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作品名:太鼓たたきと踊る日々 作者:せんぎ

第12回   マザービーツ・ループ・ファクトリー
「よくわかんないんだけどさ…」
小杉が読み終えたノートを何だ、これ? と鼻で笑いながら床に放り投げて、舌で左の頬に膨らみを作り、訊ねた。
「これはオマエの頭のどのアタリからはみでているんだ?」
小杉にそれを手渡した瞬間から、恥ずかしさが涌きでていたが、その質問は更にボクを黙り込ませた。
外には金曜日の夜風がある。
そして、それが床に落ちると、赤いギターを弾いていたフカタニは、それをスタンドに立て、ノートを拾い上げ、読み始めた。そのギターを眺めながら彼の質問を考えるふりをして、ボクはこのギターを手に入れたときのことを思い出した。そして、手を伸ばしそれを膝に置き、弾き始めた。小杉はしばらく返事を待っていたがやがて、諦めて、また音楽雑誌をめくりだした。
部屋にある機材は、長い時間をかけて、アリアプロからフェルナンデスに、フェンダーからギブソンに、アイバニーズのアンプから、グレコのアンプに、ボスのはずみからラットのはずみにどんどんと変わって行った。それらはつまり、我が部屋の変遷を彩ってきた、象徴の道具たちということである。あるものは去っていき、そして、あるものはここに留まっていた。けれども、始めて手に入れたこのギターだけは、ずっとこの部屋に鎮座していた。
そうして、六弦の奏でが、日々、研鑽される。
部屋に転がっている多くの楽器や機材をもし物語るなら、その前にそれらの前史として、この町外れの川の側に一つだけある骨董品屋の倉庫の隅に転がっていた、三千円の名もなき、その赤いセミアコースティックのことを話さなければいけない。
そのギターの造型はグレッチのそれとそっくりだ。
そしてそれを手に入れた状況を思い返す限り、そのガラクタ屋の親爺はあんまり、まともとは言いがたかった。

