていたんです。そ、それは・・な、なんと・・エレベーターが8階、そう、私が運んで行ってもらう8階、そこに着く前に2度も止まったんです。3階で酒臭いおっさんが降り、5階でランニングのおやじが降りていったんです。
 一番初めにエレベーターのボタンを押したのは間違いなくこの私なんです。
 わなわなと怒りで体を震わせていると、信じられないことにエレベーターはまた止まったんです。
 地震でもあったのかな、私は真剣にそう思いました。
 しかし、地震でもなんでもありません。
 ガキが6階から乗り込んできたんです。
 そして、あろうことかそのガキは7階でこの私を一人置き去りにして降りていったんです。
 一番初めにボタンを押したのはこの私なんですよ。
 その私がいちばん最後に降ろされた。
 そんな不公平がまかり通っていいのでしょうかっ!」
 フリーズ。
「エレベーターってそんなもんなんですよ」一人口を開いたのは、東西エレベーター創立以来初めての東京大学卒社員、鉄美清隆(29)だった。
「少しでも効率よく皆さんを運ぶ・・・それがエレベーター、いえ、言い換えればそんなエレベーターを作るのが私たちの仕事、少し大袈裟にいえば私達に与えられた使命なんです」
 鉄美のこの言葉を聞いた幸三はフンと鼻で笑った。
「鉄美君。
 君確か東大卒だったよね」
 鉄美はしょうがなく「ええ」と首を小さく縦に振った。
「じゃあ“法の下の平等”って知ってるよね。
 人間は生まれながらにして法の下において平等に生きる権利を持っているって。
 ああーー、そうだ、君東大卒だっていったって“ゆとり教育世代”だよね。
 こんなことひょっとして習っていない、イコール、知らないんじゃないの」
 フリーズ、フリーズ。
「それくらい知っていますよ」鉄美は少しむっとした表情で言った。
「じゃあ、その平等はどこに行ったの?」挑発的に幸三は聞いた。
「岩田さんのおっしゃることはよくわかります。確かに、大変大切なことです。
 ですけど、岩田さんのおっしゃるようなエレベーターを作ってしまいますと非常に非効率的というか、エコ的でないというか・・・」
「エコ? 君は政府の回し者か?
 エコ エコ エコ エコ言うけど、じゃあ、この地球をここまで汚したのは誰なんだ?
 宇宙人がやってきて二酸化炭素をばらまいて行ったのか?
 違うだろ。
 我々地球人が犯人だろ。
 それをいかにも、自分たちが初めて環境問題に取り組みました、と言ったような顔をしてアホな企業どもは自慢げにうたっている。
 先に謝るのが筋ってもんだろ。
 それを、そんなことは棚に上げて、エコ エコ エコ エコ エコ エコ エコ エコエコ エコ エコ エコ エコ・・・エコエコアザラクっ、エコエコザメラクっ、うーーっ 少年チャンピオン最高っ!!」
 鉄美までフリーズ。
「ちゃんと試作品を納めさせて頂くところとは話がついていますので」
 不敵な笑みを浮かべた幸三が会議室を出ようとしたときグラッと大きくビルが揺れた。
 震度3の地震だった。

 日曜の夜十二時に居酒屋「ダルマ」に残っていた客は、幸三と、同じマンションの管理組合理事長、橋本だけだった。
「ゆっくり呑んでいってください」と言いながら店主は暖簾を片付け始めた。
「お願いです、理事長。うんと言ってください。
 理事長がうんと言ってくだされば弊社の画期的なエレベーターが私達のマンションに設置されることになるんです。
 結果、私達のマンションの住人の皆さん全員が幸せになれるんです」
 言いながら幸三は選挙演説で回る立候補者のように橋本の手を無理矢理握った。
「や、やめてくださいよ、岩田さん。
 岩田さんのお気持ちはよくわかるんですけど、そ、その、何て言いましたっけ?」
「平等エレベーターです」と幸三は鼻の穴をふくらませて言った。
「そ、その平等エレベーターですけど、確かに岩田さんのおっしゃることはよくわかるんですけど、実際に設置されるととんでもないことになっちゃうんじゃないかと思って・・・」
「理事長のおっしゃる通り、設置当初は確かに皆さん戸惑うというか面食らうと思うんです。
 だけど、だけどですねぇ・・・世の中平等だっていったって何にも平等じゃない。
 格差社会は進んでいくばかり。
 せめて、そう、せめて当社が作ったエレベーターだけはお使い頂く皆さんに平等のすばらしさを感じていただきたい。
 極論ですけど、民主主義の最後の砦なんです、当社の『平等エレベーター』というのは」
