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作品名:ひとりのじかん 作者:たばし りの

第1回   1
「暗証番号を押してください」

この女の声は、冷たい。
きっと「お前、考え直せよ」という意味も込められているんだろうと毎回思う。
だけど、今回もお世話になるの。
きっと、きっと、大丈夫だから。


私は、全ての作業が済むと、とりあえず何事もなかったように、平静を装う。
そして、静かにそのドアを押す。
勿論、誰かに見られては嫌だから、少し下を向きながら。

そして、静かに普通に歩き出す。
元の場所に、早く戻る為に。

だけど、その前にする事がある。
財布から小銭を出して、いつものレインボーカラーの缶コーヒーを買う。
ちょっとした、私の願掛け。

それから、元の席に戻って再び財布から、今度はゆきち君を取り出し吸い取らせる。

ガチャガチャーーーン。

コインが大量に放出される。
まずは、タバコに火をつけてから、三枚だけ機械の中に入れる。


取り返せ!!お願い!!

私は強く願ってるけど、それは顔には出さない。
右手にはめているタイガーアイのブレスレットに願いをかけて、結局この休日もパチンコ屋で過ごしているのだ。






『お疲れ様ーー♪仕事終わった?今電話できるかなぁ?』
よし!送信っと。

ある意味一仕事終えた私は、今日はなんとか取り戻せた喜びのビールを飲みながら、彼氏のともあきにメールを送った。

私は、総合美容関連の会社で、エステ部門の中間管理職をしている31歳、独身。
別に、結婚しない主義でもないし、人並みに憧れはある。
ただ、子供は大嫌いだから、そこが少々難点である。
毎日遅くまで働き、仕事もいろいろあれど順調。
美容の仕事についている分、そりゃあ、若く見えるように毎日お手入れも怠らない。
それなりに友達のジャンルも広く多い。
それなりに人付き合いもこなしている。

20代までは、男性との付き合いも「視野を広げる為」にいろんな男性と恋愛もした。
短期間の付き合いも多かったが、それを望んで果敢に恋愛に挑んでいたようだったかもしれない。
そのおかげで、人脈は広がったと感じている。
勿論、沢山の恋愛の中で、傷ついたり、傷つけたり。
それは、男女の関係においては当たり前である。
ただ、薄めに恋愛していた事は否めない。
世の「彼氏に依存」している、モテナイ女性達のように、依存する必要がないから
きっと「薄い恋愛」だっただけだ。
別に特別にスタイルがいいわけでも、特別に美人でもないが、それなりの位置なのだが、私はモテるのだ。
ある意味、「隙がある」からではなく「隙をだしまくる」からモテるのだ。

だけど今は、4歳年下のともあきと付き合っている。
普通に愛もある。
彼の人柄の良さと優しさが、見た目のワイルドさとのギャップが、
私の恋愛の狩人気質を卒業させて
珍しく一年以上の付き合いになっている。
このまま行けば、「結婚」という形になるのだろうと思う。

人から見れば完璧に独身を謳歌している、働く女だが、
私には、誰にも言えない秘密がある。




自分の欲を満たすために作った借金。

総額320万。

別に恐い額じゃない。
返せない額じゃない。

今日も、少しだけ増やしてしまった。

親にも、彼にも、友達にも、こんな私を知られる訳にはいかない。


私は、ある程度稼ぎもあり、仕事もバリバリやっていて、楽しい友人もいて、優しい彼氏もいて、趣味に付き合いに、美容に、おしゃれに・・・・・。

独身を謳歌している、働く女。

だけど、
毎月本当は、苦しい生活をしている。
スロットで、勝った月は余裕だが、そうじゃない月は、最悪だ。


ともあきから、携帯メールの返信がきた。

『もう少しで終わるよ。今日はどんな休日だった?なにして過ごしたの?』

私は、早速返信する。

『終わったら連絡してね♪
今日は、一日お部屋の掃除とあとはテレビっ子でしたぁ!!
休みが合わないからー寂しいぞーーー!!!』

送信っと。


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