1 一男は誰に言えばいいのかわからなかった。 しかし、誰かに言わなければ大変なことになってしまうと思った。 「ちょっと、掃除機かけるから」 妻の典子は、掃除機の先で一男をつついた。
いつもの散歩コースを歩いていると、前から女子高生の団体がやってきた。 一男は忘れかけていた光景を思い出した。 その日一男は、いつもの環状線に乗っていた。 大阪城公園駅を過ぎ、京橋駅に着いた電車は、大量の乗客を吐き出した。 「この人痴漢です」 横で誰かが手を挙げたのかと思ったら、自分の手だった。 同じサラリーマン風の男性に腕をつかまれ、人混みの中を駅長室に連れていかれ、声の主と対面した。 制服を着ていなければ、一度だけ行ったことのあるキャバクラというところにいた女の子達と似ているなあと一男が思ったその女の子は「このおっさんが触ってん」と言葉を吐いた。 「ほんまに私やってませんて」と何度も言ったが聞き入れてもらえず、結局、警察には通報しないという換わりに、自宅と会社に連絡がゆき、妻からは、二年前に急性白血病でこの世を十五歳の若さで去った千代美に顔向けできないと電話口で泣かれ、上司の松村取締役からは、一カ月の自宅謹慎と、5パーセントの給与カットを言い渡された。 更に悪いことには、腕をつかまれたサラリーマン風の男が、芸能人のプライベートなどをすっぱ抜く写真週刊誌「ピント」の編集長だった。 謹慎生活が始まって二週間後“三友商事 営業部長 女子高生にわいせつ行為”という文字が「ピント」の表紙で踊った。 一カ月の謹慎期間が三カ月になり、5パーセントの給与カットが10パーセントになり、ほぼ決まりになっていた取締役への昇格がおじゃんとなった。 一度だけ松村取締役に電話をいれると「クビにならかっただけ良かったじゃないか」と言われ、一方的に電話を切られた。
家に着くと、典子はポテトチップスを摘みながらワイドショーを見ていた。 「またそんなん見てんのか」 典子は何も言わなかった。 「どれ見たって、おんなじニュースをおんなじような顔ぶれでやってるだけやろ」 「あんたまだ素人やわ。 それぞれ微妙な違いがあんねん」 「そんなもんあるか。 おんなじ様な顔したアナウンサーがふったネタを、ヨシモトの芸人がああでもないこうでもない言うて口から泡飛ばしてるだけやないか。 こいつかって、なんて言うんやったっけ?」 「キンタ」 「何とか言う落語家の息子やろ」 「最近人気あんねんで」 「人気あんのか知らんけど、大した芸もないくせに、親の七光、それだけやないか。 それにこの横の、こいつ」 「ジャンク」 「ジャンクかパンクか知らんけど、他の局でおんなじ様なこと言うとったぞ」 「それだけひっぱりだこで人気があるって言うことやんか」 典子が尻を掻きながら言った。 「どこ点けても、ヨシモトヨシモト。人気なんか関係あらへん。みんな持ち回りでやってるだけや」 「しゃあないやん、大阪はヨシモトが仕切ってんねんから。 なんぼ実力があっても、ショウチクやったらスターになんのん大変やからなあ」 「せやけど、こいつらかってスター気取りでテレビに出てるけど、向こう行ったら全然テレビでは見かけへんかったぞ」 向こうとは、東京だった。 一男は五年前、三年だけ東京で単身赴任をしていた。 深夜放送でヨシモトの芸人を見かけるのは希で、土曜日のお昼から、ヨシモト新喜劇はやっていなかった。 懐かしいなあと思って、三年ぶりに帰ってきた大阪で貪るようにしてチャンネルをひねったが、たった二日でお腹が一杯になってしまったことを思い出す。 「こんなんやから大阪はあかんねん。 いつまでたっても、やくざ、たこやき、ヨシモトやねんから」 「わかったわかった。もう、うんちくはええから、で、あんた暇やろ。ちょっと、キャベツ買うてきて。半玉でええから」 「今日、晩ご飯なんやねん?」 「お好み焼き」
