斎藤真理のことは、あれから、ずっと気にかけていたが、電話をしたのは、三日後の事である。 何を、どう話したものか、色々と考えたが、結局、結論は出なかった。 電話に出た真理は、僕の声を聞いて、喜んでくれた。 「久し振りね。どうしたの、突然」 「大沼に聞いたよ。離婚したそうじゃないか」 「そのこと。まあね」 「近いうちに、一度、会えないかな。実は、僕、岡山に転勤になって、今、倉敷に住んでいる」 「知っているわよ。大沼くんに聞いたから」 「今度は、火曜日が休みだから、どうだろう。大沼の店で」 「いいわよ。一緒に、ラーメンでも食べましょう」 火曜日の午後一時半、僕は、真理と会うことにした。 実際に会うのは、五年ぶりくらいである。
高校時代、一緒に遊んでいた頃の写真は、今も実家に残してある。 高校を卒業後、僕は東京の私立大学に、彼女は四国高松の香川大学に進学した。 瀬戸大橋があるので、児島から高松は、通学圏内である。 彼女は、実家から、大学に通っていた。 大学時代も、よく一緒に遊んだが、お互いの交友範囲も広がり、高校時代ほど頻繁に会うことは無くなる。 それは、社会人になるとさらに顕著で、時折、電話で話すことと、年賀状の交換くらいで滅多に会うことは無い。 しかし、年を取るにつれて、真の友達というのは、逆に作りにくくなる。 そうなると、昔の友達は大切なものだと思う。
火曜日、僕は、一度、実家に帰って時間を潰してから法楽に向かった。 午後一時半、きっかりに店に入ると、真理はすでに店の中に居て、直樹と話をしていた。 「やあ、来たか」 直樹は言う。 「うん、久し振り」 僕は、そう言いながら、真理の前に座った。 直樹は、ラーメンを用意してくれる。 テーブルにラーメンと餃子が並び、三人で話をした。 「こうやって、三人が揃うのも、久し振りだな」 直樹が言う。 「一番の幸せ者は、大沼くんね」 真理は言った。 「一番の不幸者は、斎藤さんか」 僕は言う。 「離婚をしたからといって、不幸とは限らない。でも、子供がいないのは寂しい」 「離婚の原因は」 「旦那の浮気よ。浮気というよりも、私の他に、付き合っている人がいたということ。結婚をする前からね」 「それは、どういうこと」 「だから、私の他に、本命がいたということ」 「じゃ、何で、斎藤さんと結婚をしたの」 「本命の女性には、結婚は出来ないと断られたらしいの。詳しい理由は、聞いてないから知らないけど」 「それで、代わりに斎藤さんと……と、いうことか」 ひどい話だ、と、僕は思う。 しかし、知らないだけで、世間には、よくある話なのかもしれない。 「大原くんは、女の人には誠実にね。結婚をしている大沼くんも、奥さんには優しく」 真理は言う。 「心配は無いよ。俺たちは」 直樹は言った。
ラーメンは、再会を祝して直樹がおごってくれた。 夕方、僕と真理は店を出る。 僕と真理は、僕の車で鷲羽山に登った。 展望台からは、瀬戸内の島々にかかり、四国に延びる瀬戸大橋を眺めることが出来た。 小学生の時には、遠足でも来たし、中学の時には、よく自転車で登った。 正月に初日の出を見に来ることもある。 昔、付き合っていた恋人と来たこともあり、僕は、その時のことを思い出したりもした。 「僕、斎藤さんとなら、結婚をしてもいいよ」 僕は、瀬戸大橋を見ながら、そのようなことを言ってみる。 「そうね。考えておくことにする」 真理は言った。 本気なのか冗談なのか、お互いにわからなかった。
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