直人との交際を始めてから、半年が経つ。 交際は順調で、何の問題も無い。 直人と、結婚をしたいと、強く思うようになって行った。 しかし、自分から、それを言い出すことはできなかった。 直人の本心がどこにあるのか、香澄は、つかみかねている。 そんな時である。 見覚えのある女性が、店にハンバーガーを買いに来た。 「若田さん?」 と、香澄は、思わず声をかけた。 「はい、そうですけど」 「私、清水だけど、覚えているかな。高校の時に、同じクラスだった」 「ああ、清水さん。覚えているわよ」 「高校を卒業してから、どうしていたの?」 「大阪の大学に行って、そのまま、大阪で就職をして、大阪で、今、生活をしているの」 「今は、実家に帰っているというわけ?」 「ちょっと、会社を休んで、帰って来ているのよ。用事があって」 「そうなの」 用事が何なのか、香澄は聞かなかった。 もしかすると、渡辺直人に関することかと、香澄は察する。 由紀子もまた、時々、店に姿を現すようになった。 その内に、由紀子と直人が店で顔を合わせるのは、時間の問題だろうと思う。 このまま、黙っておくのも具合が悪い。 香澄は考えた末に、直人に話すことにした。 「若田さんが、最近、時々、お店に来るわよ。今、こっちに居るらしい」 「うん。知っている」 「知っているの? もしかして、どこかで会ったりしているの?」 「うん、まあ」 会っているのか、と、香澄は思った。 まだ、直人は、由紀子に未練があるのだろうかと思う。 「若田さんのこと、まだ好きなの?」 「好きだよ。嫌いには、なれない」 「私と、若田さんとだったら、どっちを選ぶ?」 「それは、若田さんとは、もう別れた後だから」 「よりを戻すつもりはないの?」 「それは、無い。安心してくれて、いいよ」 「そもそも、別れた理由は、何?」 「若田さんにとって、僕よりもふさわしい人が現れた。そういう訳だよ」 「要するに、若田さんに、他に好きな人が出来たというわけ」 「そういう事になる。簡単に言うと」 直人は、まだ、由紀子に未練がある。 それは、香澄にとっては、気持ちのいいことではない。 このまま、由紀子のことは考えず、直人と付き合って行くことは出来る。 直人もまた、よりを戻すつもりは無いという言葉は、本心だろう。 しかし、……。
香澄はしばらく考えて、決心をした。 直人の本当の気持ちを、確かめなければならない。 「恋愛が絶対に成就するという神社があるんだけど、行ってみない?」 「神社? 何で?」 「もし、若田さんと、よりを戻す気があるのなら、最後のチャンスよ」 「……、いいよ。若田さんのことは、気にするな。もう、会わないようにするし、話もしないようにする。それで、いいか?」 「よくない。渡辺くんの、心の中に、彼女が居る限りは」 「じゃあ、どうしろと言うの」 「一度、距離を置きましょう。それで、本当に私のことを好きになってくれたら、もう一度、今度は、渡辺くんの方から、告白をして。待っているから」 香澄はそう言って、一度、直人と別れることにした。 これからが、あの神社の本当の力が試されるところだろうと思った。 もちろん、香澄は待つつもりである。 もう一度、あの神社の力を信じてみようと思った。
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