一男が発砲酒の缶ビールを飲みながら「濱中一発打ったれーっ」とテレビに向かって吠えていると、典子が、顔じゅうにキュウリのスライスを貼り付けて洗面台から出てきた。 「な、なんやねんそれは?」 「お肌に良いねんて。 今日テレビでやっててん」 「そしたら今頃大阪じゅうのおばちゃんがキュウリのスライスを顔に貼り付けて家ん中をうろうろと歩いてんのか?」 「そうや、あんたのタイガースといっしょや」 「アホかっ、それとこれとは違うんや」 「そういうのへ理屈って言うねんで。 あっ、そうやっ、ちょっと変えるで」 典子はテーブルの上のリモコンを取り、チャンネルを変えた。 「こらっ、なにするんや!」 「ええやんか、どうせ打てへんねから」 一男は乱暴に典子からリモコンを奪い取るとチャンネルを戻した。 「ほらな」 濱中はバットを地面に叩き付けていた。 「ええやん、明日も明後日も試合あんねんから」 体を震わせて固まっている一男から、典子は再びリモコンを奪い取った。 「早よ風呂入りや。毎日毎日だらけた生活しとったら、復帰するときに体ついていけへんようになんで」 「アホかっ。 こんな状態で風呂なんか入ってられるかっ」 一男は立ち上がると、台所へ行き、長い間冷蔵庫で眠っていた冷酒の小瓶を取り出し、テーブルに戻った。 テレビの画面には、毎年高額納税者番付けに名前を連ねるヨシモトのタレントが死にかけの金魚のように大きく口を開けて笑っていた。 「こんなしょうもない番組見るなよ」 「何言うてんの。毎週視聴率トップやねんで」 高額納税者は、ゲストの自称“タレント”の束にお題を出し、出てきた回答について突っ込みを入れ、突っ込まれた自称“タレント”は嬉しそうな顔をして笑っている。 「どうせ、最後に、みんなで視聴者に向けて大口開けてラーメンかなんか食べて終わるんやろ。ああ美味しいって間抜けずらさげて。 一体、こいつらになんの芸があるんや。こんな奴が毎年何千万、何億いう金稼いでる思たらまじめに働くのアホらしなってくるわ」 典子は何も言わずチャンネルを変えた。 画面にはヨシモトの若手漫才師が映っていた。 「これもおんなじ様な番組なんやろ。 プロデューサーも視聴率稼がなあかんのか知らんけど、一つ流行ったらおんなじような番組作ってアホちゃうか。自分は視聴率が悪くてもこれで行きますって言う信念がないんかなあ、焼肉の食道園みたいに」 しかし、さっきの番組とは少し趣向が違った。 五人ずつくらいの若い男女が一台のバンに乗り外国を旅する。そのうち、彼らの中にいろんな愛が芽生える。一人の男を好きになる二人の女、ふられた女を好きになる別の男、そんな映像を延々と流し、またしても、スタジオにいる、自称“タレント”の束がくだらないコメントをする。 「なんやねんこの番組は?」 一男は声を荒げた。 「これからが面白いとこやねん」 典子は、キュウリのスライスを顔から剥がしながら言った。 「あの今泣いてる女の子おるやろ。あの子のことを、多分、その坊主頭の子は好きなはずなんよ」 一男は言葉を失った。 「これも結構視聴率ええねんで」 「おまえな、ヤラセって言うのは、これ多分ヤラセやなあってみんなうすうす気づきながら見るからええねん。こんな堂々ヤラセなんか見せて何がおもろいんや」 「そんな真剣に怒らんでええやんか。 気楽に見たらええねん、こんな番組」 「大体、人を好きになったり嫌いになったりすることを他人に見せるって言う感覚が俺にはようわからんわ。 作るほうも作るほうやし、出てくる奴も出てくる奴やし、見て笑ってる奴も笑ってる奴やし」 「案外ヤラセちゃうかもしれんで」 「それやったらもっと気色悪いわ。 人前でうんこしてんのと一緒やないか」 一男は典子からリモコンを奪い取ると、画面をNHKに変えた。 「ちょっと何すんのよ」 「もう、しょうもないもん見るなっ。 こんなん見てるから日本人はあかんようになったんや。知性の欠片もない人間ばっかり増えていって」 「電車の中で女子高生のおしり触る人に言われとうないわ」 「なにっ!!」 気がつくと、一男は、典子に手を上げていた。 もちろん初めてのことだった。
