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作品名:町角自警団 作者:三日月

第2回   2
 三件目の放火事件が起こった。
 その放火事件で、両親と子供二人の、一家四人が焼死した。
 現場は、飯島町三丁目の住宅地の中の一軒である。
 自警団でも、放火を重点的に見回ることにした。
 自警団は、捜査機関ではないので、犯人を探すわけではない。
 あくまでも、治安維持のための見回りが、自警団の役目である。
 それ以上のことはしない。

 金曜日の夜である。
 公民館での打ち合わせで、いつものように、グループと、見回りの担当が決まった。
 その日は、珍しく、内村信夫が来ていた。
 信夫は、まだ、自警団に入って間がない。
 彼の場合は、暇があれば参加するというメンバーの一人で、自警団としては、そういう人たちも歓迎していた。
 大介と信夫は、個人的に知り合いでもあった。
 自警団で出会ってからは、個人的に親しくしている間柄でもある。
「今日は、どうしたの? 暇なのか」
 大介は、信夫に言う。
「まあ、それもあるけど」
「他にも、理由があるのか?」
「この間、放火で一家四人が亡くなっただろう。実は、あの家族とは知り合いで、もう、これは他人事じゃないと思って。一刻も早く、放火犯を捕まえないと」
 信夫は、意気込んでいた。
 今日は、信夫と畑山悟の三人で、見回りをすることになる。
 自警団としては、一番、経験の豊富な大介が、リーダーを務めることになった。

 今日は、飯島町五丁目の住宅地を回ることになった。
 そこは、ここ十年で開けた新興住宅地が広がる場所でもある。
 真新しい家が並んでいる。
 ここはまだ、放火の被害はない場所だった。
「警察は、放火犯の見当はついているのだろうか」
 歩きながら、信夫は話す。
「どうだろう。何か情報があれば、自警団の方にも流れて来るはずだよ」
 悟は言う。
「俺達、自警団で、何とか放火犯を捕まえられないものかな」
 信夫は言う。
「俺達の仕事は、犯人を探すことじゃないから、それは難しいだろう」
 大介は言う。
「俺達に出来ることは、犯罪を未然に防ぐことだよ。こうやって見回ることが、抑止にもなっているだろうし」
 悟は言った。
「でも、この間の放火があった日も、自警団は見回りをしていたはずだ。犯人は、その間をぬって放火をしたわけだから、その点は、何とか、工夫をしないと、犯罪は防ぐことが出来ないと思う」
 信夫は言う。
「いかに、自警団が充実したと言っても、四六時中、町全体を見張っているわけにはいかないから、どうしても、犯罪を完全に防ぐことは出来ない。そこは、難しいところだ」
 大介は言う。

 しばらく歩くと、公園があった。
 結構、広い公園で、街灯が一つ、公園の中を照らしている。
 ブランコに、一人の男が座っていた。
 手には、携帯電話のようなものを持っている。
 何をしているのだろうかと、大介は不審に思った。
「声をかけてみるか」
 と、大介たちは、公園の中に入る。
 すると、大介たちに気がついた男は、慌ててブランコから立ち上がり、反対方向に走って逃げ始めた。
「追いかけろ」
 と、大介は、反射的に叫ぶ。
 足の速い悟が、すぐに、その男に追いついた。
 三人で、男の身柄を確保する。
 大介は、警察に連絡を取った。
 すぐに、交番から警官が駆け付ける。
「どうしました」
 警官が言う。
「私たちの姿を見て、逃げ出しましたので、怪しいと思い、身柄を確保しました。よろしくお願いします」
 大介は、男を警官に引き渡した。
 男は、警官によって、交番に連れて行かれた。
 男は、警察の取り調べにより、覚醒剤を所持していたことがわかった。
 密売目的で、あの公園に居たらしい。
 薬物汚染は、こういう静かな住宅地にも広がっているらしい。


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