「ねえねえ大野くん、ブラジルって好き?」 サバの煮込み定食のトレイを片手でもちながら、必死で席を確保しようとしている俺に、「麺コーナー」でかけうどんをゲットしたタケはニコニコして話しかけてきた。 今は昼飯時で、学食はごった返し、麺類の出汁のにおい、揚げ物のアブラのにおいやなんかが混ざり合い、独特のじっとりした空気がこんでいる。 「おぉ、タケ。座ってからゆっくりきくからな。」 とりあえずそういなして、ようやく目についた2つの空席を逃すものかと、すこし離れた距離からトレイを滑り込ませた。 勢いがよすぎて滑った味噌汁がトレイのへりにぶつかり、すこしこぼれた。 「どうもすみません。」 まるでホトケのようだ、とよく嫌味を言われる笑顔をつくって、味噌汁の被害にあったと思しき奴をみると、我が工学部で一番イケメンといわれる東君だった。 オツムのレベルでいえば、日本で3本の指に入るほどだが、ルックス面は、近隣の女子大生の皆さんが、大学名をきいただけで合コンを欠席したくなるほど評判の悪いわが大学において、たしかにこの東は、目だってクールなルックスをしていた。 180は確実にある長身に、いわゆる「しょうゆ顔」(表現が古い)のさっぱりとした顔、そして妙に都会的な雰囲気をかもし出していた。目つきが鋭く、変な迫力がある。 そして俺はこいつがあまり好きではなかった。どうしてかはよくわからないが。 「イエ。」とカタカナ表示で会釈したあと、そのイケメンはもくもくとサバをつついた。こいつもサバ定だ。まずいメニューばかりだが、こいつはうまいのだ。 「で、ブラジルって何なんだよ、タケ。」 「うん、それがね。」 タケはメニューの中でもっともロープライスのかけうどんをすすっているが、湯気で銀縁のメガネがくもってしまっている。銀縁で、こめかみのあたりに「ワンデザイン」ある奴のトレードマークは、総じて評判が悪かった。完全に漫画のようで、思わず噴出しそうになった。タケは続けた。 「のりちゃんに、ブラジル料理に誘われたんだけどさ。」 のりちゃんというのは、2ヶ月ほど前にタケが花火大会で一目ぼれした相手だ。 以来、彼女の名前がタケの口から出ない日はない。 「ブラジル好きの友達がいたらつれてきてっていうんだ。」 妙なことをいう女だ、とおもったが、文句をいったら猛反発がくるのは目に見えたのでおとなしく 「ははぁ、そうなのかい。でもじゃまじゃないのかい?」 「うん、それがね、のりちゃんも従姉妹を連れてくるんだって。だから4人でちょうどいいんだよ。」 数あわせかよっといっしゅんむかついたが、話しているだけで本当に幸せそうな顔をするタケをみて、少しうらやましく思い、論文も大変な時期なので、断ろうかとも思ったが、結局好奇心に負けて言った。 「おお、いいよ、いってみようじゃないの。ただしブラジルにはあんま興味ねーけどな。」 タケはわかめを前歯にはりつけて今日一番の笑顔をみせた。
|
|