2 千代美の三回忌にも典子は帰ってこなかった。 実家へ電話を入れようと思ったが、あの事件以来、京都大学を出て有名商社へ勤めているという肩書きを崇め奉っていた親類、親戚一同は、大潮の干潮が如く一男の周りから引いていった。 テレビを点け、テーブルの上の昨日の夕刊を拡げると、習慣になった寝起きの缶ビールのプルトップを引っ張った。 寝起きの胃が驚いて大きなげっぷを返してきた時、開いた新聞の“高額納税者ランキング”に目が止まった。 隣のページに目を移すと、“関西地区 芸能人ベストテン”の文字が踊り、一番下に『ジャンク』の名前が堂々と活字になっていた。 「あいつ、四千万も稼いでんのか」 一男が唸ると「ありがとうございます」と間違いなくジャンクの声がした。 はっ、と一男が顔を上げると、テレビの画面に、カレーパンを手にして嬉しそうに笑うジャンクが立っており「今日のいち押しパンは、堺市、褒美堂さんの、焼き立てカレーパンでーす」と口から泡を飛ばしていた。 「あほかっ」 一男はリモコンをげんこつで叩き、ジャンクを目の前から消した。 「ほんまにやっとられんなあ」 新聞のページを一枚捲り、缶ビールを傾けようと何気なく視線を落とすと、週刊誌の広告が載っていた。 “テレビなんかいらないキャンペーン 第三弾” 一男は缶ビールをテーブルの上に置くと、震える手でその広告をちぎった。 「週刊文衆・・・出版社はどこや・・・」 一男はちぎった広告をまじまじと見た。 「集談社?・・・どっかで聞いたことあるなあ・・・」 一〇四で聞くと、市街局番は〇三だった。 財布を開くと、一万円札が一枚しか入っていなかった。 結婚してから、お金のことはすべて妻に任せていた。 極端な話、会社からいくら給料をもらっているかも知らなかったし、毎月家のローンをどれだけ返しているのか、貯金がどれだけあって、それがどこの銀行に預けてあるのか何も知らなかった。 コードレスの電話機を手にして典子の実家の電話番号を押した。 一回目の呼び出し音を聞くと、一男は電話を切った。 すぐに会社の番号を押し、出てきた秘書の女の子に「松村取締役お願いします」と言って『エリーゼのために』を聞いていると松村取締役が出てきた。 「色々考えたんですど、辞めさせて頂こうと思いまして」 〈ちょっと待てよ、そんな急に言われたって〉 「取締役にもお力添え頂いて会社に残して頂いたのは大変感謝はしておるんですけど」と嫌みを言って、「あんなやってもいない恥ずかしい事件で世間に騒がれて、どの面さげてまた会社に出ていくんだと自分で考えましたものですから。退職金は給料が振り込まれる口座ではなくて、交通費とか経費を精算したときに振り込まれる、取締役もよくご存じのあのへそくり用の第二口座のほうへ振り込んでください。あと何か処理するものがあれば全部郵送で送ってください」と結んで、一男は一方的に電話を切った。 カラカラになった喉を、残っていたビールで潤すと、もう一度コードレスの電話機を握り、さっき一〇四で聞いた番号を押した。 〈ありがとうございます。集談社でございます〉 「あのう、大阪の山田と申しますけど、週刊文衆の編集長にお繋ぎ頂きたいんですけど」〈どのようなご用件でしょうか?〉 「新聞に載っている広告を拝見したんですけど、その中に“テレビなんかいらないキャンペーン”て言うのがあったんですけど、その件でちょっと・・」 〈ご拝読頂き有り難うございます。 誠に申し訳ごさいませんが、直接お話頂くことはご遠慮頂いておりますので、お手数ですが、お客様のご意見を伺います専用の窓口がございますので、そちのほうにお掛け願えませんでしょうか。番号がフリーダイヤルの0120の・・〉 「直接話がしたいんよ。そんな悠長なこと言うてる場合やないんや」 〈ですから、申し上げました通り・・〉 「わかってるよ、おたくの言うことはようわかる。せやけど、そんなことしてたらえらいことになるんや。早う繋いでくれ・・・」
