20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:公園の風景 作者:三日月

最終回   1
 隆司は、公園のベンチに座っていた。
 太陽が明るく、冬なのに、結構、暖かい。
 何もする事が無い時は、よくこの公園に来る。
 人の多く集まる憩いの場所で、行き交う人を眺めているだけでも、面白い。
 近くには、自動販売機があり、隆司は、温かい缶コーヒーを買った。
 広場には、無数の鳩が集まっている。
 子供が、餌を与えていた。

 この不景気で、公園で生活をする人も増えていた。
 いわゆる、ホームレスである。
 ホームレスは、公園の緑地がある南の一角に集まって生活をしていた。
 公園には、水道もあるし、トイレもある。
 家の無い人が集まって来るのも、無理は無い。
 しかし、環境の悪化、治安の悪化を懸念する市民の声も、ローカルニュースで報道されていた。
 公園に集まる人も、その一角には近づかない。

 隆司の前を、恋人らしい二人の男女が歩いた。
 大学が近くにあるので、そういうのも、よく見る光景だった。
 彼らは、隆司の座っているベンチの正面にあるベンチに腰を下ろした。
 女の方が、手にさげていた袋の中から、たこ焼きを取り出した。
 たこ焼きは二つあり、その内の一つを、女は男の手に渡す。
 二人で、たこ焼きを頬張り始めた。
 仲の良さが、見てとれる。
 しかし、幸せは、永遠に続くものではない。
 この二人も、いつまで恋人で居ることが出来るのだろうかと思ってみたりする。

 隆司も、たこ焼きが食べたくなり、買いに行くことにした。
 公園の北側入口のところに、たこ焼きの屋台が出ている。
 屋台の前では、数人の客が、たこ焼きを買っていた。
 隆司は、その客の列の後ろに並んだ。
 ポケットの中から財布を出し、いくら入っているのか確認する。
 五百円玉を一つ、取り出した。
 それで、たこ焼きを一つ買い、お釣りをもらう。
 もう一度、公園の中に戻るが、今度は、別の場所のベンチに座る。
 近くには噴水があり、子供の姿が多かった。
 はしゃぐ声が、辺りに響いている。

 たこ焼きを食べていると、一人の小さな男の子が、隆司の前に来た。
 手の中にあるたこ焼きを、欲しそうに眺めている。
「いる?」
 と言うと、男の子は頷いた。
 隆司は、たこ焼きを一つ、男の子の口の中に入れてやった。
「美味しい?」
 と聞くと、口をモグモグさせながら頷いて、母親の方に歩いて行った。

 たこ焼きを食べ終えると、空になった入れ物を、ごみ箱の中に捨てる。
 これからどうしようかと思っていると、ポケットの中の携帯電話が鳴った。
「もしもし」
「片岡か。今、何をしているの」
「別に、何もしていない。中央公園で、暇潰し」
「今、早川と一緒に、居るけど、どこかに遊びに行かないか」
「いいけど、どこに行く」
「とりあえず、車で迎えに行くよ。市役所前まで、出て来てくれないか」
「わかった」
 電話は、友達の中村からだった。
 市役所は、公園の西側にある。
 隆司は、広場を横切り、西側の出口に向かって歩いた。

 広場では、子供たちが野球をして遊んでいた。
 ペットの犬を遊ばせている人も居る。
 何気なく眺めていると、隆司は、広場に居る人たちの中に、知り合いが居るのに気がついた。
 会社の同僚の渡辺である。
 渡辺の隣に居る女性は、恋人だろうか。
 声をかけようかどうか迷っていると、渡辺の方が、隆司に気がついた。
「やあ。何をしているの」
「別に。ただ、暇潰し。渡辺は、デートか」
「まあ、そのようなところだ」
 渡辺は、女性の事を紹介するでも無く、広場の向こうに歩いて行った。
 隆司は、それを見送り、また、西側の出口に歩く。

 西側出口は、他の出入口に比べると、やや、大きい。
 やはり、市役所が、その正面にあるからだろう。
 出入口の脇には、バスの停留所もある。
 数人が、停留所でバスを待っていた。
 隆司は、公園を囲んでいる壁にもたれ、中村の車を待つ。
 車は、五分後に現れた。
 バス停のスペースに車は止まる。
 隆司は、後部座席に乗り込んだ。
「どこに行こう」
 と、運転席の中村が言う。
「どこに行く」
 と、助手席の早川が言った。
「どこでも、いいよ。とにかく、出そう」
 隆司が言う。
 車は、停留所を出た。
 とりあえず、車は走り出す。
 行き先は、決まっていない。


■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 302