それから一週間は、何事もなく過ぎた。 仕事にありつけた日は四日で、まあまあといったところである。 そして、また、土曜日の朝、誠一は、仕事を探しに出かける。 職業安定所の前で、仲介者を待っていると、その後ろの道を、機動隊が歩いて行くのが見えた。 誠一たち、職業安定所の前に集まっている求職者たちは、何だろうと、その機動隊の歩いて行く方向を見る。 ねずみ色の制服を着て、盾を持ち、ヘルメットをかぶっている。 全部で、三十人以上はいるだろう。 何が起こったのかと興味はあったが、仕事を得ることの方が重要である。 今日は、道路工事に仕事に行くことになった。 すでに何度も経験があるので、もう、その仕事は慣れたものである。 マイクロバスに乗せられて着いた場所は、町の中央を東西に延びる国道だった。 その国道の真ん中に大きな穴があいている。 「この穴も『新改革同盟』の起こしたテロで出来たものらしい」 と、労働者の一人が言う。 「何にしろ、俺たちの仕事が増えるというのは、嬉しいことだ」 別の労働者が言った。 誠一も同感である。 さっそく、仕事に取り掛かる。 この穴を埋め直し、アスファルトを敷いて元の道路に戻すには、三日はかかるだろうというのが、現場監督の話である。 これで、三日間は、仕事にありつける可能性が高くなった。 昼には、一時間の休憩がある。 弁当が出るわけではないので、自分で昼御飯を調達しなければならない。 肉体労働をするので、出来るだけ、昼御飯は食べるようにしている。 今日は近くにパン屋があったので、そこでサンドイッチを買った。 現場近くの路上に座り、他の労働者仲間と一緒にサンドイッチを食べる。 昼食はすぐに終わり、とりとめの無い雑談をしていたところ、突然、何か、大きな爆発音が、離れた場所から聞こえた。 「何だ」 と、誠一たちは、一斉に立ちあがる。 周囲の人たちが、その爆発音がした方に向かって、走り出す。 誠一たちも、何事かと、その爆発音のした場所に走った。 通りを二つ、東に抜ける。 その先の道の一角に、すでに大勢の人が集まっていた。 野次馬を整理していたのは機動隊だった。 その野次馬の向こうには、爆発で出来たらしい建物の残骸があり、数人の人が路上に倒れていた。 誠一を含めた野次馬は、機動隊と、駆け付けた警官によって追い払われた。 何が起こったのか、詳しいことがわかったのは、翌日のことである。 もちろん、報道はされていないので、同じ労働者仲間が聞いて来た話だった。 この町にも「新改革同盟」の拠点が出来たらしい。 昨日の機動隊は、その「新改革同盟」の拠点を抑えに、出動したものだった。 そして、昼に起こったあの爆発事件は、偶発的なものだった。 たまたま、拠点から外出をした新改革同盟の人間を機動隊が包囲。 逃げられないと思った新改革同盟のメンバーが、持っていた爆弾で自爆した。 もちろん、本人は即死し、機動隊の隊員三人が重傷を負う。 周囲の建物も、一部が破壊された。 誠一たちが見たのは、その現場である。 「この町も、物騒になるぞ」 労働者の一人が言った。 その労働者は、他の土地で、機動隊と新改革同盟の抗争を見て来たということである。 それは今、全国に広がりつつあるらしい。
それから数週間が経ち、誠一は、仕事にあぶれて部屋に居た。 すると、昼頃、隣の立花孝雄の部屋が急に騒がしくなる。 どうしたのだろうと、誠一は、部屋を出る。 すると、孝雄も、部屋から出て来る。 「どうかしましたか」 と、誠一は、孝雄に聞いてみた。 「うん。ちょっと。詳しいことは、また後で話しますから」 孝雄はそう言って、他の誠一の知らない人と一緒に、どこかに出かけて行く。 孝雄が部屋に帰って来たのは、夕方だった。 誠一は、孝雄から話を聞いた。 「桑田達也という男を覚えていますか。僕の引っ越しを手伝ってくれた」 「はい、覚えています。彼がどうかしたのですか」 「実は、桑田が『緑の葉』を抜けて『新改革同盟』に入ったのです。これから、そういう人間が増えて来るかもしれないので、その対策を練らなければいけません」 「そうですか。それは、大変ですね」 誠一は、そう返事をした。 しかし、それは悪い事ではないのではないかと思ったりもした。 どちらにしろ、「緑の葉」も「新改革同盟」も、自分たち、弱い者の味方であることには変わりない。 行動の方法が、少し違うだけである。 新改革同盟の方が過激な分、賛同を得やすいのかもしれない。 穏健な「緑の葉」から、過激な「新改革同盟」に人が移るのも無理はない。 それだけ、日本の状況が切迫しているということだろう。
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