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作品名:町角自警団 作者:三日月

第1回   1
 最近、犯罪が多く、警察ばかりに頼ってもいられないということで、全国各地の町で、自警団が結成されつつあった。
 花山大介が住んでいる飯島町でも、自警団が結成されることになる。
 自警団のメンバーは、基本的にボランティアである。
 志願者によって、メンバーは集められていた。

 花山大介が自警団に志願したのは、あふれる正義感からだった。
 花山大介には、正義感はあるものの、それを実行する勇気が無く、悪や不正を見ても、それを注意することが出来なかった。
 しかし、自警団に参加すれば、胸を張って正義を主張することが出来る。
 これほど気持ちの良いことはないだろうと、大介は思った。

 大介は、もちろん、仕事を持っている。
 自警団の活動にも、毎回、参加できるわけではない。
 大介は、仕事が休みの週末に、自警団の活動に参加する。
 飯島町二丁目の公民館が、自警団の活動拠点である。
 週末には、いつも、十数人のメンバーが集まっている。
 大介が公民館の到着したのは、午後の八時前。
 八時から、今日の、警備のプランが、話し合われることになっていた。

 自警団は、基本的に三人が一組になって行動する。
 その時々によってメンバーは違うが、その日、大介は、北島和夫、日下春人の二人と一緒に行動をすることになった。
 すでに、二人とは顔なじみの仲である。
 一番年上の北島和夫をリーダーとして、三人は公民館を出発した。
 自警団は、自治体から支給された揃いのジャンバーを着ていた。
 黄色で、闇夜にぼんやりと光っている。
 大介のグループは、駅裏の住宅地を回ることになった。
 今日は、駅前の繁華街を外れることになるが、それでも、気を抜くことはできない。
住宅地で警戒することといえば、放火、強盗、空き巣といったくらいだろうか。
 飯島町では、先月、二件の不審火があった。
 犯人は、まだ特定されていない。
 同一犯かどうかも、まだ、わかっていない。

 駅裏の住宅地は、飯島町三丁目になる。
 東には、私立飯島中学校があった。
 住宅地の静かな道を、三人で歩く。
 家々には、まだ電気がつき、家族の話し声や、テレビの音などが聞こえてくるところもあった。
 町は平和に見える。
 それはそれで、良いことである。

 その日の巡回は、何の異常もなく終わりそうだった。
 深夜の零時過ぎに、公民館に戻ることにする。
 しかし、駅の東側から線路の踏切を越えた時、北島の持っていた無線が鳴った。
「はい、北島です」
 大介と日下も足を止め、北島の方を見た。
「はい、了解しました。すぐに、そちらに向かいます」
 北島は、無線を切る。
「駅前のタクシー乗り場で喧嘩だ。高橋さんのグループが仲裁に入ろうとしているが、人手が足りないらしい。俺たちも、急ぐぞ」
 三人は、駅前に向かって走る。
 タクシー乗り場に到着すると、すでに野次馬が集まっていた。
 大介たちは、
「ちょっと、すみません」
 と、野次馬の中に割って入り、高橋の姿を見つける。
 高橋は、一人の男を路上に押さえつけていた。
 高橋の自警団グループの一人である田中が、手に血のついたナイフを持っている。
 その傍らには、被害者が、仰向けに倒れていた。
「警察と救急車は」
 北島が、高橋に言う。
「もうすぐ、来るだろう。北島くんには、野次馬の整理を頼む。警察の救急車の通路の確保をしてくれ」
 北島と日下、大介の三人は、野次馬の整理に取り掛かった。
 こういう経験は何度もあり、すでに慣れたものだった。


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