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作品名:サッ球少年 作者:syuru

最終回   後篇
 宝田だーっ、照だーっ。
 アホなお前ども、元気かっ!
 まあ、アホは風邪ひかねえっていうから、多分元気なんだろうなぁ。
 だけど、アホつながりってわけじゃないけど、どうして今のテレビはあんなアホみたいな番組ばっかりやってんだ?
 内容もアホだし、出てるやつもアホだし。
 同じような番組ばっかりやって何がウレシイんだよ。
 どこを見てもクイズクイズクイズクイズ、能がなさすぎるのっての。
 各局のプロデューサー、腰に巻いたセーターをほどいて俺様のとこへ来い。
 ポリシーが余りにもなさすぎるって説教してやるよ。
 もっと面白い番組、視聴率なんか気にせず、俺はこれでいくんだっ、ていう番組を作れっての。
 俺様だって子供のころはテレビっ子だったんだよ。
 毎日毎日テレビにかじりついて、親からは「何がそんなに面白いのっ!」て叱られながらも、欽ドンやひょうきん族、バカなお前たち、言っとくけど欽ドンは丼ぶりじゃねえぞ、番組名だからな。
 まあ、そんなことで、とにかく毎日毎晩見まくっていたんだ。
 それがなんだ、今の惨状は。
 確かに、この俺様も年を取って時代の主流から外れてしまっているのも事実だけど、それにしてもひどすぎるぜ、今のテレビはっ。
 わけのわかんねぇ、誰が厭味でつけたか知らねぇけど、タレントっていう、そうだ、ラジオの前のバカなお前たち、タレントっていうのは「素質」だとか「才能」っていう意味のある言葉なんだぞ。どうせ、知らないだろうけど、で、そんな「素質」も「才能」もなんのかけらもないタレントどもが、たわいもない会話や、美味くもないのに「あらっ、おいしい」って茶の間に向かって大口開けてメシ喰らってんだから、アホ以外の何ものでもないっての。
 それに、周りからちやほやされて何か大きく勘違いしている女子アナどもっ!
 まあ、これだけ景気が悪くなると、スポンサーもどんどん減っていくことだろうから、これまで調子に乗ってきたテレビ局のアホどももやっと痛い目にあうんだろうけど、女子アナはその点良かったよな。元○○局女子アナでAVに出てわけのわかんねえ奴の「ぴーーーーーっ」を「ぴーーーーっ」て金稼げんだから。女であることに感謝しろってんだ。
 あと、もっと勘違いしているお笑い芸人の皆様方。
 正直言って、お前たち、全然面白くねぇんだよ。お笑いブーム!?
 俺様が子供の時にも“漫才ブーム”ってのがあったけど、その時の、やすきよだとか紳竜だとかザ・ボンチ、ツービート、そんな連中に比べたら全く話になんねぇぜ。
 だいたい、ベースがコントだろ。
 コントってのは東京のお笑いなんだよ。
 お前たち、ラジオの前のお前たち、イコール、いつもバカなお前たちっ、東京の人間ってのは全然面白くねぇんだ、それだけはよく覚えておけよ。おまけに、飯もまずい。何につけてもセンスがないんだよ、東京ってのは。そんな街が首都なんだからこの国JAPANも先が思いやられるっての。
 それと、ちょっと売れたからって調子に乗りすぎている、ちっとも面白くもねぇお笑い芸人の「ピーーーーーッ」。
 プロ野球選手に向かって、いくらお前より年が下だからと言って○○君と呼ぶのはやめろ、バーカ。同じ世界の人間ならまだしも、違う世界の、それもお前よりはずーーーっとすごい人なんだぜっ。ちゃんと○○さんと呼べっての。黒柳徹子が“徹子の部屋”で、ゲストに向かって○○君って呼んでるか?ほとんど自分より年下だぜ。ちゃんと敬意を表して○○さんって呼んでるだろっ。
 そういった、社会人というか人間としてのモラル、俺様はカタカナが嫌いだから、常識、そういった常識のない人間が公共の電波を使って下らないことばかりやってでかい面をするんじゃねぇっての。もう民放なんかいらないっての。NHK一局で十分だろっ。あとはラジオが全部面倒をみます。
 じゃあ、今日はここまでだっ。営業マン、宝田照だしたっ、ヨイショッ。
 
