隆司は、公園のベンチに座っていた。 太陽が明るく、冬なのに、結構、暖かい。 何もする事が無い時は、よくこの公園に来る。 人の多く集まる憩いの場所で、行き交う人を眺めているだけでも、面白い。 近くには、自動販売機があり、隆司は、温かい缶コーヒーを買った。 広場には、無数の鳩が集まっている。 子供が、餌を与えていた。
この不景気で、公園で生活をする人も増えていた。 いわゆる、ホームレスである。 ホームレスは、公園の緑地がある南の一角に集まって生活をしていた。 公園には、水道もあるし、トイレもある。 家の無い人が集まって来るのも、無理は無い。 しかし、環境の悪化、治安の悪化を懸念する市民の声も、ローカルニュースで報道されていた。 公園に集まる人も、その一角には近づかない。
隆司の前を、恋人らしい二人の男女が歩いた。 大学が近くにあるので、そういうのも、よく見る光景だった。 彼らは、隆司の座っているベンチの正面にあるベンチに腰を下ろした。 女の方が、手にさげていた袋の中から、たこ焼きを取り出した。 たこ焼きは二つあり、その内の一つを、女は男の手に渡す。 二人で、たこ焼きを頬張り始めた。 仲の良さが、見てとれる。 しかし、幸せは、永遠に続くものではない。 この二人も、いつまで恋人で居ることが出来るのだろうかと思ってみたりする。
隆司も、たこ焼きが食べたくなり、買いに行くことにした。 公園の北側入口のところに、たこ焼きの屋台が出ている。 屋台の前では、数人の客が、たこ焼きを買っていた。 隆司は、その客の列の後ろに並んだ。 ポケットの中から財布を出し、いくら入っているのか確認する。 五百円玉を一つ、取り出した。 それで、たこ焼きを一つ買い、お釣りをもらう。 もう一度、公園の中に戻るが、今度は、別の場所のベンチに座る。 近くには噴水があり、子供の姿が多かった。 はしゃぐ声が、辺りに響いている。
たこ焼きを食べていると、一人の小さな男の子が、隆司の前に来た。 手の中にあるたこ焼きを、欲しそうに眺めている。 「いる?」 と言うと、男の子は頷いた。 隆司は、たこ焼きを一つ、男の子の口の中に入れてやった。 「美味しい?」 と聞くと、口をモグモグさせながら頷いて、母親の方に歩いて行った。
たこ焼きを食べ終えると、空になった入れ物を、ごみ箱の中に捨てる。 これからどうしようかと思っていると、ポケットの中の携帯電話が鳴った。 「もしもし」 「片岡か。今、何をしているの」 「別に、何もしていない。中央公園で、暇潰し」 「今、早川と一緒に、居るけど、どこかに遊びに行かないか」 「いいけど、どこに行く」 「とりあえず、車で迎えに行くよ。市役所前まで、出て来てくれないか」 「わかった」 電話は、友達の中村からだった。 市役所は、公園の西側にある。 隆司は、広場を横切り、西側の出口に向かって歩いた。
広場では、子供たちが野球をして遊んでいた。 ペットの犬を遊ばせている人も居る。 何気なく眺めていると、隆司は、広場に居る人たちの中に、知り合いが居るのに気がついた。 会社の同僚の渡辺である。 渡辺の隣に居る女性は、恋人だろうか。 声をかけようかどうか迷っていると、渡辺の方が、隆司に気がついた。 「やあ。何をしているの」 「別に。ただ、暇潰し。渡辺は、デートか」 「まあ、そのようなところだ」 渡辺は、女性の事を紹介するでも無く、広場の向こうに歩いて行った。 隆司は、それを見送り、また、西側の出口に歩く。
西側出口は、他の出入口に比べると、やや、大きい。 やはり、市役所が、その正面にあるからだろう。 出入口の脇には、バスの停留所もある。 数人が、停留所でバスを待っていた。 隆司は、公園を囲んでいる壁にもたれ、中村の車を待つ。 車は、五分後に現れた。 バス停のスペースに車は止まる。 隆司は、後部座席に乗り込んだ。 「どこに行こう」 と、運転席の中村が言う。 「どこに行く」 と、助手席の早川が言った。 「どこでも、いいよ。とにかく、出そう」 隆司が言う。 車は、停留所を出た。 とりあえず、車は走り出す。 行き先は、決まっていない。
|
|