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作品名:町娘と若侍の恋 作者:沢村俊介

第14回   若い女の艶かしさ

「総督さま、どうか、ご慈悲をおめぐみくださいませ」
 若い女が、頭を下げている。
(この女、先ほどまで、酒に酔っていたのではないのか)
 公望は、女に興味を覚えている。

 と、女は腰を浮かし、立ち上がろうとしているように見えた。
 公望は、立ち去って欲しくなかった。
 もっと、この、若くて、意気の良さそうな女と話がしてみたくなった。
 公望は、脇息からひじをはずし、身を乗り出している。
「ちょっと、待たぬか」
「……」
 加代は顔を上げない。俯いたままだった。
 なぜか、加代は軍之進のことを思っていた。
 すると、頭の方で、若い公家の声がする。
「われは、それでも、この鎮撫使の一行を束ねてはいるのだ。しかし、われの耳に届かぬこともあるかもしれぬ。もっとも、われにできぬこともある。しかし、聞くことだけはできる。そなた、何か申したいことがあれば、申してみよ」
 
 加代は、胸が痛む。なぜだろう、わからない。
 しかし、目の前に、苦しげな軍之進の顔が浮かんでくるのだ。
 加代は、少し首を振り、あえて軍之進の幻を消した。

 加代は、覚悟を決め、正座をくずし、足をすこしばかり伸べながら、品をつくり、若い公家をちらりと見遣りながら、言った。
「わたしのようなものが、総督さまと、こうしていられるだけでも…」
 
 女がしっかりと顔を挙げ、正面を見つめている。
 気の強そうな女だ、と公望は思った。
 年の功は、24,5歳かと思う。
「そなた、年はいくつなのだ?」
「18でございます」
「えっ!」
 公望は、声を失っていた。
 18にはとても見えなかった。
 にじみ出るような色気といい、落ち着きといい、もっとおのれより年が上とばかり思っていたのだ。
「そなた、名は何と申すのだ」
「加代と申します」
「そうか、加代というのか」
「それでは、総督さま、わたくしは、これで」
「いや、待て」
「何か?」
「いや、われも18なのだ」
「……」
「だから、だから、同い年というよしみで、そなた、もう少しここに居て、われと話をしていかぬか?」
 加代は、まじまじと総督の顔を見ている。
 いい男だわ、と思う。が、軍之進も凛々しいおとこ振りだと思う。

「さぁ、加代とやら、もう少し、こちらに来ぬか」
「でも、総督さまはこわい」
 さして怖そうな顔付きでもなく、加代が言う。
 公望は、いらだっている。
「なぜだ?」
「なぜでも」
 加代は、ふっふふふと、流し目をしながら笑った。
「でも、総督さまって、やさしいところもありそうな気がしてまいりました…」
「そうか…」
 公望は、少し照れたように笑った。
 照れながら、公望は、加代を手招きしている。
 加代は立ち上がり、近づいてくる。
 が、脇息の前で来て、くるりと回り、背を見せて、座ってしまう。

 脇息を、はさんではいる。
 しかし、公望は、おのれが緊張しているのがわかった。
 すぐそばに加代の肩があった。そして、白いえり首を見ていると、その襟足から、にわかに、かぐわしい匂いが立ち込めて来た。
                               (つづく)


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