20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:クローン戦士 作者:三日月

最終回   3
 それから十五年後。
 十五歳の桑田甚八は、例外的に剣闘士としてデビューした。
 本来、剣闘士は十八歳で養成所に入り、二十歳でデビューするのが、最も早いコースだったが、クローンの桑田甚八は、物心が付いた頃から、すでに剣闘士としての専門的な訓練を受けている。
 デビュー戦には、かつての多くのファンが駆け付けた。
 森田光江も、大人になった原田満も、その中に居た。
 競技場の東の門が開き、桑田甚八が姿を現す。
 それは、まだ少年の要素を残したものの、紛れもなく、桑田甚八に違いなかった。
 溜息のような歓声が、競技場を包んだ。
 対戦相手もまた、今日がデビューの剣闘士だった。
 名前を菅原兼生と言った。
 長身で恰幅が良く、桑田甚八に劣らない二枚目でもあった。
 試合開始の合図と同時に、観客たちは息を飲んだ。
 桑田甚八は、以前の桑田甚八とは違っていたのだ。
 残虐な人殺し。
 以前のような華麗な姿は、今の桑田甚八には無かった。
 まさに人を殺すために生れて来た戦闘機械。
 今の桑田甚八の戦いぶりは、観客たちにそう印象づけた。

 以前と同じように、桑田甚八は勝ち続けた。
 しかし、その残虐な戦いぶりは、次第にファンを減らして行った。
 なぜ、オリジナルとクローンで、こうも戦いぶりが違うのか、心理学者たちが様々なマスコミを通じて、検証を始めた。
 オリジナルの桑田甚八が剣闘士になった過程は、こうである。
 甚八は、ごく普通の家庭に三人兄弟の長男として生まれた。
 父親は小学校の教師をしていたが、甚八が十歳の時に病気で亡くなった。
 それから、母親が苦労をして三人の子供を育てて行くことになる。
 甚八が剣闘士になることを決心したのは、母親と兄弟を経済的に助けるためだった。
 本当は、父親と同じ、教師になりたかったらしい。
 一方、クローンの桑田甚八は、初めから、剣闘士になるために育てられた。
 剣闘士のこと以外は、何もしらないと言っていい。
 この成長過程の環境の違いが、戦いぶりの違いに現れているのだろうと、ある心理学者が言った。
 クローンといえども、やはり、別人である。
 同じ遺伝子、同じ素養を持ってはいるが、性格が同じだとは限らない。
 そして、運命も……。

 クローンの桑田甚八は、十七歳の時に、試合に敗れて、命を落とした。
 それは、まさに、不運としか言いようの無い結果だった。
 相手が苦し紛れに放り投げた剣が、偶然にも、桑田甚八の喉を貫いたのだ。
 甚八にも、油断があったはずである。
 オリジナルが試合中には決して見せなかった油断を、クローンは見せてしまった。
 無敵の剣闘士としての自覚が、そうさせたのだろうか。
 やはり、二人の性格の違いか。

 さらにもう一体、クローンを作ろうという話は起こらなかった。
 クローンが必ずしも、本体の完全コピーではないということが、証明されたからである。
 森田光江も原田満も、クローンの桑田甚八には共感を覚えなかった。
 しかし、オリジナルの桑田甚八の姿は、鮮明に頭の中に残っている。
 彼は英雄として、剣闘士の殿堂に残ることになる。
 それで、十分だろう。


← 前の回  ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 553