20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:新改革同盟 作者:三日月

第2回   2
 あの、橋の爆破事件があって以来、町の中で、警官の姿を見ることが多くなった。
 やはり「新改革同盟」のことを警戒しているのだろうかと思う。
 報道が無いので、詳しいことはわからない。
 その点は、推測するしかない。
 誠一は、自分の生活にはそれほど影響は無いだろうと思っていたが、それが、そうではなかった。
 まず、毎日、仕事を探すために訪れる職業安定所の前で、警官が、集まっている人たちの整理を始めた。
 警官は、一人一人の身分も確認する。
 誠一は、車は持っていないが、一応、免許証は持っていたので、一度、それを取りに部屋に戻り、身分の証明をしなければならなかった。
 その身分の確認は、毎日、行われた。
 それと、誠一にとって困ったことは、「緑の葉」による週に二回の炊き出しが中止されたことだった。
 理由はわからないが、どうも、自分たちのような貧しい人間の集まる場所に国は神経をとがらせているようだった。
 そこに、危険が潜んでいるとでも思っているのだろうか。
 町は、ますます、住みづらくなった。
 しかし、仕事は、毎日、探さなければならない。
 市民の不安は、日増しに募っている。
 しかし、その不満を表に出すことは出来なかった。
 誠一は、ここ数日、仕事にありつくことが出来なかった。
 どうも、仕事の数も、以前より減っているのではないかと思う。
 原因が何かは、よくわからない。
 仕事が無いからといって、毎日、部屋で寝ているのもつまらない。
 誠一は、図書館に行ったり、町の中を、意味も無く、ぶらついたりしていた。
 しかし、無意味に町を歩いていると、時々、巡回の警官に声を掛けられ、職務質問をされることがあった。
 大の男が、平日の昼間から町の中をふらついていると、奇異に見えるのかもしれない。
 しかし、仕事が無い以上、それは、仕方の無いことである。
 仕事の無い日は、昼食は食べないことにした。
 腹は減るが、仕方が無い。
 やはり、部屋で寝転んでいるのが一番である。
 図書館で借りて来た本を読みながら、部屋で過ごすことにする。
 そのような日々を送っている時、隣の部屋に、一人の男が引っ越しをして来た。
 隣の部屋は、半年前に一人暮らしの老人が亡くなってから空き部屋になっていた。
 今度、引っ越しをして来たのは、誠一と同じ、若い男性だった。
 その日は、また、誠一は仕事にありつけなかったので部屋に居た。
 軽トラックから隣の部屋に荷物を運び込んでいるのを見て、
「お手伝いをしましょうか」
 と、誠一はドアから顔を出し、声をかけた。
「それは、助かります。お願いします」
 と、男は言った。
 他に、手伝いの男がもう一人、居た。
 二人は友達だろうと、誠一は思った。
 荷物はそれほど多くないので、引っ越しは、すぐに終わった。
「カップラーメンでよければ、一緒に食べますか」
 男が言ったので、誠一は、ご馳走になることにした。
 これで、一食分、食費が浮く。
 カップラーメンを食べながら、互いの自己紹介をした。
 引っ越しをして来た男は、立花孝雄。
 手伝いに来ていた男は、その友達の桑田達也ということだった。
 話をしているうちに、意外なことがわかった。
 二人は「緑の葉」のスタッフをしているということだった。
 もちろん、ボランティアでの参加である。
 彼らは、他に仕事を持っていた。
 誠一のような、日雇いの、その日くらしの人間とは、やはり違うようである。
「炊き出しがなくなると、僕のような貧乏人は困ります」
 誠一は言った。
「そうでしょうね。僕たちも、出来れば続けたかったのですが」
 孝雄が言った。
「やはり、あの橋の爆破事件が原因なのですか」
「そうだと思います。あれ以来、警察が神経をとがらせているようですから」
「あの事件は『新改革同盟』というグループが起こしたものだと聞きましたが」
「もう、噂になっているようですね。僕たちも詳しいことは知らないのですが、過激な団体だと聞いています」
「一体、何が目的なのでしょうね。その『新改革同盟』は」
「世の中を、もっと良くしたいという思いは、僕たち「緑の葉」と同じだと思います。それを表現する方法が、少し違うのでしょう」
 立花孝雄とは、いい友達になれるかもしれないと誠一は思った。
 自分たちのような貧しい人間のことを考えてくれる人が近くに居るというのは、うれしいことである。