 やすしは、宝田照が叫ぶ“女子アナ”“タレント”“お笑い芸人”を“院徳治”に置き変えて溜飲を下げた。
 しかし、宝田照ってのはいったい何者なんだろう?
 言葉は標準語だが、思いっきり東京を批判していた。
 関西のローカルFM局だから東京の人間には聞こえない。
 東京で夢をかけて、負けてしまったのだろうか?
 職業は何だろう?
 話し方からしてロックンローラーだろうか。
 女の子の娘がいると言っていた。
 ひょっとしたら関西人だろうか?
 携帯が鳴った。
 彩加の着信音だった。
「ゴーーーーール」やすしは雄叫びを上げた。
“キャプテン、もう嫌味はいいですって。 
 それより、日曜日の三回戦“
「勝つよー、絶対に勝ちまっせー、で、サッカー部は何点取られたん?」
“10点”
「野球やったら五回コールドで終わってたのに、サッカーはたいへんやなぁ」
“それはそうなんやけど・・・院徳治君が納得いかへんからって、日曜日に今度は向こうのグラウンドでリベンジマッチを取り付けてきて・・・”
「で、そっちの試合に行きたいと。
 ええよ、どうせ俺らは勝つから」
“ほんまに?”
「ほんまや。
 なんの伝統もない新生サッカー部とは違うんや。
 それよか、もう寝むたなってきたから切るで。
 アディオス」
 彩加の“おやすみ”を聞かず、やすしは一方的に携帯を切った。
 
 苦戦を強いられていた。
 あと一点がどうしても取れない。
 二点を先制され一点を返し、また一点を取られ再び一点を返し、あとはずっと押していたが、あと一本が出なかった。
 相手高校はやすしたちと同じ公立高校だったが、三年前にスポーツコースが設けられてから、身体能力の優れた生徒が集まり始めた。
 以前よりは強くはなっているだろうとは思っていたが、ここまで強くなっているとは正直やすしは思っていなかった。
 六回、七回と先頭打者が出塁して、スコアリングポジションまでランナーを進めたが得点までにはつながらなかった。
 そして、迎えた八回裏、簡単にツーアウトを取られたが、そこから二人が続いて、気迫のヘッドスライディングで、内野ゴロを内野安打に変え、バッターボックスにやすしを迎えた。
 短打でも同点、長打がでれば逆転のチャンスだった。
 やすしはまず同点だと考え、いつもよりバットを握りこぶし一つ分短く持ち、狙いを二塁手の頭上に定めた。
 明らかにボール球と分かる球が二球続き、ど真ん中の直球を一球見送った後、同じくらい甘いコースにきた直球を打ち損ねてファウルとし、カウントはツーストライクツーボールの平行カウントとなった。
 ベンチを見る。
 いつもいる彩加がいない。
 この試合に勝てば野球部創設以来初めてのベスト8、準々決勝だ。
 そうなれば、学校を挙げて全校生徒が応援に来る。
 何としても勝ちたい。
 彩加の前で勝って一緒に喜びたい。
 緩いカーブが甘いコースに入ってきた。
 「フンッ!!」
 力いっぱい叩いた白球は狙い通り二塁手の頭上はるか上を飛んでいった。
「よしっ!」
 同点どころか外野手の間を抜ければ逆転だ。
 しかし、一塁ベースを駆け回ったとき、その夢は泡と消えた。
 センターを守っていた選手が、ダイビングキャッチでやすしの打球を捕らえたのだった。
 そして、九回の表、相手高校にダメ押しの二点を取られ、やすし達のセンバツへの夢は終焉を迎えた。