四年前、ボクはそれを偶然に探し当てた。それを始めて手にしたとき、それはボクに見つけられるのを長い間待っていたような気がした。それが始まりだ。それを手に取るまではギターと言う楽器が欲しいと思ったこともなかったし、音楽にも興味がなかった。
雑然と濫立する冷蔵庫と洗濯機の林の隙間に挟まれてそれは埃を被っていた。それが眼に入ると、そこから引っ張り出して、ボクはしばらく眺めていた。値札はついていなかった。
「これいくら?」
学校帰りに何気なく立ち寄ったその倉庫で、録音機械を分解している作業服の中年の男に聞く。彼は奥の作業場から背中越しに顔を上げ、黙ったまま、ボクとボクが右手で掲げているそのギターを交互に見比べていた。マイナスドライバーを作業台に置き、首に巻きついているタオルで顔を拭ってから、右手で左耳を引っ張った。両手に何も持っていない場合、彼は絶えず体のどこかを引っぱっていた。眉毛や首や髪の毛やお腹なんかをだ。そして右手でその耳を真横に突き出しながら、
「それ、三十年もの、な。だから少し高い、三十万円、な。木が乾いてるから、いい音する、お勧めの品、だな。」とぼそぼそと言った。ボクはそのギターを掲げたまま、それを見つめ直した。木目が透けて、顔を映し出した。そして、黙ってそのギターを元の場所に仕舞おうとすると、
「けど、安くする、な。少しネックが反っているから、いま破格の値段にした、な。三万円、な。これは、うん、まさに買いだ、な」
黙ったまま、唇を引っぱり、剥き出しになった黄色い歯の彼を眺めていた。それからもう一度その赤いギターを諦めて、それを元に戻すべく、歩き出した。
「わかった、わかった、な。今、君の財布に入っているお金だけでいい、な」と間髪入れずに彼は言った。それを聞くと、ボクは売り物の本棚にそれを立て掛け、制服や鞄のあらゆるポケットを引っくり返し有り金全部をだした。見つかったのは数枚の硬貨だけだった。168円を手に乗せて突き出す。
「さっき言ったのは嘘、な。これ三千円、な」とそれを見て憮然と顎を引っぱりながら言った。
顎と髭を引っぱるのが飽きたのか彼は立ち上がって、手招きする。「一度、弾いて音を見てみるか? な」と呟いた。そして、彼は準備を始めた。屈みこんでシールドでアンプとボクの手から渡されたそのギターを繋いだ。出された椅子に座り、覚束ない手で、ボクは錆びついた弦をはじいた。彼はゲインのつまみを全開にした。
音は予想外に大きく、その振動が響いた瞬間にボクは、実際の所、すっかり参ってしまっていた。
鼻の脇を抓んでその姿を眺めていた彼は、「一度こちらに渡す、な」ギターを奪いとった彼は、チューニングをしたあと、床に屈みながら何かの曲を弾いた。シングルコイル特有の丸い音が彼の指から流れ出て、ゆっくりとしたメロディーがこの倉庫に響き渡った。曲の途中で彼は演奏をやめ、
「これ昔のボサ、ノバ、な」と言ってもう一度ボクにギターを渡した。そして三つのコードのポジションと、演奏していたスリーコードの曲を彼はボクに教え、その真似をしてみたが、指から出される見当外れの騒音に、彼はたった数分で「もうやめる、な」と言い、アンプの電源さっと落とした。音がなくなるとそのギターを手に取って繊細に色んなところをボクは眺めた。それからヒリヒリする左手の指先の感触を何度か眺め、彼に向かって「この、アンプも付けてよ、じゃあ買うからさ」と試しに聞いた。「だって、財布にある金だけでいいって言ったじゃないか」
「それ、とても、とても、難しい問題」腕組みしながら彼は右手で左手の甲の皮を抓み、首を振る。ボクも同じように首を振った。しばらく見詰め合ったまま時間が流れた。
「しょうがない、な。このギターと、このアンプ、二つで三千円、な、これ以上はとてもとても無理な話、な」
「この線も、な?」と同じ口調でシールドを持ち上げ笑いかけると、彼は諦めて溜息をついて言った。
それもしかたがない、な、まったく尻の毛まで抜かれて、鼻血も出ない、な、コドモはとても怖い、怖い。そして彼はドライバーを握り締め、作業に戻った。
それを聞くと、すぐに倉庫を出て、大急ぎで家に帰り、鞄を放り出して、僅かなお年玉の残りを机の引き出しから三枚、歪んだ夏目漱石を握り締め、食卓でヨーグルトを食べていた呆然と見詰めるヨシアキに適当な声をかけ、自転車に跨り、走ってそこに戻って行った。
汗だくで駆け込み、そのくしゃくしゃの紙幣を彼に渡す。
「メンテナンス、自分でする、な。」とそれを受け取った彼は言った。けれども、もちろん、彼にねだって赤いギターは調整を享受した。
それを見つけ出した頃、十三歳の少年が経験する普遍的な戦いの日々にボクはいた。

それから四年の歳月が流れ、フカタニの作る様々なリフレインに好き勝手に声を乗せる、ポエトリーが時代の主流になった。もちろん、その上から、ギターの出力する音を被せることもある。

不思議そうにボクを見つめる小杉の視線をはぐらかし、「アタマ? いや、わかんないな?」と自分のこめかみを中指の第二間接で押してみた。
「鉄アレイが空から降ってきたら、まあ、堪んないな・・・」と小杉は雑誌に顔を沈めながら言う。
ノートを拾い上げて読んでいたフカタニが、読み終えてボクにそれを返した。
「これ、オレは、オレはおもしろいと思うよ。うん……なんか好きだな。確かに訳分んないけどさ。感じがさ。」
そうだろ、と自信を取り戻し言う。小杉は、その態度の変化を茶化した。もう一度、自分が始めて書いたモノを読み返した。