 ここまで幸三が言ったとき店主が「すいませんけど12時半までなんで」と申し訳なさそうな顔を二人に向けた。
「わかりました」店主に向かって言った幸三は目を橋本に移した。
「それでは理事長」幸三は橋本の目を見て、そして、大きく頷いた。
「ファイナルアンサーーっ」
 突然の幸三の大声に店主は片付け始めていた箸の束を床に落としてしまった。
「ファイナルアンサーって・・・えらく時代遅れな・・・でなんなんですか?」
「理事長、私達のマンションに当社の『平等エレベーター』を設置いただけるのであれば、こちらの○を」と言いながら幸三は皿の上に残った冷えてカチカチになったイカリングを指差した。「そして、いや、やっぱりダメだとおっしゃるんであればこちらの×を」といって、いつの間に作ったのか、串に刺してあったしし唐をばらして×の字に重ねたものを指差した。
「そ、そんなこと、言、言われても・・・」
「いえ、だめならだめでいいんです。
 理事長の率直な意見をお聞かせ願えればそれで・・・」
「ほ、ほんとうですか・・・」
「ええ、男に二言はありません」幸三は重く首を縦に振った。
「じゃ、じゃあ、こちらで」
 理事長が恐る恐るしし唐で作られた×を指差そうとしたとき「アウーーっ!!」と雄たけびをあげた幸三はしし唐を手でつかんだかと思うと口の中に放り込み「イカリング最高っ!!いかのくせしてカタカナで書くなっ!!b〜〜yみのもんたっ!!」と言って、お魚くわえた野良猫♪♪、のように店を出て行った。

「それでは一度試運転を行いたいと思います」
 今日は晴れの日、そう、『平等エレベーター』の記念すべき第一号が幸三の住むマンションに設置される日だった。
「皆さん、朝早くからご参加いただきまして誠に有難うございます」
 日曜日の午前七時に幸三の声が一階エントランスにこだました。
「簡単にご説明させて頂きますと、すごく平等なエレベーターでございます」
 幸三の説明に、寝ぐせや目脂をつけた住人が皆、 はぁ? という顔をした。
「各階の呼び出しボタン、上向きや下向きの矢印のボタンがございますよねぇ、あれを押した順番に忠実にこの『平等エレベーター』は皆様をお運びいたします」
住人の はあ? が はーーーーぁ???  になった。
「皆様、こんなご経験がおありではないでしょうか。
 このエントランスでエレベーターをお待ちになっていた。
 エレベーターは上の階から下りてきたもののあいにく途中の階で何度か止まりやっとこの一階にやってきた。
 エレベーターに乗り込みお住まいの階のボタンを押して『閉』のボタンを押そうとしたとき、たまたま他の住人の方がやってこられ、どうもすいません、と言ってエレベーターに乗り込み、『閉』のボタンを押しながら行き先階のボタンを押すと皆様の階より下の階だった。
 エレベーターは勿論、後に乗り込んできた方を先に降ろし、それから、先にエントランスで待っていて先に行き先のボタンを押した皆様の階に行き、やっと皆様を降ろすことになる。
 おかしいと思いませんか?」
 話を聞いていた住人のはーーーーぁ???が へ!? になった。
「わかりやすく説明しますと、あ、そうだ、理事長、例の、画用紙に描いたこの『平等エレベーター』の特徴を・・・」
「理事長は欠席です」最上階の十一階に住む斉藤さんだった。
「原因不明の頭痛とかで昨日から寝込まれているらしいです」斉藤さんが続けた。
「そうですか。
 じゃあ、しょうがないですから、実際に何人かの方に乗って体験していただきましょう。
 私が8階ですから、そうだ、最上階の斉藤さん、それと、どなたか私の階、8階より下でお住まいの方で一緒に乗っていただける方はいませんでしょうか?」
 幸三の呼びかけに、3階に住む、双子の男の子の父親の石橋徹(32)が「私乗ります」と言って手を挙げた。
「有難うございます。
 それでは、みなさん」
 幸三は、エントランスに集まった住人に目を向けた。
 「私達三人がこれからこの『平等エレベーター』に乗り込みます。
  8階に住む私がまず先に行き先階のボタンを押します。
  次に3階の石橋さんが。
  最後に最上階の斉藤さんが押します。
 どのようにこの『平等エレベーター』が動くかみなさんよく行先表示パネルを見ておいてください」
 言うと、幸三たち三人はエレベーターに乗り込んだ。
「それでは行ってまいります。
 ヤマト発進っ!! 