 球場近くの駅に向かって重い足を引きずる。
 誰も何も話さない。
「明日から一週間練習休みなぁ」
 やすしの声に「ハイ」と蚊の鳴くような声で答える部員たち。
「ちょっと、俺、用事あるから先帰っといて」言うとやすしは踵を返した。
 彩加に負けた報告をしたかった。一人で。
“あっ、どうやった?”
「負けた」
“うそやん。
 夏の練習試合で八対一で勝ったのに“
「あいつらは日々成長しとる。何年か先には甲子園に出とるんちゃうか。
 それより、ワールドカップを目指す我らが新生サッカー部はどやねん?」
“今、前半終わって一対〇で負けてんねん。
 前よりはだいぶボールも持てるようになってんねんけど・・・“
「大健闘やん。
 俺らの分まで頑張ってくれ。
 で、明日から一週間練習休みやから。お疲れ」
 一方的に携帯を切ると、やすしは再び駅に向かった。

 あーあ、と心の中で何度もため息をついたが、心は決して晴れなかった。
 球場に隣接する総合体育館の前を通り過ぎた時、歓声のようなものが聞こえた。
 なんかやってんのかなぁ?
 正面玄関に向かって歩いて行くと、やがて、大きな立て看板が視界に入ってきた。
“全国高校卓球大会 地区予選会場”
 館内はものすごい熱気で包まれていた。
 人の歓声、球と台の擦れる音、やすしは圧倒された。
 卓球、いや、ピンポン会場がこんなに威圧感があるとは思ってもいなかった。
 高野の姿はすぐに見つけることができた。
 一点を取るたびにガッツポーズをとる。
 鬼気迫る、まさしくそんな言葉がぴったりだった。
“ピー”の面影など全くなく、思いっきり“高野”だった。
 高野は、勝った。
 勝利が決まった瞬間、雄叫びを上げた。
 眼の下には、自分が作った青黒いあざがまだ残っていた。
 ところが、高野の勝利の後、ダブルスとシングルが続けて敗れ、高野達は負けてしまった。
 皆、泣いていた。
 高野は号泣していた。
 汗を拭くタオルで涙を拭いていた。
 やすしは、中学生の時の最後の夏の大会を思い出した。
 決勝戦。
 勝てば全国大会への切符を手にできる。
 一点ビハインドのまま迎えた最終回七回の裏、一死満塁でバッターボックスには四番のやすし。
 カウント、ワンストライク・ツーボールから、ストライクを取りにきた甘い球をやすしは見逃さなかった。
 火の出るようなライナーが三遊間を襲った。
 二塁ランナーの高野は迷わずスタートを切った。
 自分がホームを踏めば逆転サヨナラ勝ち。
 全国大会への切符を手にできる。
 しかし、その思いは一瞬にして夢と消えた。
 ショートを守っていた選手が、やすしの火の出るようなライナーを横っ飛びで捕球したのだ。
 高野は帰塁できず、ゲームセット。
 号泣する高野の姿は今でも目に焼き付いている。
 体育館を出た。
 駅に着き切符を買おうと財布を開けた時、携帯が鳴った。
“追いついてん、同点やねん同点っ!!”彩加だった。“もう終るいうとこで院徳治君がゴール決めてんっ”
 声は完全に裏返っていた。
“延長戦やねん、これから”
「サッカーにも延長戦ってあんのか?」
“当たり前やんか。
 それで決着つかへんかったらPK戦になんねんやから“
「そうなんか。まあ、とりあえず頑張ってくれ。今日は、我が校は全滅やから。せめて、サッカー部だけは勝ってくれ」
“全滅って?”
「ピーも負けよってん。
 球場の近くの体育館でたまたまやっててんけど、あいつむちゃくちゃ泣いてたわ」
“そうなん。
 高野君、卓球部辞めるらしいで。
 三年になったら受験に専念するからって、この大会が最後の大会やったみたいやで“
「そうなんか・・・」

