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作品名:恋愛成就祈願 作者:三日月

第2回   2
 それから三週間が経った時、まるで嘘のような奇跡が起こった。
 いつものように、お店でアルバイトをしていると、見覚えのある男が、店の中に入って来る。
 それが、渡辺直人だった。
 高校を卒業して以来、一度も会っていないが、間違いない。
 もしかして、あの神社の御利益か、と、思ったが、そう考えるのは、まだ早い。
 ほんの、偶然に過ぎないのかもしれないと思う。
 直人が、自分に気がついた。
 それだけでも、嬉しいものである。
「あれ? 清水さん?」
「うん。渡辺くん、だよね」
「ここで、働いているの?」
「うん、アルバイトだけど」
「僕も、しばらく実家に居るから、時々、買いに来るよ。ハンバーガーとポテト。それとコーラを」
「はい。ありがとうございます」
 渡辺直人は、高校を卒業後、関西の大学に進学をしていた。
 今は、どこに住んでいるのか。
 恋人はいるのか。
 何の仕事をしているのか。
 聞きたいことは色々あったが、仕事中なので、話をしている余裕はない。
 しかし、それから、ほぼ毎日、直人は店にハンバーガーを買いに来た。
 時折、話をする暇を見つけて、香澄は直人と話をした。
「仕事は、何をしているの?」
「今は、何もしていない。とりあえず、無職」
「これまでは、何をしていたの?」
「車の営業をしていた。ホンダの車」
「へえ、そうなの」
「でも、次は、違う職種に就きたいと思っている。もう少ししたら、就職活動を始めるつもり」
 肝心な事を聞かなければと思いながら、香澄は、なかなか切り出せずにいた。
 そのうちに、夏美が、香澄に聞いた。
「いつも話をしている男の人は、誰なの?」
「あの人が渡辺直人くんよ。近藤さんの言った通り、あの神社の御利益かも」
「本当に? これはチャンスじゃない」
「どうしようかと、今、考えているところなのよ。まさか、本当に会えるとは思っていなかったから」
「頑張って。今の清水さんには、神様がついているんだから」
 夏美の言う通り、今の自分には、神様がついている。
 香澄はそう信じることにした。
 翌日、また直人が店に来る。
 香澄は、思い切って、勇気を出した。
「渡辺くん、今、誰か、恋人は居るの?」
「今? 今は、いないよ」
 チャンスだ、と、香澄は思う。
「私と、付き合わない? こんな話をするのは、二度目よね」
「そうだね。覚えているよ」
「あの時は、他に好きな人が居るという話だったけど、今は、どう?」
「うん、そうだな。ちょっと、考えさせて」
 脈は、ありか、なしか。
 香澄は、察しかねた。
 直人は、いつものようにハンバーガーを持って帰って行く。
 それから、香澄の胸は、期待と不安で高まった。
 その日の夜、直人から電話がある。
「昼間の返事だけど」
「うん」
「付き合ってみようか。僕たち」
「本当に、いいの?」
「清水さんが、良ければ」
「もちろん、良いに決まっているわよ。じゃあ、これから、渡辺くんのことを彼氏だと思ってもいいのね」
「そういうこと。これから、よろしく」
「こちらこそ」
 香澄は、嬉しさで、飛び上がりそうになる。
 夢が叶った。
 あの神社は、本物だった。

 その翌日、香澄は、さっそく、夏美に感謝をする。
「ありがとう。願いが叶った」
「本当に? 渡辺さんと、付き合うことが出来たの?」
「あの神社は、本当に願いが叶うのね」
「そうみたいね。私も、半信半疑だったけど」
 夏美も、内心ではそうだったらしい。
 直人は、就職活動を始める。
 地元で仕事を見つけ、地元で生活をするつもりだと直人は言った。
 香澄にとっては、嬉しいことである。
 将来は、一緒に暮らすことを、想像してみたりする。
 もちろん、そこまで具体的なことを話すつもりは、今は無い。
 交際は、順調に進んだ。
 思った通り、二人の相性は、ぴったりである。
 香澄は、直人に、もう一つ、聞きたいことがあった。
 それは、昔、直人が好きだと言っていた女性のことである。
 その女性は、誰なのか。
 そして、その女性とは、どうなったのか。
 恋人の昔の彼女のことを詮索するのは、みっともない事かと思う。
 しかし、その興味は、抑え切れない。
「昔、私の告白を断わった時に、好きな人が居ると言ったわよね。それって、誰なの?」
「話してなかった? 若田由紀子。知っていると思うけど」
 若田由紀子のことは、よく知っていた。
 高校三年生の時には、同じクラスであった。
 その時は、全く、意識していなかったので、話をしたことはあまりない。
「その若田さんとは、付き合っていたの?」
「うん。少し前まで」
「どうして、別れたの?」
「それは、まあ、いいじゃないか」
 直人は、はっきりとした理由は、話さなかった。
 知りたいと思ったが、それ以上、詮索をするのも、無理なように思えた。


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