僕は、猫です。 雑種の黒猫。 名前は「クロ」と言います。 僕のご主人さまである美紀ちゃんが、付けてくれた名前です。 美紀ちゃんは、中学一年生。 僕は、生まれて間もなく、美紀ちゃんによってこの家にもらわれて来ました。 美紀ちゃんは、僕の面倒を良く見てくれます。 朝晩のご飯の用意。 暇な時には遊んでくれて、夜は、一緒の布団で寝ます。 美紀ちゃんが学校に行くと、僕は、気ままに、家の中で昼寝。 日の当たる縁側に、座布団の上でうとうと。 目が覚めると、毎日、縄張りの点検に出かけます。 僕の縄張りは、この家のある町内。 塀の上や、屋根の上を、猫独特の軽やかさで歩きます。 三軒隣に住んでいる白猫の「ミー」とは、親友です。 ミーとは、散歩の途中で、よく会います。 一緒に遊び、一緒に昼寝。 ミーは、気が強く、よく僕にちょっかいを出します。 僕も、その相手をし、よく喧嘩になりますが、そこは遊び半分。 もちろん、本気ではありません。 町内には、五匹の猫がいます。 その中に、いくつかの町内を束ねるボスの「ロック」がいます。 ロックは、体が大きく、喧嘩も強い。 僕は、そのボスのロックが苦手で、いつも、目を合わさないように気をつけています。 もっとも、猫の世界では、目を合わすと喧嘩になる確率が高い。 ボスに対しては、目を合わさない方が、礼義にかなっているとも言えます。 町内には、広い駐車場があり、そこが、近所の猫たちの溜まり場でした。 暑い時には、車の下の陰で涼み、寒い日は、エンジンの温もった車の上で暖まる。 その駐車場の隣の家に住むおばさんが、よく、僕たち猫に餌をくれた。 それで、近所の野良猫たちも、その駐車場に集まって来る。 僕は、その野良猫たちとも、仲間になりました。 野良猫の生活は厳しいらしい。 何よりも、餌が食べられずに、腹が減る。 僕は、腹が減ると、家に帰る。 美紀ちゃんは、いつも帰りが遅い。 待ち切れない時は、美紀ちゃんのお母さんに「ニャーニャー」と餌をねだります。 満腹になると、縁側の座布団の上で眠る。 そこは、僕の特等席です。 美紀ちゃんが帰って来るのは、自転車の音でわかります。 美紀ちゃんの自転車の音がすると、僕は、すぐに玄関の前に。 「ただいま」 と、美紀ちゃんが玄関のドアを開けると、僕は、 「ニャー」 と、ひと鳴き。 美紀ちゃんは、僕の頭と背中を撫でてくれる。 美紀ちゃんは、ご飯を食べると、自分の部屋に入る。 僕も、しばらくすると美紀ちゃんの部屋に行き、そこで、寝る。 そして、明け方、目が覚めると、 「ニャー」 と鳴き、美紀ちゃんに窓を開けてもらって外出。 僕の一日は、そのような感じの一日です。
雨の日。 猫は、濡れるのが苦手です。 それでも、時折、家を出て散歩はします。 町角の家のひさしの上が、屋根の陰になって、雨が当たらない。 僕は、雨の日は、よくそこで昼寝をします。 時折、仲良しのミーと、そこで一緒になる。 ミーも、そこで、よく寝ていた。 「ニャー」 と、僕は、ミーに声をかける。 「ニャー」 と、ミーも返事をした。 二匹で、ひさしで寝ていると、ボス猫のロックが歩いて来た。 ロックが、僕の背中を、鼻先でつつく。 そこを、のけろと言っているので、僕は、仕方無く、ひさしから出た。 雨に濡れながら、家と家との間の路地を歩く。 野良猫たちが居る場所にでも行こうと思った。 雨が降ると、野良猫たちは、退屈です。 餌にありつく事も難しい。 野良猫たちは、雨を避けて、思い思いの場所で寝ている。 僕は向いの家の車庫の中で、マットの上で寝ている野良猫のタマを見つけた。 家の人に見つかれば、追い出される運命ですが、一時のやすらぎです。 僕は、そのタマの横を歩き、家の裏に抜ける。 特別に、行くあてもないので、僕は家に帰ることにした。 庭に回り、窓の前で「ニャー」と鳴くと、お母さんが、窓を開けてくれる。 お母さんは、僕を抱き上げると、足の裏を雑巾で拭いてくれます。 きれいな足になると、縁側に下ろしてくれる。 僕は、家の中を、しばらく、うろうろと歩き、いつもの座布団の上に落ち着いた。 雨に濡れた体を、ぺろぺろと舐め、綺麗になったところで丸くなる。 僕は、雨の音を聞きながら、また、寝ることにしました。 猫とは、よく眠るものです。
夕暮れ時。 二匹の猫が、路上で大喧嘩をしていた。 猫の喧嘩は、時折ある話です。 僕は、喧嘩は苦手なので、いつも、怖い猫は避けて歩きます。 怪我をすれば、猫は悲惨です。 飼い猫ならば、飼い主が病院に連れて行ってくれるかもしれません。 しかし、大抵の場合、猫は、人目につかない場所で、じっと回復を待ちます。 それは、病気の時も同じです。 それが、野生動物としての習性かもしれません。 しかし、多くの場合、猫はそのまま亡くなります。 悲しいことです。 ある日、僕は、ある家と家との間にある、狭い路地の隅で、死んでいる猫を見つけた。 最後の力を振りしぼって、ここまで歩いて来たのだろう。 僕は、しばらく、その横たわる猫の死体を見ていた。 しかし、僕には、どうすることも出来ません。 僕は、一声、 「ニャー」 と鳴き、その場を通り過ぎた。 全ての猫に待つ、運命と生活です。 それが、動物というものでしょう。
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