 中学三年の時、一度だけ、教育書籍専門の出版メーカーが主催する全国模擬試験を受けに来た時以来だった。
 校舎が見えてくると同時に人の歓声が聞こえてきた。
 五厘刈の頭に野球帽をかぶり、一回戦を勝ってからゲンを担いで一度も洗っていないどろどろのユニフォーム。周りの人間は皆やすしのことを、何だこいつは、といった目で見た。
 すぐに彩加を見つけることができた。
 祈るように胸の前で手を合せ心配そうに前を見つめている。
 その視線の先に院徳治がいた。
 黄色い声援が取り囲む。
 甲子園を目指した公式な試合より、ただの練習試合の方が応援団が多い。
 声援がさらに厚みを増した。
 院徳治が動いた。
 相手ゴールの正面に置かれたボールに向かってゆっくりと歩く。
 延長戦でも決着がつかなかったのだろう。
 ボールの上に院徳治がゆっくりと足を乗せる。
 長い髪が風にたなびく。
 レフリーのホイッスルが鳴る。
 院徳治がボールを蹴る。
 ゴールキーパーが飛ぶ。
 わずかに指の先がふれたが、ボールはほとんど軌道を変えることなくゴールネットを揺らした。
 院徳治の周りに選手が駆け寄る。
 彩加はまた泣いていた。
 応援団も皆泣いていた。

 喉が渇いたので自動販売機でジュースを買った。
 最寄り駅までの電車賃がなくなったが、そんなことはどうでもよかった。
 歩きたかった、何も考えず、ただ、歩きたかった。
 駅を一つ過ぎる。
 夕暮れの中、自分の進路を照らしながら列車が高架を過ぎてゆく。
 ピーは、進学という確かな進路を照らし、涙ながらにラケットを置いた。
 院徳治達、新生サッカー部は、これからの“歴史”という進路を照らし発進した。
 俺は?
 試合に負けたけど涙は出なかった。
 ほんまに好きで野球をやってんのやろか?
 彩加から携帯が鳴る。
「なんや、サッ球部のマネージャーか」
“なによ、サッ球部って?”
「サッカー部と野球部のミックスやん。
 昔は野球部だけのマネージャーやってんけど、今はサッカー部のマネージャーもやってるから」
“嫌味なん?”
「嫌味ちゃうよ、事実やん」
“なにそんなにひねくれてんのよ。
 ちょっと一回だけサッカー部を優先しただけやのに“
「ひねくれてへんよ。
 で、なんの用なん?」
“駅前のマクドで祝勝会やってねんけど、キャプテンもけえへん?”
「なんや、恥さらしに来いってっこと」
“違うよ。だって、見に来てくれてたやん”
「暇やから、寄っただけやん。
 間違っても応援しに行ったんちゃうで。
 あっ、電車来たから切るわ。俺はマナーを守る男やから」

 考えてみれば、ゲームセットの声を聞いてから、ずっと歩き続けていた。
 心地いいハリをふくらはぎの裏に感じながらラジオの電源を入れた。
 一日の疲れやイヤなことすべてを吹き飛ばしてくれる宝田照の声が、静まり返った日曜の深夜にこだました。

 宝田だーーーーっ、照だーーーーっ、アホなお前どもっ、元気にやってるかっ!
 で、いきなりだけど、俺は犬が大嫌いだーーーっ!!
 おまけに猫も大嫌いだーーーっ!!
 て、言うか、だいたいペットを飼ってるやつはアホだ。
 人間の愛情に飢えてるっていうか、人間に相手にされないから、しょうがないんでその対象を動物に求める。動物はもちろん断るすべを知らねぇから都合がいい。
 そのくせ、たまたまモノ好きな人間に相手にされると、ペットを簡単に捨てて、この国JAPANの生態系を狂わせてしまう。いずれ自分も捨てられちゃうんだけどなぁ、って、ムツゴロウとゆかいな仲間達はどこへ行ったんだ?
 トラの子供と血まみれになってじゃれあったり、確か、動物の種類は忘れたけど、何かの小便をがぶ飲みしてたよなぁ。
 だけど言えることは一つ。
 この世の中は人間のための世の中。
 決して、犬や猫のために作られた世の中ではありません。
 ちくしょうーーっ!!
 ワンちゃんワンちゃん、ちょっと私達は旅行に行ってくるから、その間、ペットホテルでお寝んねしていてね…って、バーカ、犬は犬小屋で寝ろっての。
 ちくしょうーーっ!!
 ネコちゃんネコちゃん、今日のご飯は最高級のマグロを使った高級かんずめよ。思わずねこまっしぐら…って、バーーーカ、猫は鼠を捕まえて食ってろってんだ。
ということだから、お前たちも何かの間違いで大金を手にしたからと言って犬や猫を飼わないように。どうせ、彼らを幸せにすることなんてできないんだから。人間と動物の共生は絶対にムリ。同じ生き物だけど違うんだよ、所詮は。動物愛護協会のみなさん、苦情の電話は06−・・・・夜遅いので番号の掛け間違えにご注意くださ〜〜い。
 よし、リクエストいってみよ〜、猫にゃんにゃんにゃん♪犬ワンワンワン♪ペットを飼ってはいけないよ。あのねのね、赤とんぼーーーっ!!

