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作品名:裏目 作者:三日月

第3回   3
 最後に清水絵里である。
 清水絵里は、市外の会社に勤めているOLである。
 彼女は、マンションで一人暮らしをしていた。
 帰宅をするまで待つしかないだろうと思う。
 大橋は、マンションの前に車を止めた。
 帰宅は、おそらく夜になるだろう。
 しばらく、時間を潰さなければならない。
 清水絵里の部屋は、三階にある。
 三階に登る階段は、マンションの西の端にあった。
 大橋は車の中から、その階段の方を見る。
 午後の五時を回り、日が暮れ始めた。
 会社が五時に終わるのだとすれば、あと三十分もすれば、帰って来るかもしれない。
 車の中で待っていると、やはり会社帰りと思われる人たちが、順次、マンションに帰って来ていた。
 その人たちは、それぞれ、階段をのぼって、自分の部屋に帰って行く。
 大橋は、清水絵里の顔を知らない。
 三階の右から二番目にある彼女の部屋に、女性が帰るのを見届ければ、彼女がそうなのだろうと見当をつけることができる。
 五時三十分を過ぎた頃、一人の若い男が、自転車でマンションに来て、階段のところに立ち止まった。
 その階段を登るでもなく、周辺をうろうろとしている。
 何をしているのだろう、と、大橋は思った。
 誰かを待っているのだろうかと思う。
 六時が近づいた頃、一台の軽自動車がマンションの駐車場に入って来た。
 その車から降りたのは若い女性で、もしかすると、彼女が清水絵里ではないかと大橋は思った。
 女性は階段の方に歩いて行く。
 すると、その女性の前に、先ほどの男が立ちふさがった。
 女性と男は、何か口論を始めた。
 これは、何か起こったかと、大橋は車を降りた。
「ちょっと、そこの二人」
 大橋は、声をかける。
 二人は口論を止め、大橋を見た。
 大橋は、女性の方を見る。
「もしかして、清水絵里さんですか」
「そうですけど」
 絵里は、怪訝な顔をした。
「ご安心ください。私は警察の者です。こちらの男の方は」
「ストーカーです。つきまとわれて、困っています」
 大橋は、男を見る。
「君の名前は」
「中原です」
「なぜ、彼女につきまとう?」
「好きだからです。毎日、彼女の顔が見たいし、声が聞きたい」
「彼女が迷惑を感じているのが、わからないのか。このようなことをしていても、嫌われるばかりだぞ」
「違います。彼女は僕を、好きでいてくれるはずです」
「なぜ、そう思う?」
「僕がこれだけ、彼女に尽くしているのですから、きっと、彼女は、僕を好きになります」
「尽くしているって? 君は、相手の気持ちがわからないのか」
「わかります。ですから……」
 男の思考は、歪んでいる。
 それが、ストーカーの特徴というものか。
「彼女からは、警察に被害届が出ている。これ以上、彼女につきまとうなら、逮捕することもできる」
「被害届? なぜですか」
「彼女が君のことを迷惑に感じているからだ。好きなら、相手のことも考えろ」
 男の表情が、変わった気がした。
 何を思ったのか、男は無言で、その場を自転車に乗って立ち去った。
「警察の方、もしかして、刑事の大橋さんですか」
 絵里が言った。
「そうですけど、何で」
「私の友達が、彼氏の友達に刑事がいるから、話してみると言ってくれたので。でも、駄目だったって聞いていたから不安でしたけど、来てくれて嬉しいです」
 この清水絵里がそうだったのかと大橋は思う。
「男は、いつもここで待ち伏せをしているのですか」
「はい。ほぼ、毎日です」
「何か、危害を加えられるということは」
「いいえ。それは、まだ何も」
「何にしろ、やはり、強制的に引き離す手段が必要な気がしますね」
「そのようなことが、できるのですか」
「裁判所で許可をもらうことができます。その許可があれば、あの男を逮捕することもできます」
「それでは、お願いします。ぜひ、そうしてください」
「わかりました。では、手続きを取りましょう。数日、待っていてください。それと、弁護士に相談をするのも一計でしょう。裁判所の手続きも、それで早く進むと思います」
「弁護士ですか。何とか、してみます」
 その日はそれで、大橋は清水絵里と別れる。
 これで、一通りの仕事は済んだ気がした。
 中村が言っていた相手にも会うことが出来たし、一応、ストーカー被害の歯止めにはなったかと思う。


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