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作品名:秘めた力 作者:三日月

第2回   2
 青野四郎は、ある研究所で仕事をしていた。
 そこは、人間の超能力を研究しているところで、今も、五人の超能力者が、その研究所に所属していた。
 四郎が、その研究室に入ることになったきっかけは、四郎自身に超能力があったからであった。
 四郎の持っていた超能力とは、予知である。
 子供の頃に、何度か、四郎は予知能力を発揮した。
 それは、小学校の四年生の時である。
 四郎は、旅客機が墜落をするイメージを目の前に見た。
 初めは、自分に何が起こったのかよくわからなかったが、実際に旅客機が北海道の山中に墜落したのは、それから三日後の事だった。
 四郎は、自分の見たイメージが、その事故と同一だという事に、直感的に気がついた。
 四郎の予知は、それから中学三年の頃まで続いた。
 社会的に大きな事件から、身近な小さな出来事まで、時折、四郎の目の前にイメージが現れる。
 それが外れた事は一度も無かった。
 四郎は、その予知能力の事を誰にも話さなかった。
 自分に対する恐怖があったためである。
 そんな時、四郎は超常現象を特集したある雑誌を読んでいて「浜中人材能力研究所」の事を知った。
 超能力に関する事ならば、何でも情報を送って欲しいと、その雑誌に載っていた。
 四郎は、そこに手紙を送った。
 返事は、すぐに返って来た。
「一度、お話がしたいので、この名刺を持って、研究所に来てもらえませんか」
 手紙と一緒に名刺が入っていた。
「浜中人材研究所所長・浜中義男」
 と、その名刺には書かれていた。
 しかし、研究所は山梨にあり、島根に住んでいる四郎には遠すぎた。
 その内に、行く機会があるかもしれないと、名刺と手紙は大切に持っていたが、肝心の予知能力が、中学三年を最後に、消えてしまったようだった。
 四郎は、そのまま、中学を卒業。
 高校三年間も何事も無く過ぎ、四郎は東京の大学に進学をする。
 東京の大学を進学先に選んだのは、その研究所がある山梨に近いという事もあった。
 大学一年の夏休みに、四郎はさっそく、その研究所を訪ねてみる。
 住所を頼りに道を進むと、その研究所は、富士山の見える静かな場所に建っていた。
 広い庭があり、白くて大きな建物である。
 一見、病院のようにも見えた。
「浜中人材能力研究所」
 という看板も、入口のところに出ていた。
 四郎は、建物の中に入る。
 廊下に人気がなかったので、
「こんにちは」
 と、声をかけてみた。
 すると、手前の部屋から、一人の女性が出て来た。
 四郎は、その女性に事情を話し、手紙と名刺を渡した。
 女性はその手紙と名刺に目を通すと、すぐに一人の男を呼んで来た。
 メガネをかけた、小柄な男である。
「所長の浜中です。君が青野四郎くんだね」
「はい」
「事情は、聞いたよ。予知能力は、今は無いみたいだね」
「はい。中学三年の時に見たのが最後です」
「ちなみに、それはどういう予知でしたか」
「高校の合格発表を見に行ったという予知でした。予知の通り、合格をしていました。受験番号も同じです」
「なるほど。確かに、予知能力は存在したというわけか」
「僕の予知能力は、もうなくなってしまったのでしょうか」
「それは、わからない。超能力に関しては、まだまだ、わからない事が多いから」
 四郎は、研究所の中を案内された。
 今は、三人の超能力者が、この研究所で様々な研究を受けているということである。
 自分の他にも超能力者がいるという事を知り、少し、安心した。
 自分だけが異常だという訳ではないようである。
「よかったら、時々、遊びに来なさい。そのうち、君の超能力も、また目覚めるかもしれない」
 それから、四郎は時々、その研究所に足を運ぶようになった。
 当時、その研究所にいた三人の超能力者とも、話をする機会を得た。
 北島隼人、二十五歳。
 彼は、念動力を持っていた。
 力はそれほど強いものではなく、軽い物が、わずかに動かせる程度だった。
 しかし、彼の超能力は、トリックではなく、紛れもない本物だった。
 四郎も、目の前でそれを見た。
 二人目は、早川美香、二十二歳。
 彼女は、精神感応能力を持っていた。
 彼女の能力は、相手の心を読むという明確なものではなく、相手の精神状態を察することが出来るという程度の、漠然としたものだった。
 しかし、彼女の能力もまた確かなもので、四郎も、彼女に対面をした時にそう思った。
 彼女は、四郎の精神状態を、正確に読み取った。
 四郎は、その彼女の能力に感心した。
 三人目は、坂本卓也、十八歳。
 彼の力は、透視能力である。
 彼の力は明確だった。
 目隠しをして物を読んだり、隠された物の中身を読みとったりする。
 さらには、遠隔地の物まで、透視してみせた。
 しかし、その能力には波があるようで、その強弱は、自分で確かなコントロールは出来ないようだった。
 調子のいい時は、それほど多くはない。
 しかし、調子の良くない時でも、それなりに透視をしてみせた。
 四郎は、また、その能力にも感心した。
 彼らを研究しているスタッフは五人いる。
 専門的な事は何もわからないので、四郎は、彼らが何をしているのか知らない。
 四郎も、彼らスタッフから、簡単な検査を受けた。
 心理テストのようなものや、精神分析のようなもの。
 それが、何の役に立つのかわからないが、とりあえず、データーの収集に利用されるようだった。
 大学四年の時、
「よかったら、この研究所で仕事をしないか」
 と、四郎は、浜中所長に誘われた。
「給料は、大卒に見合うだけ、十分に出す。とりあえず、雑用をして欲しい」
 四郎は、迷う事なく、この研究所に就職を決めた。
 大学を卒業後、山梨の研究所の近くの借家に引っ越しをする。
 平屋の一軒家で、小さな庭もついていた。
 住むには、快適な家だった。


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