 院徳治からだった。
“今、いい?”
「はいはい、勝ったのはサッカー部、負けたのは野球部。それが言いたかったんやろ」
“違うよ。そんなことじゃないよ”
 院徳治の声は気のせいか沈んでいた。
「そしたらなんやねん?」
“今日、試合の後、みんなでマックへ行ったんだ”
「マクドやな?」
 やすしは嫌味を込めて院徳治の標準語を訂正した。
“そ、そうなんだけど、実は俺、彩加ちゃんのことがずっと好きだったんだ”
「・・・・・・っ」
 やすしは余りにもびっくりしたので一瞬言葉が出なかった。
“で、マック・・・じゃなくてマクドで彩加ちゃんに告(こく)ったんだ。ずっと好きだったって”
「へ、へ、へぇーっ」
“そしたらさぁ、彩加ちゃん・・” 
 ブツ。
 きよしはラジオのボリュームを上げた。

 いやー、やっぱり、あのねのねは最高だぜーーっ。お前たちアホども、この良さが分かるか?わかるわけねぇだろうなぁ、お前たちはバカだから。
 で、お前たちはいったい何なんだ?
 今、流行りのハケンか? 世の中のすべての不幸を背負っていると勘違いしている悲劇のヒロインのハケンか?仕事に縛られるのがイヤで、金が貯まれば働くのをやめて海外旅行へ行って、なくなればまた別のところで働き始める。正社員がなかなか休みもとれずストレスだけはきっちりと貯めて働いているのを尻目に、自由気ままに生きてきた。ところが、こんな社会情勢になったとたん、エラそうに被害者ずらして、口から汚いつばを飛ばしてモノ申してるけど、そんなの自業自得だっての。誰か国会議員が言えってんだよっ!!    って誰も言わねぇだろうなぁ、心の中では思っていても絶対に言いだしっぺだけにはなりたくないって・・・国会議員も昔に比べて、バビル二世やルパン三世のアホばっかりだからなぁ。
 アホと言えば、今の大学生はほんとにアホだよなぁ。大麻の栽培に忙しいのかもしれないけど、まあ、今はガキの数が少ないから私立の大学なんか生徒を集めるのに必死で、俺たちの時代には到底大学なんかへ行ける学力のない奴でも今ならいくらでも入れるところがあるからな。
 この間、電車のつり広告で“偏差値35でも大丈夫っ!”って自慢げにうたっている大学があったぜ。うちはバカとアホの集団ですって言ってるようなもんだよなぁ。
 大学も生徒を集めないといけないから、何か「売り」を色々と模索してるんだろうけど、何か大学自体が専門学校みたいになってきたよなぁ。
 英語ばっかり勉強させて、そこへ一年間の海外留学を教育課程に組み込み、うちの大学を出ると必ず英語を話せるようになります、って、どんなアホでも一年間留学すれば片言の英語くらい話せるようになるっての。
 俺様がサラリーマンをやっている時にも、そんな若い社員がいたぜ。
 聞いたこともないような大学を卒業してきて、自分は英語を話せるんですって少し自慢げに話していたが分数ができなかった。
 確かに大学ってのは就業の準備をするところでもあるけど、それだけじゃない。俺さまが思うに、二十二、三歳ってのは人格形成の最終ステージなんだ。たくさんの人と出会い、いろんなことを経験する。そこで何を思うかだ。それが大事なことなんだ。
 俺様もたまにはいいことを言うだろうって、お前たちの中に大学生なんかいるのか?
 どうせ、ひきこもりが関の山だろ。
 だけど、今のクソみたいな世の中なんかには出ない方がいいかもしれないなぁ。ずっとひきこもっている方が、ほんといいかもしれないぞ。
 大人の言うことなんか信じちゃダメだぞ。
 大人はみんなバカだから。俺様だけは例外だけど。
 自分だけを信じろ。そのためには自分を鍛えろ。考えるんだ、とにかく考えるんだ。
 小学校の国語の時間で習っただろう、「よく考える」って。
 とにかく考えるんだ。人間は考える葦、って、お前たちの臭い足じゃねぇぞ、植物の葦だからなッ。
 以上、俺様のお前たちバカどもに対する講義でした。
 あっ、そうだ、今日でこの放送は終わるから。決してスポンサーが不況の波にあおられたってことは口が裂けても言わないから。明日からは夜更かししないように、早寝早起き『早起きは三文の徳』。
 それと、どんなことがあっても死んじゃだめだぞ『死人に口なし』。
 やっぱ昔の人はいいことを言ったよなぁ。じゃっ、そういうことだから、アバよっ・・・・・・・・あっ、ひとつ言い忘れてた、安室奈美恵も年をとってかなり見れるようになったよな『時は金なり』。なんのこっちゃ。さらば、バサラ、まことちゃん。
 死ぬなよ。
 
