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作品名:僕の力は……。 作者:三日月

最終回   1
 僕は、全ての力を失ってしまった。
 もう、何もすることが出来ない。
 もはや、生きている人間としての価値は無いのかもしれない。
 そして、僕は、死に場所を求めて、さまよい続けた。

 たどり着いたのは、ある海辺の町。
 漁港が、近くに見える。
 僕は、防波堤にある灯台の下に居た。
 小船が一隻、海の向こうから帰って来る。

 台風が近づいている。
 風が強く、波も高い。
 小船は、その波に揉まれていた。
 無事に堤防を過ぎ、港の中に入って来る。

 僕の隣に、いつの間にか、一人の女性が立っていた。
 長い髪が、風に揺れる。
 鋭い瞳。
 整った顔立ち。
 それは、いかにも、僕を威圧した。
 女性は、僕を見据える。

 足元には、白い猫が居た。
 猫は、その女性の足元に擦り寄る。
「あなたは、どうして、ここに」
「死に場所を求めて、ここに来た」
「ここで、死のうなど、馬鹿げたことよ」
「なぜだ」
「ここでは、人は死ねないのよ。そういう事になっているの」
「ならば、僕は、どうすればいい」
「生きていくしかない。そういう運命なのよ」
 女性は、僕を諭す。
 しかし、僕は……。

 女性は、僕の手を引き、歩き出した。
 猫も、後から付いて来る。
 堤防を抜け、町を歩き、その背後にある小高い山に登った。
 そこには、神が祭られている。

 大きな岩がある。
 その岩は、天に向かってそびえている。
 夕暮れ時、その岩が、不思議に呻く。
 僕は、何かの力を感じた。

 女性は、僕を導いた。
 生きる力が湧いて来る。
「この場所で、人は死ぬことは出来ない」
 彼女の力を強く感じた。
 僕の力は、まだ戻らないままである。



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