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作品名:卓球部の夏 作者:三日月

第2回   2
 中学校から最寄りの駅は、無人駅である。
 山の麓にあり、その山の名前を取って「大野山駅」という。
 線路は単線で、一時間に一本しか電車が来ない。
 幸助は、午前九時の十分前に、自転車で駅に到着する。
 恵理子と弓枝は、すでに駅に来て、ホームの上に立っていた。
「おはよう」
 と、幸助は二人に声をかけながら、ホームに上がる。
 少し遅れて、寛二と渉が、一緒に駅に到着した。
 電車が来るのは、午前九時十二分である。
 二両編成の電車が来た。
 五人は、後部の車両に乗り込む。
 他に、数人の乗客がいた。
 海水浴場のある海まで、約三十分。
 駅の名前は「藤崎駅」。
 海水浴場の名前は「藤崎海岸」である。
 電車は、藤崎駅に到着した。
 駅から海水浴場までは、十五分ほど、歩く。
 海水浴のシーズンなので、海水浴場に近づくと、駐車場に向かう車の列が見えた。
「人が、多そう」
 恵理子が言う。
「仕方ないよ。夏だから」
 幸助は言う。
 海水浴場に入ると、あふれる程の人である。
 五人は、海の家に場所を取り、更衣室で水着に着かえた。
 学校にはプールが無いので、仲間たちの水着姿を見るのは初めてだった。
 幸助は、特に、恵理子と弓枝、二人の女性の水着姿に目を奪われる。
 しかし、その素振りを見せるわけにはいかない。
 五人は、人ごみを避けて、海に入った。
 海水は、冷たくて、気持ちが良い。
 泳ぐのが苦手だと言っていた弓枝は、ちゃんと浮き輪を持って来ていた。
 弓枝は、浮き輪をふくらまし、それを持って海に入る。
 ぷかりと海面に浮き、その隣には、恵理子が付き添っていた。
 寛二と渉は、沖にあるブイの方に泳いで行く。
 幸助は、何をしようかと思ったが、とりあえず、恵理子と弓枝の近くで、ぷかり、ぷかりと、浮いていた。
「平井さんは、海は好きですか」
 弓枝が言う。
「好きだけど、あまり来ることはない」
 幸助は言う。
「私も、友達同士で来るのは、初めてよ。結構、いいものね」
 恵理子は言った。
「私は、泳ぐのが苦手だから、海に来たのは、小学校の低学年の時に、家族で来て以来ですね。中学生にもなって、浮き輪で浮いているのは、ちょっと恥ずかしい感じ」
 弓枝が言う。
「そうでもないよ。海に来たら、浮き輪で浮いているのが一番いい」
 幸助が言う。
 周囲を見ると、多くのいい大人が、浮き輪やビーチボールを使って、気楽に海面に浮いている。
 学校のプールではないので、どう泳ごうが自由である。

 しばらく、弓枝や恵理子から離れて、幸助が一人で泳いでいると、
「おい、平井じゃないか」
 と、後ろから声をかけられた。
 後ろから泳いで来たのは、同級生でバスケット部の坂本卓也だった。
「一人で来ているのか」
 卓也が言う。
「いや、部活のメンバーと一緒に」
 幸助は言った。
「じゃあ、山川さんや、原田さんも居るということ?」
「その辺りに居ると思うよ」
 幸助は、砂浜の方を指す。
「いいよな。女の子と一緒に来ることが出来て」
「坂本は、一人か?」
「まさか。半田と一緒だよ」
 半田健太郎は、坂本と同じ、バスケット部の同級生である。
 今は、トイレに行っているらしい。
「ちょっと、山川さんのところに行って来るよ」
 卓也は、そう言って、泳ぎ出す。
「水着姿も、見てみたいし」
 と、卓也は、泳ぎながら言った。


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