僕は、全ての力を失ってしまった。 もう、何もすることが出来ない。 もはや、生きている人間としての価値は無いのかもしれない。 そして、僕は、死に場所を求めて、さまよい続けた。
たどり着いたのは、ある海辺の町。 漁港が、近くに見える。 僕は、防波堤にある灯台の下に居た。 小船が一隻、海の向こうから帰って来る。
台風が近づいている。 風が強く、波も高い。 小船は、その波に揉まれていた。 無事に堤防を過ぎ、港の中に入って来る。
僕の隣に、いつの間にか、一人の女性が立っていた。 長い髪が、風に揺れる。 鋭い瞳。 整った顔立ち。 それは、いかにも、僕を威圧した。 女性は、僕を見据える。
足元には、白い猫が居た。 猫は、その女性の足元に擦り寄る。 「あなたは、どうして、ここに」 「死に場所を求めて、ここに来た」 「ここで、死のうなど、馬鹿げたことよ」 「なぜだ」 「ここでは、人は死ねないのよ。そういう事になっているの」 「ならば、僕は、どうすればいい」 「生きていくしかない。そういう運命なのよ」 女性は、僕を諭す。 しかし、僕は……。
女性は、僕の手を引き、歩き出した。 猫も、後から付いて来る。 堤防を抜け、町を歩き、その背後にある小高い山に登った。 そこには、神が祭られている。
大きな岩がある。 その岩は、天に向かってそびえている。 夕暮れ時、その岩が、不思議に呻く。 僕は、何かの力を感じた。
女性は、僕を導いた。 生きる力が湧いて来る。 「この場所で、人は死ぬことは出来ない」 彼女の力を強く感じた。 僕の力は、まだ戻らないままである。
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