昼が過ぎて、午後二時頃に、家に帰ることにする。 坂本卓也と半田健太郎も合流したが、彼らは、もう少し、泳いでから帰るということだった。 月曜日の部活は、午後からだった。 体育館では、バスケットボール部と同じだった。 バスケットボール部は、男女を合わせると二十人くらいである。 その中には、もちろん、坂本卓也と半田健太郎も居た。 土曜日の海水浴以来、卓也と恵理子は、仲良くなったようである。 部活は始まる前や、休憩時間に、二人が立ち話をしている光景を、幸助は、たまに目にすることがあった。 もっとも、焼き餅を焼くというような感情は無い。 二人の仲が良いのなら、それはそれで、良いことである。 幸助にも、好きな女子生徒が居た。 それは、吹奏楽部の同級生で、田村紀子といった。 もちろん、話をしたことは無い。 完全な、片思いの状態だった。 吹奏楽部は、音楽室で練習をしている。 卓球部との接点は、全く無い。 夏休みに入ると、顔を合わせる機会がなくなる。 それが、残念だった。
八月の大会に向けて、卓球部は練習に励む。 弱小卓球部の三年生にとって、それが最後の試合になる。 せめて、一度だけでも勝ちたいと、幸助と恵理子は熱心に練習をした。 八月二十五日。 大会の当日。 卓球部の部員は、会場である市立の体育館に向かった。 そこでは、卓球部の他に、剣道部、バレーボール部の試合も行われることになっている。 市内の中学校から、続々と人が集まって来る。 卓球部の会場は、体育館の北半分である。 幸助たちは、その一部を借りて、練習を開始した。 体育館の中には、観客も多く居た。 大会に出る生徒たちの保護者が大半だが、中には、それぞれの中学校の文化部の生徒たちも居る。 文化部の生徒たちは大会が無いので、こうやって、運動部の大会を観戦に来る。 それは、各学校でも奨励されていることだった。 生徒たちが、どの試合の応援に行くのかは、自由である。 幸助は、観客席の中に、田村紀子の姿を見つけた。 紀子は、他の吹奏楽部の生徒数人と一緒に、バレーボールの試合を見に来ているようだった。 自分を見に来ているわけではないということはわかっていたが、幸助の胸は高鳴った。 俄然、やる気も出て来た。 幸助の対戦相手は、春の大会で優勝をしたT中学校の岡崎という選手だった。 到底、勝ち目は無い。 しかし、幸助は、田村紀子を意識して、全力以上の力を出す。 奇跡的に互角の勝負を演じたが、やはり、実力の差で、岡崎には勝てなかった。 「頑張ったじゃない。これほど強い平井くんを見たのは、初めてよ」 恵理子が言った。 「最後の試合だから」 と、幸助は言った。 結局、幸助以下、部員たちは、一人も試合に勝てなかった。 いつもの事なので、それほど、ショックは無い。 大会の後は、いつも、行きつけのお好み焼き屋で、打ち上げをすることになっていた。 キャプテンを原田弓枝に譲る。 三年生は引退だった。
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