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作品名:ふわふわ 作者:三日月

最終回   1
 僕は、死んでしまったらしい。
 意識だけが、宙に浮いている。
 これが、魂というものらしい。
 線路脇には、僕の体が横たわっていた。
 電車が、その先に止まっている。
 僕は、電車に跳ねられたのだろうか。
 死ぬ前後の記憶は無い。
 人が集まって来た。
 警察と救急車も、駆け付ける。
 救急車は、僕の遺体を乗せ、病院に運ぶ。
 警察は、現場検証を始めた。
 僕は、ふわふわと、宙に浮きながら、それを見た。
 さて、これから、どうしようかと思う。
 死後の世界があるとは思っていなかったので、僕は、途方に暮れた。
 どうやら、天国、地獄といった世界は無いようである。
 もしかすると、自分が、成仏をしていないだけなのだろうか。
 だとすると、成仏をするには、どうすればいいのだろうか。
 難しいことを考えるのは、後にすることにする。
 僕は、ふわふわと、空中を移動した。
 とりあえず、自分の部屋に戻る。
 白壁のアパートの二階。
 窓を開けなくても、通り抜けることが出来た。
 部屋の中は、きれいに片付けられていた。
 壁際の棚の上には、遺書が置かれていた。
 遺書に書いた内容は、覚えていない。
 僕は、自殺をしたらしい。
 なぜ、自殺をしたのだろうか。
 死に関する記憶が、全く抜け落ちている。
 さて、次は、どこに行こう。
 僕は、残っている記憶をたどる。
 一番、強く残っているのは、ある女性のこと。
 本多美紀。
 僕が、好きだった女性である。
 僕は、本多美紀のところに行くことにした。
 彼女はどこに居るのだろうと思った。
 が、魂となった僕は、自然と、彼女の居る場所に引かれて行く。
 ふわふわと移動をした先は、町角にあるカフェだった。
 彼女は、友達の古橋望と、話をしている。
 僕がふわふわと本多美紀の後ろで浮いていると、古畑望が、僕を見た。
 僕は、不思議に思う。
 彼女には、僕が見えるのか。
「ねえ。ちょっと」
 望が、美紀に言った。
「美紀ちゃんの後ろに、何か見えるわよ」
「何かって?」
「霊だと思う。男の人の霊」
「嫌だ。変な事、言わないでよ」
「何か、心当たりは?」
「何もない。私、人に恨まれるようなことは、何もしていないわよ」
「私の見たところ、悪い霊ではないようだから、安心してもいいわよ」
「私の、守護霊ってこと?」
「それは、どうかわからない。でも、放っておいても、大丈夫だと思う」
 古畑望は、僕のことを、そう判断した。
 僕も、本多美紀に危害を加えようという気は、全く無い。
 僕は、それから、しばらくの間、本多美紀の周囲をふわふわとついて回った。
 何か、特別な興味があったわけではないが、何だか、心地良い。
 霊にも、そういう感覚はあるようである。
 霊は、自分の心地よい感覚の場所に収まるものらしい。
 僕にとって、それは、本多美紀の傍らだった。
 僕は、彼女を見守り続ける。
 それに、何の意味があるのかといえば、特別の意味は無い。
 彼女には、恋人が居た。
 不思議と、嫉妬心は、湧かなかった。
 相手が悪い男なら、呪ってやることも出来たのかもしれない。
 しかし、相手は、真面目な、良い男で、僕が、邪魔をするまでもなかった。
 彼女は、やがて、その男と結婚した。
 もうそろそろ、僕がそこに居るべきではないと思った。
 僕は、また、ふわりふわりと移動する。
 どこか、居心地の良い場所を探して、町の中をさまよった。
 しかし、どこにも、僕の安住の地は無いようである。
 やはり、天国か地獄に、成仏をするべきなのだろう。
 しかし、その方法がわからない。
 僕は、ふわふわと、自分が自殺をした線路の上に移動した。
 その線路の傍らには、地蔵が置かれ、花が飾られていた。
 誰が置いてくれたのか、僕は、嬉しく思う。
 僕は、自分の魂が昇天するのを感じた。
 僕が、僕でなくなって行く。
 それが、成仏というものなのだろう。


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