 さらばー地球よー♪♪ 旅立ーつ船はー♪♪」
 住人は皆ぽかんと口をあけて三人を見送った。
「石橋さん、3階はスルーしますから」
 上昇を始めた『平等エレベーター』は幸三の言ったとおり、スピードを落とすことなく本来止まるべきはずの3階をスルーしていった。
「ねっ」と幸三は得意満面の笑みを石橋に向けた。
 何が、ねっ、なんだよと石橋が思っているうちに『平等エレベーター』は8階に着いた。
「岩田さん、このエレベーターがだいたいどんなのもなのかはわかりました。
 要は呼ばれた順番に人一人ずつを目的の階に運ぶということですよね?」石橋は幸三に聞いた。
「おっしゃる通りです」幸三は少し胸を張って答えた。
「ですけど、岩田さん、非常に非効率的だと思うんです。
 例えば、朝の出勤や子供たちの登校時に、みなさん1階に降りようと極端な話一斉に各フロアーでエレベーターの呼び出しボタンが押されたとします。すると、本来なら2,3回の往復で済むところが1階を除いたとしてもエレベーターは10往復しないといけない。
 会社や学校に遅れてしまう可能性があるんです」
「これまでより少し早く家を出ていただければいいと思います」サラリと幸三は言った。
「で、ですけど、何て言うか、エレベーターも大変だと思うんです。これまでの何倍も上や下を行ったり来たりしなくちゃいけないですから」
「御心配はいりません。
 普通のよりは頑丈に作っていますから」
「が、頑丈にっていっても、そ、それに、電気代だってばかにならないでしょう。
 今や世の中は環境にやさしくっていう流れなのにそれに全く逆行している形で・・・」
「環境、環境って言いますけど、その環境を悪くしたのは誰ですか?
 宇宙人がやってきて排気ガスや二酸化炭素をばらまいたのですか?
 違いますよね。
 我々地球人が汚したんですよね。
 それを鬼の首を取ったかのように、我々が初めて環境問題に取り組みました、先陣を切っているのは我々です、って厚顔無恥をさらけ出している。
 そんな企業は先に謝罪するのがスジでしょう」
『平等エレベーター』が3階に着いた。
「子供の友達がこのマンションの7階にいるんです。
 最近、やっと二人だけでエレベーターに乗って行けるようになったんですけど、これだけ上へ行ったり下へ行ったりすると子供たちも不安になるでしょうから二人だけで乗せることは出来そうもないです」
「平等の大切さだけを教えてあげてください」幸三はつっけんどんに答えた。
 石橋徹は一瞬むっとした表情をしたが、扉の開いたエレベーターを降りると幸三に背を向けたまま「理事長は何階でしたっけ」と言葉だけを投げた。
「5階です。
 乗っていきますか?」
 幸三が答えると、石橋徹は背を向けたまま「いえ、結構です。どうせ、先に11階に行くんでしょ、この『平等エレベーター』という優れ物は。それなら階段で行ったほうが早いですから」と言って、エレベーターホールのすぐ脇にある階段に駆けて行った。
『平等エレベーター』は再び上昇を始めた。
「岩田さん、あなたは信念をお持ちでいらっしゃる」佐々木さんがポツリと幸三に吐いた。
 佐々木さんはこのマンションができた時からの住人で、3年前に奥さんを亡くした。
 長年勤めた会社を定年退職で辞め、残りの人生をこのマンションで奥さんと二人仲良く暮らしていく、そう決めて退職金をはたいて買った。
 ところが、突然奥さんがこの世からいなくなった。
 奥さんが存命の時は、だれも出席しない、年に一回行われるマンションの管理組合の総会に毎年二人肩を並べて出席していた。
 このマンションと一緒に暮らしていく、そして、このマンションで、死んでいく、思い入れがほかの住人とは比べ物にならないくらい強かった。
『平等エレベーター』が11階に着いた。
「では、ここで失礼いたします」佐々木さんは軽く会釈をするとエレベーターから降りて行った。
 暫く佐々木さんの後ろ姿を見つめていた幸三は行き先表示の1階のボタンを押した。
『平等エレベーター』は再びゆっくりと下降を始めた。
 「そういえば、ヤマトの主題歌を歌っていたのは佐々木功だったよなぁ・・・同じ佐々木だ」
 ポツリと幸三が吐いたとき『平等エレベーター』は5階を通過した。
 理事長の部屋の前で、石橋徹が、青白い顔をして立つ理事長に向かって、口から泡を飛ばして何かを熱弁していた。
 そして、ちょうど同じころ、最上階の佐々木さんは部屋に戻ってきたかと思うと、奥さんの仏壇の前で手を合わせながら「かあさん、岩田という男、あいつ、信念を持っている・・・ほんとうに信念を持っている・・・信念を持っている・・・ほんとうのバカだ」と吐いた。


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