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作品名:クローン戦士 作者:三日月

第2回   2
 その翌日である。
 森田光江も、原田満も、そして、恐らく、日本中の多くの人が、あるニュースを見て驚愕した。
「剣闘士の桑田甚八。事故死」
 昨日、試合を終えた後、自宅に戻る途中で、桑田甚八の運転する車が、居眠り運転の大型トラックと正面衝突。
 桑田甚八は即死した。
 桑田甚八は、不世出の剣闘士として、各メディアで讃えられた。
 そして、報道は過熱し、ある一つの話題が、大きく取り上げられることになる。
「桑田甚八を、クローン技術で復活させよう」
 マスコミでは、賛否両論が繰り広げられる。
 ファンの間では、署名活動も行われ始めていた。
 クローンによる人間の復活は、世界で三つの例があるだけである。
 技術的には十分、可能なのだが、やはり、倫理的な問題で、人間のクローンの製造は控えられている。
 日本では、まだ、クローン人間の製造例は一つも無い。

 森田光江の職場の友人である相原和子は、剣闘士にはそれほど良いイメージは持っていないようだった。
 もちろん、桑田甚八のクローンの製造にも、反対の意見だった。
「もう一度、蘇らせて、また死ぬまで戦いを続けさせようというの? それって、残酷」
「でも、剣闘士という職業は、彼の選んだことだから」
「じゃあ、もし、クローンの桑田甚八が、剣闘士になることを拒否したらどうするの? それでも、再生をする価値があると思う?」
「それは、……どうだろう? わからないけど」
 剣闘士でない桑田甚八が再生されたとしても、それは、ファンにとって、あまり意味の無いことかもしれない。
 桑田甚八をクローン再生する目的は、もう一度、戦う姿が見たいためである。

 原田満少年も、当然、桑田甚八のクローンが生まれることを望んだ。
 彼の場合は、子供なので、単純である。
 好きな人に、もう一度、蘇って欲しい。
 それだけの感情である。

 桑田甚八の事故死から半年後。
 ついに、桑田甚八のクローンを製造することが決まった。
 最終的な判断は、剣闘士の戦いを主催する協会が、行ったらしい。
 反対意見は、マスコミの中でしばらく続いたが、それも次第に収束する。
 クローンの誕生は、それから一年後のことだった。
 日本で初めての、クローン人間の誕生である。

 クローンは、剣闘士の養成所で、育てられることになった。
 協会は、そのクローンを、完全な剣闘士として育て上げることを目的にした。
 物心が付いた頃から、剣闘士としての訓練を受けることになる。
 もともと、剣闘士としての抜群の素養を持った桑田甚八だったが、そのクローンが、幼い頃から英才教育を受けることで、どういう剣闘士に成長するのか、協会も世間も注目することになる。


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