四郎のところに、大学時代の親友である藤田智弘から連絡があった。 結婚をするので、結婚式に出席をして欲しいということである。 智弘は、今、実家のある新潟に住んでいた。 結婚式も新潟にあるホテルで行うということなので、四郎は研究所に休みをもらい、新潟に向かうことにした。 「正式なものではないから、普段着で来ればいいよ」 と、智弘が言うので、四郎は、その通りの格好で出かける。 電車に乗り、窓から外を眺める。 電車は、長野県を通過した。 少し気にはなったが、長野に留まることはないので、今は関係ないだろうと思う。 新潟の駅に到着し、駅を出ると、智弘が待っていた。 結婚式は明日である。 四郎は、智弘の家に泊めてもらうことになっていた。 駅の近くの駐車場に、智弘は車を置いていた。 智弘の結婚相手は、高校生の時から付き合っていた地元の女の子だという。 これまでも話には聞いたことがあるが、実際に会ったことはない。 「青野は、まだ結婚の話はないのか」 智弘は言う。 「俺には、まだ」 四郎は答える。 もし、結婚を考えるような相手が出来れば、自分の超能力に関して、話をするべきだろうか。 もし子供が出来たとすれば、自分の超能力は遺伝をしたりするのだろうかと考えてみたりする。 「家までは、車で十五分ほどだよ」 智弘は、車を走らせる。 が、ある交差点にさしかかったところ、対向車が、突然、ウインカーも出さずに右折をした。 「危ない!」 と、智弘は急ブレーキを踏む。 しかし、停止は間に合わず、二台の車が衝突をした衝撃が体に伝わった。
四郎は、一瞬、意識を失った。 が、意識を取り戻した時、四郎は知らない場所にいた。 山の中である。 麓には、住宅地が見えていた。 四郎は山を降りる。 「まさか、瞬間移動?」 四郎は思った。 自分に、そのような能力があるとは、想像したこともなかった。 とりあえず、この町がどこか、確認しなければならない。 町の中を歩いて、商店を見つける。 酒屋のようで、四郎はその店に入った。 「こんにちは」 と、声をかけると、若い女性が出て来た。 「おかしなことを聞きますが、ここはどこですか?」 「どこ?」 「町の場所です。何県の何町」 「長野県板井市春名というところだけど」 「春名!」 四郎は驚く。 ここは夢の中で見た場所だと特定された場所である。 もしかすると、夢で見た景色が、近くのどこかにあるかもしれない。 そして、そこで、自分は誰かに刺されることになる。 本当だろうか、と、四郎はまだ半信半疑だった。 その場所を探すべきかどうか考える。 しかし、探さなくても、自分はそこに導かれるだろうと、四郎は思った。
四郎は酒屋の女性に、最寄りの駅までの道を聞いた。 四郎は、酒屋を出て歩き出す。 もしかすると、駅に向かう道の途中に、あの景色があるのかもしれない。 道の角を曲がるたびに、四郎はそれを確認した。 そして……。 五つ目の角を曲がった時、その景色が目の前に現れた。 夢の中の景色である。 男が、正面から四郎に向かって歩いて来る。 夢の中の男。 手には刃物を握っている。 四郎は、男を避けることができなかった。 夢の通り、男は四郎の腹部を、手の中の刃物で一突きにした。 四郎はその場に倒れる。 夢の通り、そのまま意識を失って行った。 「やっぱり、遅かった」 消えて行く意識の中で、女性の声が聞こえた。 そして、足元が顔の前に見える。 四郎はその足に手を伸ばそうとしたが、届く前に動けなくなる。 自分はこのまま死ぬのだろうかと、四郎は思った。
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