町に一つの中学校は、全校生徒が三百人弱と規模の小さいものである。 木造二階建ての校舎が二つ。 運動場と体育館があり、プールは無い。 放課後は、運動場も体育館も、部活動の生徒たちでにぎわう。 体育館の一角には、卓球部が練習をしていた。 卓球部の部員は、全部で五人。 三年生のキャプテン、平井幸助。 同じく、三年生の山川恵理子。 二年生の原田弓枝。 一年生の福田寛二。 同じく一年生の藤本渉の五人である。 卓球部のメンバーの実力は、それ程、高いものではない。 大会に出ても、一度、勝てるかどうかだが、それでも、楽しくやっている。 卓球部には、先輩後輩の上下関係も、あまり厳しくない。 部員全員が友達のように、和気あいあいとやっていた。 平日、部活動は、午後の六時に終わる。 それは、どの部活動も同じで、生徒たちは、一斉に下校する。 平井幸助は、校門を出たところで、後輩の部員たちと別れた。 山川恵理子とは、家が近いので、一緒に帰る。 恋人同士というわけではないが、仲が良かった。 男女の垣根を越えた親友だというのが、二人の関係である。 学校は、もうすぐ、夏休みだった。 期末試験が終わったばかりで、勉強から解放されて気分が良い。 三年生にとって、八月に行われる夏の大会が最後の試合である。 その大会が終われば、三年生は引退する。 後は、二年生の原田弓枝をキャプテンとして、卓球部を任せることになる。 原田弓枝は、卓球も上手く、勉強も出来て、キャプテンとして申し分が無い。 もっとも、卓球部は弱小なので、誰がキャプテンになっても大差はない。 幸助は、家の近くで恵理子と別れる。 「じゃ、また明日。バイバイ」 と、互いに言葉を交わし、恵理子は、さらに先にある家に帰って行った。
期末試験の結果が出る。 幸助の成績は、中の上といったところ。 恵理子は、幸助よりも、少し上の順位である。 それは、いつも変わらない。 夏休みに入ると、部活は、午前、または、午後の半日になる。 午前の場合は、午前八時過ぎから、十二時過ぎ頃まで。 午後の場合は、一時頃から、五時頃までと決まっている。 他の部活動とのローテーションで、体育館の使用時間が決まる。 卓球部は、弱小なので、他の部活に対して、肩身が狭い。 卓球部は、土曜日、日曜日は、練習は休みである。 運動部は、大抵、お盆と正月くらいしか休みがないものだが、卓球部は気楽である。 夏休みに入って二回目の金曜日。 部活動は午前の日で、昼には、練習は終わった。 卓球台を片付けていると、福田寛二が、幸助に言った。 「平井さん、明日、暇ですか」 「暇だけど、どうしたの」 「藤本と一緒に、海に行こうかと話をしているのですけど、平井さんもどうですか。もちろん、山川さんも、原田さんも一緒に」 幸助は、恵理子と弓枝、渉を呼ぶ。 「福田が、明日、皆で海に行こうと言っているけど、どうする」 「海って、どうやって行くの」 恵理子が言う。 海に行こうと思えば、電車、または、バスで、約三十分。 自転車だと、一時間程度かかる。 「電車で行こうと思っています」 寛二は言う。 「私、泳ぐのは苦手」 弓枝が言う。 「別に、泳がなくてもいいと思うよ。浮き輪で、ぷかぷか、浮いていれば」 幸助は言った。 「そうですか。だったら、行ってもいいかも」 弓枝が言い、恵理子も、賛成した。 明日、部員全員で、海に行くことになる。 朝の九時半。 駅に集合することにする。
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