八歳の少年が両親の喧嘩にウンザリして、犬と散歩に出かけ、竹薮の中を歩いていると、空から何百個もの鉄アレイが降ってくる光景を発見する。鉄アレイは彼の前にある藪の外の小屋を激しい音と共に粉々に破壊する。彼には何が落ちてきているのか分らない。ただぼんやりと彼の犬と共に立ってみているだけだ。そして、彼らの足元に割れた鉄アレイが転がってくる。犬はそれに向かって吼え、少年は犬に向かって言う。
「すげえや」
やがて落下物が途切れ、少年は犬の手綱を引きながら全速力で走って帰る。

たったそれだけ。三ページしかない初めての作品だ。それを読み返すと、自分でもなんだか困ってしまった。けれど、彼らに向かってこう宣言した。
「今日これをやろうと思うんだ。どうかな?」
小杉は興味なさそうに言った。「したいなら、すればいいさ」
フカタニがはっか煙草に火を点け、この家のルールを思い出して、ベランダに出る。
煙草を吸うなら、家を出ろ。それがここの家訓であった。
窓越しに「こういうのはヨシアキに聞いたらいいじゃないか。何てったって、あいつ、得意だろ、こういう意味が分らないの? アタマぶっ飛んでる人間なんだから、すごく共感してくれるかもしれない。もう読んでもらったか?」とボクに聞いた。
「いや、ニィにはまだ見せてないな」と、答えた。