 立花孝雄は、毎日、朝の七時過ぎに出かけて、夕方、六時前に帰って来る。
 ここから自転車で三十分ほど離れたところにある工場で働いているということだった。
 給料は、それほど多くはないらしい。
 しかし、日雇いの誠一よりは、安定した収入があるだけ、マシだろう。
「うちの工場も、仕事が少ないから、いつ倒産するかわからない状況だ」
 と、孝雄は言った。
「どこの会社も、同じだと思うよ。景気のいい会社は、少ないと思う」
 孝雄は続ける。
 誠一も、同感だった。
 孝雄は、土曜日と日曜日が休みで、休みの日にも、時折、朝から出かけて行く。
 孝雄が参加している「緑の葉」の仕事に行っているということだった。
「水野くんも、一緒に来てみませんか」
 と、誠一は誘われたが、土曜日も日曜日も関係なく仕事を探さなければならない誠一にとって、ボランティアに参加することは難しい。
「まあ、都合のいい時に、一度、支部に来てみたらいいですよ。活動に参加することは強制しませんから、ほんの、遊びに来るつもりで」
 孝雄は、そう言ってくれる。
 誠一は、どうしようかと考えたが、とりあえず、一度、行ってみることにした。
 仕事の無い日の、暇潰しにもなるだろう。

 それから三日後の土曜日、誠一は仕事にあぶれた。
 いつものように、職業安定所から、アパートの部屋に戻る。
 部屋に帰って、ぼんやりと寝転んでいると、昼前、孝雄が誠一の部屋に顔を出した。
「今日は、仕事はどうでしたか」
 誠一が言う。
「今日は、あぶれました。休日です」
「そうですか。それでは、僕と一緒に出かけませんか。『緑の葉』の支部に、行こうと思っているのですが」
「そうですね。僕も行ってもいいのなら、ついて行きます」
 誠一は、孝雄と一緒に部屋を出る。
 二人は自転車に乗って十五分ほど走り、ある一軒家の前に到着した。
 二階建ての、普通の住宅である。
「ここが、この町の支部です」
 と、孝雄が言った。
 二人は、自転車を家の前に置いて、中に入る。
 中も、普通の家だった。
「こんにちは」
 と、誠一は、部屋の中に居た女性に声をかけた。
「あら、そちらの方は」
 と、女性が言う。
「同じアパートで隣の部屋に住んでいる水野誠一さんです」
 孝雄は、誠一は女性に紹介する。
「支部の管理をしている永沢さんです」
 孝雄は、女性を誠一に紹介した。
「こんにちは。ようこそ」
 と、永沢は言った。
「どうも、初めまして」
 と、誠一は、挨拶をする。
 家の中には、永沢の他に、二人の男が居た。
 彼らも「緑の葉」のスタッフだった。
 誠一は、その家で、孝雄やスタッフたちと一緒に、昼御飯をご馳走になった。
 一食分の食費が浮いて、助かる。
 それと「緑の葉」の活動に関する話も聞いた。
 会員の数は、約五万人ということである。
 日本全国に広がる組織で、ボランティアとしては、最大規模のものということだった。
 しかし、その全てが「緑の葉」の活動に関わっているというわけではない。
 実際の活動に関わっているのは、一つの支部につき、十数人ということだった。
 その他の会員は、資金、物質の面で「緑の葉」の活動に協力している。
 中には、全く何の提供もない、名目だけの会員も居るということだったが、それは、それで構わないということである。
「炊き出しには、いつもお世話になっていました」
 誠一は言った。
「炊き出しだけではなく、物質面でも支給もしていますから、何か、必要な物があれば、遠慮なく言ってください。在庫があれば、お渡ししますよ」
 永沢が言う。
「でも、炊き出しが無くなってしまったのは、残念です。どうしてでしょうか」
「国からの通達が出たらしいのよ。それで、私たちのようなボランティアの活動が、大幅に制限されることになったの。特に、野外での活動は」
「立花さんにも聞きましたが、やはり『新改革同盟』の活動が影響しているのでしょうか」
「そうでしょうね。あそこには、過激な人が多いようですから」
 誠一は「緑の葉」の活動について、大まかな話を聞く。
 しかし、これ以上、国の干渉が強くなれば「緑の葉」の活動も、この先、どうなるのか見通しが立たないということだった。
「出来れば、水野さんにも『緑の葉』に参加して欲しいと思っています。もちろん、強制はしませんし、実際、活動に加わるかどうかも自由です。私たちは、ボランティアですから」
 永沢は言った。
 誠一は、即答はせず、しばらく、考えることにした。
 昼食を終え、しばらくしてから、誠一は一人でアパートに帰ることにした。
 孝雄はまだ、この家でする事があるということだった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1034