3 「また、お会いできるなんて夢にも思いませんでしたよ」 どこかで聞いたことのある出版社だなあと思ったのは間違いではなかった。 「その後は・・」 「おかげさまで会社を辞めました」 透明な硝子のテーブルにおいた名刺には 『週刊ピント』編集長 室井 満男 と書かれていた。 膝上20センチのミニスカートをはいたウェイトレスが注文を取りに来て「冷コ」と言いかけた一男は、慌てて「アイスコーヒー」と訂正した。 「いい店でしょ。 コーヒー一杯千円するんですけど、どうせまずくて高いコーヒーを飲むんなら少しでも楽しいほうがいいと思って。こっちじゃ結構流行ってるんですよ」 一カ月前に一男の腕をつかんだ掌で、室井は店の中を紹介した。 「今日はお忙しいところ申し訳ないです」 一男は軽く頭を下げた。 「いや、関西弁で喋る山田さんていう人がどうしても換わってほしいって言われるんですけどってうちの女の子が言うもんでね、関西弁で、山田、山田ねえ・・て考えてたらあの時のことを思い出しましてね、まさかとは思ったんですけど」 「ほんま無理言いまして申し訳ないです」 「あの時は、たまたま大阪で会議があって、何か前に立っている女の子の様子がおかしいなあと思ってたんですよ。そしたらね・・・。 こう見えても結構正義感強いんですよ」 室井はサングラスの向こうでははあと笑った。 「で、今日、わざわざ大阪からお見えになったのは?」 「ええ、実は」と一男が言いかけたとき、ウェイトレスがアイスコーヒーを持ってきた。 どうぞ、と室井が手を差し出しながら「まさかあの時のことを逆恨みして、テーブルの下からナイフがヌーッと出てきたりして」とふざけて言った。 室井の声の大きさに周りの客の何人かが反応した。 「いえいえ、そんなんやないんですわ。 あの、週刊文衆って雑誌ありますよねえ」 「私が編集長やってるんです」 「そうなんですか?」 「うちも、御多分にもれず、あまり業績が良くないですから、人がどんどん減らされて、給料は全然上がんないのに仕事ばっかり増えていって、『ピント』と兼任してやっているんです。それがどうかしましたか?」 「その中で、“テレビなんかいらないキャンペーン”ていうのをされていますよね」 「ええ。 うちも結構まともなことやってるでしょ。『ピント』だけじゃないんですよ」 「あれはいつからやってるんですか?」 「そうだなあ、今回が第三弾だから、確か二年くらい前からかなあ。但し、第二弾が終わってから」と言って、室井は店の中を見渡した。 「ある団体から圧力がかかったんだよ」 室井はもう一度店の中を見渡した。 「圧力って?」 「そういうことをやってもらっては困るという団体があって、そこから執拗な嫌がらせを受けたんだ。 いいとこまでいってたんだぜ。 一度、東京体育館てのがあって、昔よくプロレスの試合なんかやっていた所なんだけど、そこに三千人くらい集まって決起集会を開いて、国を巻き込んだ、大々的なキャンペーンをやろうって。 けど、その圧力には勝てなくって・・・」 「どこの団体やったんですか?」 「さあ、俺もその時はまだ編集長やってなかったから詳しくはわかんないけど、岬、前の編集長なんだけど、そいつの奥さんが言うにはかなり大変だったみたいだよ」 「奥さんが?」 