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作品名:町娘と若侍の恋 作者:沢村俊介

第18回   家老を救うために加代はわが身を

 公望は、加代の肩に手を置いた。
 そして、加代をしっかりと正面に向かせた。
「のぉ、加代、約束は守るから…」
 公望は、頬が紅潮しているのがわかる。

 女をと見れば、ただぼんやりと前を見つめているように思える。
「約束は守るから、われは、そなたを…」

 加代は、首を左右に振りつつ、拒否をしている。

 加代は胸が疼いているのがわかる。
 軍之進に申し訳ないと思うのだ。

「そなたが好きだ、だから…」
 総督の顔が迫る。
「総督さまとは、さっきお会いしたばかりなのに…」

「わかっておる。されど、会ったばかりとは申せ、好きなものは好きなのだ」
 加代は、総督の真剣なまなざしに、息を止める。
「……」
 加代は、公望に肩をしっかりと握られ、くちびるを奪いとられていた。
 
 ふたりの間にあった脇息は、公望の手で、すでに、横の方へと、どかされていた。
 公望の、加代の背中に回された手に、力が込められる。

『軍之進さま…』
 加代は、くちびるを奪われながらも、心の中で、恋しい人の名を呼んでいた。

「加代、寝所に移るぞ」
 加代は、公望に抱きかかえられていた。
 恥ずかしくて、目を瞑った。
 襖が二度開けられたような気がした。
 加代は、首の下に枕をあてがわれ、布団の上に寝かされる。
 からだが震えているのがわかる。

(ご家老さまのお命を救うためなら…)
 加代は目をつむり、歯を食いしばった。

 公望は、白けている。
 女のからだが硬く、明らかに自分を拒絶しているのだ。
 それで公望は加代に言った。
「そなた、こんなことは、したくないのか?」
「……」
「では、やめよう。こんなことをしなくても、われは、そなたとの約束を反古にはせぬ」
「……」
 加代は、男の冷たい声音に、頭の中が白くなっている。
 このままだと、ご家老の命が本当に救えるものかどうか、おぼつかない…。
 加代は、身を起こそうとしている男の肩に手をやる。
「どうした?」
 加代は、男の首に回した手に力を込め、男のからだを引き寄せていた。
 
 男のくちびるが襲ってきた。
 軍之進の顔が思い浮かぶ。それを追い払うように、しっかりと目を瞑った。
 加代は、男に、くちびるをしっかりと押しつけられていた。
 が、なぜか、加代は、男の口吸いに気味の悪さを感じ、背中に鳥肌を立てさせていた。
「そなた、はじめてなのか?」
 男が、耳元で囁いている。
「……」
「そうか、そうなのか。だが、ここまで来たら、われとて引っ込みがつかぬ。これから、そなたに、きらわれるようなことをするが、許せよ」
 加代は何も考えなかった。
 何も考えられなかった。
 ご家老さまのことも、軍之進のことも…。


 事は終わったらしい。
 加代は泣いていた。
 公望は、髪を撫でながら、加代をいたわっていた。
「加代、すまなかった。約束は守る、だから、もう泣くな」
 加代はそれでも泣き止まない。
 からだが痛い。
 が、しかし、この痛さが、ご家老さまの命を救ってくれそうな気がした。
                                 (つづく)


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