三件目の放火事件が起こった。 その放火事件で、両親と子供二人の、一家四人が焼死した。 現場は、飯島町三丁目の住宅地の中の一軒である。 自警団でも、放火を重点的に見回ることにした。 自警団は、捜査機関ではないので、犯人を探すわけではない。 あくまでも、治安維持のための見回りが、自警団の役目である。 それ以上のことはしない。
金曜日の夜である。 公民館での打ち合わせで、いつものように、グループと、見回りの担当が決まった。 その日は、珍しく、内村信夫が来ていた。 信夫は、まだ、自警団に入って間がない。 彼の場合は、暇があれば参加するというメンバーの一人で、自警団としては、そういう人たちも歓迎していた。 大介と信夫は、個人的に知り合いでもあった。 自警団で出会ってからは、個人的に親しくしている間柄でもある。 「今日は、どうしたの? 暇なのか」 大介は、信夫に言う。 「まあ、それもあるけど」 「他にも、理由があるのか?」 「この間、放火で一家四人が亡くなっただろう。実は、あの家族とは知り合いで、もう、これは他人事じゃないと思って。一刻も早く、放火犯を捕まえないと」 信夫は、意気込んでいた。 今日は、信夫と畑山悟の三人で、見回りをすることになる。 自警団としては、一番、経験の豊富な大介が、リーダーを務めることになった。
今日は、飯島町五丁目の住宅地を回ることになった。 そこは、ここ十年で開けた新興住宅地が広がる場所でもある。 真新しい家が並んでいる。 ここはまだ、放火の被害はない場所だった。 「警察は、放火犯の見当はついているのだろうか」 歩きながら、信夫は話す。 「どうだろう。何か情報があれば、自警団の方にも流れて来るはずだよ」 悟は言う。 「俺達、自警団で、何とか放火犯を捕まえられないものかな」 信夫は言う。 「俺達の仕事は、犯人を探すことじゃないから、それは難しいだろう」 大介は言う。 「俺達に出来ることは、犯罪を未然に防ぐことだよ。こうやって見回ることが、抑止にもなっているだろうし」 悟は言った。 「でも、この間の放火があった日も、自警団は見回りをしていたはずだ。犯人は、その間をぬって放火をしたわけだから、その点は、何とか、工夫をしないと、犯罪は防ぐことが出来ないと思う」 信夫は言う。 「いかに、自警団が充実したと言っても、四六時中、町全体を見張っているわけにはいかないから、どうしても、犯罪を完全に防ぐことは出来ない。そこは、難しいところだ」 大介は言う。
しばらく歩くと、公園があった。 結構、広い公園で、街灯が一つ、公園の中を照らしている。 ブランコに、一人の男が座っていた。 手には、携帯電話のようなものを持っている。 何をしているのだろうかと、大介は不審に思った。 「声をかけてみるか」 と、大介たちは、公園の中に入る。 すると、大介たちに気がついた男は、慌ててブランコから立ち上がり、反対方向に走って逃げ始めた。 「追いかけろ」 と、大介は、反射的に叫ぶ。 足の速い悟が、すぐに、その男に追いついた。 三人で、男の身柄を確保する。 大介は、警察に連絡を取った。 すぐに、交番から警官が駆け付ける。 「どうしました」 警官が言う。 「私たちの姿を見て、逃げ出しましたので、怪しいと思い、身柄を確保しました。よろしくお願いします」 大介は、男を警官に引き渡した。 男は、警官によって、交番に連れて行かれた。 男は、警察の取り調べにより、覚醒剤を所持していたことがわかった。 密売目的で、あの公園に居たらしい。 薬物汚染は、こういう静かな住宅地にも広がっているらしい。
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