筆者のキー操作のミスで、以下の「27回目」のところを2度、掲載してしまいました。 すみませんが、ここは、飛ばし、「28回目」の「少年から青年になった抱月」の登載原稿にお進みください。 すなわち、下記のところは、「28回目」のところに掲載があります。 −−−−記−−−− 少年の顔が再びゆがんでいる。 少年は耐えていた。さなぎから蝶になるように。少年は薄暗い客席に立っていた。しかし、ライトを浴びた舞台が見える。少年はそこに向かって歩いていった。数段ばかりの踏み台をあがって舞台の上に立った。客席は見えない。少年は体が徐々に浮遊をしていくような気がした。少年が一歩足を踏み出したとき、今度は心身とも青年へと変身していた。そして、青年が舞台にすっくと立ち、台本のせりふを言い放った。 「何の、体験などいるものか。想像力と、その想像を表現する力さえあれば…」
須磨子は不思議そうに抱月を見ていた。抱月の姿がひどく若々しく見えたのだ。
「わたしには、才能がない、しかし、わたしは挑戦してみたいのだ」 抱月の声が、抱月でないように須磨子には思えた。しかも、物言いが、芝居がかっていると思った。 また、抱月が自分のことを指して『才能がない』というのは、嘘だと須磨子は思った。 普通の人間なら、洗面具や着替えを鞄に入れて旅に出る、しかし、この人は万年筆と原稿用紙だけを持って出かけたではないか。これは、普通ではない。この普通ではないところが、才能のある人間であることの証ではないのか、と思った。
「才能もないくせに、僕は、あがいている。そんな男など当てにせず、君は大きく飛躍して欲しい。もし、これからも君が演劇をやりたいのなら、いくらでもよい人を紹介してあげよう」 抱月は、小山内薫の顔を思い浮かべていた。 −−−−−−−−−
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