「暗証番号を押してください」
この女の声は、冷たい。 きっと「お前、考え直せよ」という意味も込められているんだろうと毎回思う。 だけど、今回もお世話になるの。 きっと、きっと、大丈夫だから。
私は、全ての作業が済むと、とりあえず何事もなかったように、平静を装う。 そして、静かにそのドアを押す。 勿論、誰かに見られては嫌だから、少し下を向きながら。
そして、静かに普通に歩き出す。 元の場所に、早く戻る為に。
だけど、その前にする事がある。 財布から小銭を出して、いつものレインボーカラーの缶コーヒーを買う。 ちょっとした、私の願掛け。
それから、元の席に戻って再び財布から、今度はゆきち君を取り出し吸い取らせる。
ガチャガチャーーーン。
コインが大量に放出される。 まずは、タバコに火をつけてから、三枚だけ機械の中に入れる。
取り返せ!!お願い!!
私は強く願ってるけど、それは顔には出さない。 右手にはめているタイガーアイのブレスレットに願いをかけて、結局この休日もパチンコ屋で過ごしているのだ。
『お疲れ様ーー♪仕事終わった?今電話できるかなぁ?』 よし!送信っと。
ある意味一仕事終えた私は、今日はなんとか取り戻せた喜びのビールを飲みながら、彼氏のともあきにメールを送った。
私は、総合美容関連の会社で、エステ部門の中間管理職をしている31歳、独身。 別に、結婚しない主義でもないし、人並みに憧れはある。 ただ、子供は大嫌いだから、そこが少々難点である。 毎日遅くまで働き、仕事もいろいろあれど順調。 美容の仕事についている分、そりゃあ、若く見えるように毎日お手入れも怠らない。 それなりに友達のジャンルも広く多い。 それなりに人付き合いもこなしている。
20代までは、男性との付き合いも「視野を広げる為」にいろんな男性と恋愛もした。 短期間の付き合いも多かったが、それを望んで果敢に恋愛に挑んでいたようだったかもしれない。 そのおかげで、人脈は広がったと感じている。 勿論、沢山の恋愛の中で、傷ついたり、傷つけたり。 それは、男女の関係においては当たり前である。 ただ、薄めに恋愛していた事は否めない。 世の「彼氏に依存」している、モテナイ女性達のように、依存する必要がないから きっと「薄い恋愛」だっただけだ。 別に特別にスタイルがいいわけでも、特別に美人でもないが、それなりの位置なのだが、私はモテるのだ。 ある意味、「隙がある」からではなく「隙をだしまくる」からモテるのだ。
だけど今は、4歳年下のともあきと付き合っている。 普通に愛もある。 彼の人柄の良さと優しさが、見た目のワイルドさとのギャップが、 私の恋愛の狩人気質を卒業させて 珍しく一年以上の付き合いになっている。 このまま行けば、「結婚」という形になるのだろうと思う。
人から見れば完璧に独身を謳歌している、働く女だが、 私には、誰にも言えない秘密がある。
自分の欲を満たすために作った借金。
総額320万。
別に恐い額じゃない。 返せない額じゃない。
今日も、少しだけ増やしてしまった。
親にも、彼にも、友達にも、こんな私を知られる訳にはいかない。
私は、ある程度稼ぎもあり、仕事もバリバリやっていて、楽しい友人もいて、優しい彼氏もいて、趣味に付き合いに、美容に、おしゃれに・・・・・。
独身を謳歌している、働く女。
だけど、 毎月本当は、苦しい生活をしている。 スロットで、勝った月は余裕だが、そうじゃない月は、最悪だ。
ともあきから、携帯メールの返信がきた。
『もう少しで終わるよ。今日はどんな休日だった?なにして過ごしたの?』
私は、早速返信する。
『終わったら連絡してね♪ 今日は、一日お部屋の掃除とあとはテレビっ子でしたぁ!! 休みが合わないからー寂しいぞーーー!!!』
送信っと。
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