仕事から帰ったばかりの父親は汚いスニーカーが二足増えていることを目敏く発見して玄関から叫んだ。
「おい、お前たちぃぃ、煙草を吸うなら外に出ろ。分っているなぁぁ」
三人は口々に叫び返す。
「ああ。わかってるよ」とボク。
「いつも御邪魔してます、おとうさん」と小杉が叫び「優等生の僕達にそんな事言わなくても大丈夫ですよ、おとうさん。了解です」とフカタニが叫んだ。
「よしよし、それは感心なことだ」呆れた声で父が叫び返す。それから「食い物買ってきたから、欲しかったら誰か取りに来い」と叫んだ。それにいち早く反応したフカタニが煙草を消して降りて行った。父親と母親とフカタニが大声でやりとりする声が聞こえてきた。フカタニはまた作り笑いの愛嬌を振り撒いているようだった。
「フカタニの奴、また自分をいい風に見せようと虚しい努力をしてるぜ」小杉が雑誌から眼を上げ嫌悪を顕わにした顔でボクを見る。
「いいじゃないか。そのお蔭でオレたちがあまりうるさいことを言われなくて済んでいるんだから」とボクは肩をすくめ、ギターを元に戻した。
「オレはあいつのあの姿を見るのは、嫌いだ。あれを見ると、腹が立ってしょうがない」
小杉がそれを言い終わると、扉が開き、フカタニがヨシアキと共に、屋台の焼きそばを持って部屋に入ってきた。ボクと小杉は今の話が彼に聞かれたかどうか、表情を観察し、互い視線が交差する。
「どうしたんだ? また、二人でオレの陰口でも叩いているのか?」何かを嗅ぎ取ったフカタニが卑屈な表情で聞き、その通りさ、と小杉は言う。フカタニは何も言い返さずに薄笑いを浮かべながら、元の場所に座って、包み紙を取り始めた。
「ヨシ、久しぶりだな。あれから、何か良いことはあったかい?」とおどおどしている兄に小杉は訊ね、雑誌を脇にやった。「あんまり」と空中の一点を見つめながら応え、この部屋に来るといつもそうするように、壁に頭を打ちつけていた。包み紙を丸めてゴミ箱に投げ、フカタニが割り箸を廻した。「ヨシ、食えよ」とフカタニが言い、「オレはいらない」と小杉は言った。ヨシアキは次に額を壁に擦りつけ、また、軽く打ち付けた。その音が部屋を揺らす。いつものように、投げかけられた言葉に対し、ただ何処かを向いてニヤニヤしているだけだった。「思うんだけどさ、やっぱりヨシとお前は似てないよな」とフカタニがボクに話しかける。「ホントに双子なのか?」彼は麺を啜り、箸をボクに突き付け振りかざし、また頬張る。
「いや、似ているって。ちょっとした仕草とか、時々垣間見せる表情とかがさ。確かに顔付きは違うけど」小杉が煙草を咥え、歩きながら言う。そしてこう付足す。
ヨシアキはびっくりするぐらい透明な表情を稀にするけど、弟はすえた匂いがする。
ボクは彼を睨みつけ、「臭いのはお互い様だろ」と吐き捨てた。
彼がベランダの扉を開けた音にヨシアキが反応して、頭を打ち付けるのをやめ、振り返って小杉の姿を追った。煙草に火を点け、じっと見ているヨシアキに気がついた小杉は煙を吐き出すと、
「こないだ教えたお楽しみ、毎晩欠かさずやっているか?」と股の辺りで軽く握った右手を振る。我々三人は笑い声をあげ、ヨシアキの頭がようやく壁から離れて、その仕草を食い入るように見詰めていた。
「あのせいで、こないだは、ほんと大変だったんだ。あの何日か後に家族と食事に行ったんだけどさ。食事を終わるとレストランの中で、ニィがさ、やり始めようとするんだ。ほんと参ったね、まったく」とボクが言う。
「それで、その後、どうなったんだ?」と、フカタニがボクに訊ねた。
「どうなったもなにも、オレが親より先に気づいて無理やり止めさせた。そして、先に車に戻ったさ。無理やり連れて行かれるのが悔しくて、泣き叫んで暴れていたよな、ニィ?」とまだフカタニを凝視しているヨシアキに訊ねた。
「ジャガイモフライ。ヤクソク」ヨシアキは、大事なものを壊さないように静かに、そっと呟く。
「そのとおり、ジャガイモフライの約束だよ」彼に応えるとヨシアキはにっこり微笑んで、背中を壁にドスンとぶつけ、そのままズルズルと座り込んだ。
「何だよ、それ?」フカタニは怪訝な顔をしてボクとヨシアキのやり取りに疑問をはさむ。
「人前ではあれをしない。一人の時だけにする。お父さんの前でも、お母さんの前でもしないことっていう二人の取り決めさ。その時たまたま夕食にポテトフライを食べたからさ、その約束をニィがジャガイモフライと呼んでるだけだよ。別に大した意味はない」
「ふうん」とフカタニから嘆息が漏れる。それから、しばらく誰も口を利かなかった。ヨシアキを除いて皆が二週間前の出来事を、思い出していたに違いない。