「殺されたんだよ、岬は」 「えっ?」 「直接的じゃないけど、間接的にな。 気が狂って自宅のマンションから飛び降りたんだ。 十二階から飛び降りるとな、人間ってわかんなくなるんだ。何か、何だかわかんないんだけど、とにかく何か潰れた物がそこにあるな、そんな感じなんだよ」 「警察とかは?」 「ただの自殺だって」 室井はサングラスを取った。 「さっき言ったけど、俺、結構、正義感強いから。 で、おたくは?」 「ずっと家におるようになって、嫌でもテレビを見る機会が増えたんですわ。まあ、前からも思っとったんですけど、あんまりにも目に余る酷さだったんで、こら、はよなんとかせなあかんと思いまして」 「みんなやっぱり思ってんだ。 そらそうだよな。 何の芸も持たない、プライバシー以外何も売るものがない奴らが、芸能人、俺が言ってるのは芸NO人だけど、、えらそうな顔してテレビに出て、ヨシモトの芸人にいじくられるか、大口開けて“いやーっ、この焼肉最高っすねぇ”て飯食ってるだけで、俺達の何十倍っていう金稼いでんだからな」 「ほんまその通りですわ。 こっちはそれほどやないと思いますけど、向こうはもうヨシモト一色で。金太郎飴ちゃいますけど、どこのチャンネル回してもヨシモトヨシモトで」 「こっちも同じようなもんだよ。 一種の町内会って言うか、“今月ちょっと仕事が少ないんだよな”って誰かが言えば“じゃあ、こっちの仕事回してやるよ”って言って、何で今頃こんなやつがっていうとっくに旬の過ぎたタレントとか、そこまで二人で稼いでどうすんだよっていうくらい元アイドルの嫁さんとかが出てきたりするんだよ。 一見華やかな世界に見えるけど、実はすごく閉鎖的な世界なんだよ。 新しいものは受け付けない、言ってみれば今のこの国の縮図みたいなもんだけどな。 だから、若くて才能のあるやつらはみんな海外へ出ていくんだよ。しまいにこの国には、腰の曲がった芸NO人しかいなくなっちゃうぞ」 「大阪にもほんまに面白い芸人も何人かはいるんですよ。ああこれやったら充分カネ取れるなっていうのがね。 せやけど、滅多にテレビに映れへんから全くと言っていいほど評価されてないんですわ。 こんなこと言うたら女子供に怒られるかも知しりませんけど、テレビの視聴率が良いいうたって、所詮、子供と女性が良いって言うてるだけのもんでしょ。大体、夜の八時九時に家に帰ってる親父なんかいないですもんね。まあ、その辺は私らも反省せなあかんとこですけど、どっちにしろ本当の評価じゃないんですよ。 それを勘違いして、ああ俺はやっぱりすごいんだっ、て見てるほうも見られてるほうもみんな思ってしまうんでしょうね。だから、この国からはほんまもんの文化が育たないんでしょうね」 「文化・・・。 いい言葉だよね、山田さん。 ほんまもん・・・。 たまんないよね」 と言って、ははあと笑った室井の携帯が鳴った。 「あっそう、じゃあ、すぐに戻るよ」 携帯を切った室井は山田に手を合わせた。 「ごめん、急用が入っちゃって」 「いえいえ結構ですよ、お忙しそうですから。また出直してきます」 「そんな冷たいこと言わないでよ。 今日はお泊まり?」 「ええ。 久しぶりに来たんで、東京見物でもして帰ろうかなと思いまして」 「じゃあ、夜ゆっくりと食事でもしながら、この続きを話しましょうよ。 ホテルは?」 「ええ、もう取ってあります」 「チェックインは?」 「まだです」 「じゃあ、ちょうどいいよ。 そこさあ、キャンセルして、西新宿に、パーク・ハイアットっていうホテルがあるんだけど、そこで俺の名前、集談社の室井の紹介だって言えば半額で泊まれるから。
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