内村信夫は、それから頻繁に、自警団に参加するようになった。 大介は、信夫と行動を共にすることが多くなる。 覚醒剤の密売者を捕まえたことが、刺激になったらしい。 しかし、放火犯のことは、いつも気にかけていた。 「いつか、必ず、僕が捕まえたい」 と、信夫は言っていた。 飯島町の中に、犯人は住んでいるはずだと、信夫は言った。 これまで、三件の放火は、全て飯島町の中で起こっている。 わざわざ、遠くから飯島町を目指して放火に来るということはないだろうと、信夫は言った。 放火が行われるのは、深夜から明け方にかけてである。 その辺りが、最も人目の少ない時間帯なのだろう。 もちろん、自警団の見回りは、明け方まで行われる。 放火犯は、その間をぬっていた。 「もしかすると、放火犯は自警団のメンバーの中にいるのかも」 信夫は言った。 「まさか」 と、大介は言う。 可能性はあるが、信じたくないところだった。
それから二週間後、大介はまた、信夫と畑山悟との三人で、夜の町を回っていた。 そこに、別のグループから連絡が入る。 「こちら、飯島町一丁目の藤岡だ。三人組の強盗犯を発見、追跡中。応援を頼む」 大介たちは、四丁目にいたが、そこから一丁目方面に走った。 そこに、もう一つ、無線が飛び込んで来る。 「こちら、飯島町六丁目の片山です。放火犯と思われる人物を発見。ただいま、二丁目方面に向かって逃走中です。応援を頼みます」 その情報に、信夫が反応する。 大介は、どちらを優先するべきか迷った。 しかし、先に、信夫が判断をした。 「僕が、二丁目に向かう。二人は、一丁目に向かってくれ。それで、いいだろう?」 信夫は、大介に決断を求める。 大介は、即座に、判断し、信夫を二丁目に向かわせた。 大介と悟は、一丁目に走る。
大介と悟が現場に到着すると、強盗犯の一人が、すでに捕まっていた。 残りの二人は逃走中で、すぐに、警察が応援に来た。 自警団のメンバーも順次、集まり、付近の捜索を開始する。 しかし、翌日の午前九時頃まで捜索を続けたが、二人の強盗を見つけることは出来なかった。 後は、警察に任せるより他はない。
一方、二丁目の放火犯は、片岡のグループによって確保されていた。 信夫も、そのグループに協力をする。 確保された男は、警察に引き渡される。 調査の結果、確かに、男が連続放火犯だということがわかった。 二十二歳のアルバイトの青年で、火を見ることに好奇心があったという話である。 「迷惑な話だ。しかし、人を殺した以上、責任は取ってもらわないと」 信夫は言う。 そして、怒りをあらわにした。 「だが、自警団の人間ではなかったようだな。それは、ほっとしたところだが」 大介は言う。
自警団の人間は、少なくとも、正義の心を持っていなければならない。 それが、大介の考えである。 もっとも、そもそも、人間は善意の心を持ち、それをまっとうすることが、本来の姿ではないだろうか。 モラルが低下し、犯罪の増大する世の中で、それに対峙しようという正義の人間が必ず発生してくる。 そういう人間こそ、真の正しい人間だと言えるのだろう。
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