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作品名:秘めた力 作者:三日月

第7回   7
 四郎のところに、大学時代の親友である藤田智弘から連絡があった。
 結婚をするので、結婚式に出席をして欲しいということである。
 智弘は、今、実家のある新潟に住んでいた。
 結婚式も新潟にあるホテルで行うということなので、四郎は研究所に休みをもらい、新潟に向かうことにした。
「正式なものではないから、普段着で来ればいいよ」
 と、智弘が言うので、四郎は、その通りの格好で出かける。
 電車に乗り、窓から外を眺める。
 電車は、長野県を通過した。
 少し気にはなったが、長野に留まることはないので、今は関係ないだろうと思う。
 新潟の駅に到着し、駅を出ると、智弘が待っていた。
 結婚式は明日である。
 四郎は、智弘の家に泊めてもらうことになっていた。
 駅の近くの駐車場に、智弘は車を置いていた。
 智弘の結婚相手は、高校生の時から付き合っていた地元の女の子だという。
 これまでも話には聞いたことがあるが、実際に会ったことはない。
「青野は、まだ結婚の話はないのか」
 智弘は言う。
「俺には、まだ」
 四郎は答える。
 もし、結婚を考えるような相手が出来れば、自分の超能力に関して、話をするべきだろうか。
 もし子供が出来たとすれば、自分の超能力は遺伝をしたりするのだろうかと考えてみたりする。
「家までは、車で十五分ほどだよ」
 智弘は、車を走らせる。
 が、ある交差点にさしかかったところ、対向車が、突然、ウインカーも出さずに右折をした。
「危ない!」
 と、智弘は急ブレーキを踏む。
 しかし、停止は間に合わず、二台の車が衝突をした衝撃が体に伝わった。

 四郎は、一瞬、意識を失った。
 が、意識を取り戻した時、四郎は知らない場所にいた。
 山の中である。
 麓には、住宅地が見えていた。
 四郎は山を降りる。
「まさか、瞬間移動?」
 四郎は思った。
 自分に、そのような能力があるとは、想像したこともなかった。
 とりあえず、この町がどこか、確認しなければならない。
 町の中を歩いて、商店を見つける。
 酒屋のようで、四郎はその店に入った。
「こんにちは」
 と、声をかけると、若い女性が出て来た。
「おかしなことを聞きますが、ここはどこですか?」
「どこ?」
「町の場所です。何県の何町」
「長野県板井市春名というところだけど」
「春名!」
 四郎は驚く。
 ここは夢の中で見た場所だと特定された場所である。
 もしかすると、夢で見た景色が、近くのどこかにあるかもしれない。
 そして、そこで、自分は誰かに刺されることになる。
 本当だろうか、と、四郎はまだ半信半疑だった。
 その場所を探すべきかどうか考える。
 しかし、探さなくても、自分はそこに導かれるだろうと、四郎は思った。

 四郎は酒屋の女性に、最寄りの駅までの道を聞いた。
 四郎は、酒屋を出て歩き出す。
 もしかすると、駅に向かう道の途中に、あの景色があるのかもしれない。
 道の角を曲がるたびに、四郎はそれを確認した。
 そして……。
 五つ目の角を曲がった時、その景色が目の前に現れた。
 夢の中の景色である。
 男が、正面から四郎に向かって歩いて来る。
 夢の中の男。
 手には刃物を握っている。
 四郎は、男を避けることができなかった。
 夢の通り、男は四郎の腹部を、手の中の刃物で一突きにした。
 四郎はその場に倒れる。
 夢の通り、そのまま意識を失って行った。
「やっぱり、遅かった」
 消えて行く意識の中で、女性の声が聞こえた。
 そして、足元が顔の前に見える。
 四郎はその足に手を伸ばそうとしたが、届く前に動けなくなる。
 自分はこのまま死ぬのだろうかと、四郎は思った。


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