最近、犯罪が多く、警察ばかりに頼ってもいられないということで、全国各地の町で、自警団が結成されつつあった。 花山大介が住んでいる飯島町でも、自警団が結成されることになる。 自警団のメンバーは、基本的にボランティアである。 志願者によって、メンバーは集められていた。
花山大介が自警団に志願したのは、あふれる正義感からだった。 花山大介には、正義感はあるものの、それを実行する勇気が無く、悪や不正を見ても、それを注意することが出来なかった。 しかし、自警団に参加すれば、胸を張って正義を主張することが出来る。 これほど気持ちの良いことはないだろうと、大介は思った。
大介は、もちろん、仕事を持っている。 自警団の活動にも、毎回、参加できるわけではない。 大介は、仕事が休みの週末に、自警団の活動に参加する。 飯島町二丁目の公民館が、自警団の活動拠点である。 週末には、いつも、十数人のメンバーが集まっている。 大介が公民館の到着したのは、午後の八時前。 八時から、今日の、警備のプランが、話し合われることになっていた。
自警団は、基本的に三人が一組になって行動する。 その時々によってメンバーは違うが、その日、大介は、北島和夫、日下春人の二人と一緒に行動をすることになった。 すでに、二人とは顔なじみの仲である。 一番年上の北島和夫をリーダーとして、三人は公民館を出発した。 自警団は、自治体から支給された揃いのジャンバーを着ていた。 黄色で、闇夜にぼんやりと光っている。 大介のグループは、駅裏の住宅地を回ることになった。 今日は、駅前の繁華街を外れることになるが、それでも、気を抜くことはできない。 住宅地で警戒することといえば、放火、強盗、空き巣といったくらいだろうか。 飯島町では、先月、二件の不審火があった。 犯人は、まだ特定されていない。 同一犯かどうかも、まだ、わかっていない。
駅裏の住宅地は、飯島町三丁目になる。 東には、私立飯島中学校があった。 住宅地の静かな道を、三人で歩く。 家々には、まだ電気がつき、家族の話し声や、テレビの音などが聞こえてくるところもあった。 町は平和に見える。 それはそれで、良いことである。
その日の巡回は、何の異常もなく終わりそうだった。 深夜の零時過ぎに、公民館に戻ることにする。 しかし、駅の東側から線路の踏切を越えた時、北島の持っていた無線が鳴った。 「はい、北島です」 大介と日下も足を止め、北島の方を見た。 「はい、了解しました。すぐに、そちらに向かいます」 北島は、無線を切る。 「駅前のタクシー乗り場で喧嘩だ。高橋さんのグループが仲裁に入ろうとしているが、人手が足りないらしい。俺たちも、急ぐぞ」 三人は、駅前に向かって走る。 タクシー乗り場に到着すると、すでに野次馬が集まっていた。 大介たちは、 「ちょっと、すみません」 と、野次馬の中に割って入り、高橋の姿を見つける。 高橋は、一人の男を路上に押さえつけていた。 高橋の自警団グループの一人である田中が、手に血のついたナイフを持っている。 その傍らには、被害者が、仰向けに倒れていた。 「警察と救急車は」 北島が、高橋に言う。 「もうすぐ、来るだろう。北島くんには、野次馬の整理を頼む。警察の救急車の通路の確保をしてくれ」 北島と日下、大介の三人は、野次馬の整理に取り掛かった。 こういう経験は何度もあり、すでに慣れたものだった。
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