 やすしは餌をくわえ損ねた釣り堀のコイのようにポカンと口を開けた。
 心の拠り所にしていた“おれだっ、誰だっ、宝田照だっ”の放送が突然終わってしまった。
 明日から俺はどうしたらええんや、絶望の淵で身を悶えさせている時、携帯が鳴った。
 またもや院徳治だった。
“どうして切ったんだよ”
「もうええて。すきにしたらええやんか。俺はどうせ負け犬や、お前は勝ち犬や」
“何言ってんだよ?”
「もうわかったって、切るぞ」
“ちょっと待てよ。
 さっきの話の続きだけど、彩加ちゃん、他に好きな人がいるんだって“
「へっ?」
“ふられちゃったよ”
 やっぱりな。
 やすしは手のひらを返すかのように胸を張り、心の中で言葉を紡いだ。
 たとえ時代が変わろうと、女の子は、スポーツ選手に似合わない長髪をなびかせてサッカーボールを蹴っている奴よりは、坊主頭にニキビ面を提げ、愚直に白球を追いかけている男が好きなんだ、と。
“で、誰が好きなのか聞こうとしたんだよ”
「ええよ、ええよ、院徳治。もうわかったから。切るで」ブツ。
 やすしはすぐに彩加の携帯の番号を押した。
“なんなん、こんな時間に”
「さっき院徳治から電話あったんや」
“そ、そうなん”
「彩加さぁ、前の、あの、公園の時の続きやねんけど…」
“う、うん”
「明日、練習休みやんかぁ、放課後なんか用事ある?」
“べ、べつにないけど”
「そしたら、また、あの公園で」
“キャプテンなぁ”
「なんやねん?」
“私、キャプテンのこと”
 来たーーーっ!!!
“すごい好きなんです”
 ワォーーーっ!!!
“せやけど”
 せやけど!?
“ッ球部の・・・”
「サッ球部?
 サッ球部って、俺と院徳治やんか」
“ちゃうんです。
 サッ球部じゃなくて、ッ球部の“
「なに?
 よう聞こえへんねん」
“たっ! きゅう! ぶ! の”
「卓球部?」
“そう。
 私、卓球部の高野君のことがずっと好きっやってん“
「ピーーーーーーーッッ!!!!」



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