その日も金曜日だった。そして家に我々の両親はいなかった。そのような話になった経緯は覚えていないが、我々四人はボクの部屋で、ヨシアキが気に入っている彼の学校の女の子の話をした。三人は、根掘り葉掘りその事を聞きだすと、小杉が中心になって男の子と女の子についての事象を彼に事細かく教えようと試みた。
小杉曰く人生は「あれ」が重要との事だった。
「ヨシアキ。いいか、よく聞け。つまりオマエはその女の子と、名前はなんだったけな? ああ、つまりそのユカリちゃんとだな、一緒に気持ちいい事をするんだ。それが、最終目標だ。二人の為の共同作業だ。それをすると、ヨシは自分の赤ちゃんを作ることが出来るんだ。赤ちゃんは好きか?」小杉は紙に図解までして熱心に彼に話しかけていた。
しばらく黙り込んでからヨシアキは
「わかんない」
と、紙に描かれた人間が絡み合う下手な絵をふたたび見入る。先程から、何回も同じ話がされていて、フカタニとボクは内容を理解させることをとっくに諦め、その様子を眺めているだけだった。ヨシアキは唸ったり、体を揺すったりしながら、その行為を想像しようと努力していた。けれどもどうやら、それは彼のアタマの範疇を超えているようだった。
「赤ちゃんが好きか嫌いか、それはまあ置いておこう。今は、その過程の事を理解していりゃ、いいんだ。それは分るか?」
小杉が何度目かのその質問をまた繰り返した。
「こしの、うんどうが、たいせつ?」
ヨシアキは小杉が一人で実演していた時に説明した言葉を、困惑して繰り返す。
「そう、腰の反復運動だ。それが導いてくれるんだ。どういうことか分るよな?」
ヨシアキは困りながらボクの方を向いた。その様子を見て小杉の声はだんだんと弱々しくなっていった。
「そんなの口で言ってもやってみなけりゃ分んないって。その時になればきっと自然と出来るだろう」フカタニが投げやりに言った。その説明で三人はもうクタクタになってしまっていた。とうとう小杉も匙を投げたようで、小さく苦笑した。
「熊にキャブレターの働きを説明しても永遠にわかんないだろ、それと一緒だよ」フカタニが続けてそう言うと、しばらく考えたあと、小杉はそれに食ってかかる。
「熊は人間の言葉を理解しないだろ。熊には熊の世界がある」
「たとえばだよ」
「熊が生きていく上で、キャブレターは全く係わり合わないだろ。だから理解する必要もないし、それ自体も必要としない。けど、今はそんな話をしているんじゃない」
「そうむきになるなって。オレが言いたいのはね、オマエがセックスの事をヨシアキに解らせる必要はないだろ。それは、これからヨシアキが自分で見つけていく種類の事だ。だから小杉がとやかくお節介する事じゃないさ」
話の最後はボクとヨシアキを交互に見やりながら、同意を求めるかのようにフカタニは自分の言葉にしきりに頷いていた。
小杉はそれを聞いて黙り込む。あまり納得していないようだ。その言い合いを傍観していたヨシアキは自分の事が話題になっているということで酷く居心地が悪そうだった。
彼は小さい頃から、自分の事で周りが揉めると哀しそうな顔をした。
だいたいそのような場面では、彼についての話だけれど人々はヨシアキを疎外して勝手に結論をだす。
「オマエはどう思うんだ?」小杉がボクに訊いた。
「そうだよ、オマエはいつもこういう時に黙り込んでいるだけじゃないか。たまには何か言ったらどうなんだ?」と続けてフカタニもこちらを見る。
「どうって言われても……わんないな。ただ、フカタニが小杉に余計なお節介って言ったのも、小杉には、まあ、余計なお節介なのかもね」とボクは呟いた。
それから小杉は突然ヨシアキのズボンを剥ぎ取り、下半身を彼の剥き出しにした。ボクとフカタニは目を見張ってそれを見ていた。
「何してんだ?」フカタニが小杉にこわばった声で尋ねる。小杉はそれに見向きもせず抵抗するヨシアキの腕を払い除け、彼のペニスをつかんだ。
「実際に教えるんだよ」彼は右手を強く動かしながら、そう言い放った。ボクは幼い頃に感じた嫌悪感を思い出しながら、その光景を止めもせず眺めていた。やがて抵抗しなくなったヨシアキは今までに聞いた事もない、動物を思わせる声を呻いた。やがてそれは短い叫びに高まり、彼の白い液体が小杉の手に付いた。
それから四人はしばらく呆然としていた。それから哄笑が響いた。三人は大声で笑い転げ、ヨシアキはそれにつられて小さくなったペニスを握りながら微笑んでいた。
精子が付いた手をティッシュペーパーで拭う小杉にフカタニが笑みを残してこう言った。
「こいつ、狂ってる」

夜の十時をまわると、我々は機材を準備する。中学校の廃棄物置場からくすねたアンプにマイクを差込み、公衆便所から、電気を頂き、フカタニが一人、こそこそと家で作り出したサンプリングが鳴り響く。ここは町で唯一灯りが消されない、駅の広場だった。


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