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作品名:裏目 作者:三日月

第2回   2
 大橋は、三人の被害者の家に連絡を取った。
 被害者の名前は、清水絵里、伏見小枝子、金山小百合の三人である。
 それぞれに連絡を取り、話を聞くことにした。
 とりあえず、伏見小枝子は家に居た。
 彼女は、家事手伝いということである。
 大橋は、すぐに彼女の家に向かった。
 伏見小枝子の家は、市内西側の郊外にあった。
 大橋は家の前に車を止める。
 家では、小枝子と母親が待っていた。
「さっそくですが、ストーカー被害について話を伺いたいと思います」
 大橋が言う。
「毎日のように、つきまとわれています。どこからともなく、私を見ているようです」
 小枝子は言った。
「相手が誰か、わかっているのですか」
「はい。以前、同じお店でアルバイトをしていた仲間でした。太田敦という男です」
「相手の住んでいる場所はわかりますか」
「いいえ。私は知りません」
「良ければ、私が一度、相手の男に会って話をしてみましょうか」
「はい。ぜひ、お願いします」
 大橋は、小枝子と、その男がアルバイトをしていた店の場所を聞く。
 手帳にそれをメモして、すぐにその店のある場所に向かった。
 店というのは、ファーストフード店だった。
 大橋は店長に話を聞く。
 太田敦の履歴書が、まだ店に残っていた。
 そこから、住所はすぐにわかった。
「現在は、ここでアルバイトはしていないのですね」
「はい。二か月ほど前に辞めました」
「今は、どこで、何をしているのでしょう」
「それは、私には、わかりませんが。岸本なら知っているかも」
 店長は、岸本という店員を呼んだ。
 太田敦とは、店で仲良くしていたらしい。
 岸本は部屋に入ると、店長と大橋に向かって一礼をした。
「岸本です。何でも、聞いてください」
 店長は、大橋に言った。
「太田敦とは、親しかったのですか」
「はい。結構、親しくしていました」
「ここでのアルバイトを辞めた後、太田がどこで何をしているのか、知りませんか」
「この間から、コンビニで深夜のアルバイトを始めたと聞いています。今は、部屋で寝ているのではないでしょうか」
「そうですか。ありがとう」
 大橋は、店長と岸本に礼を言って店を出た。
 履歴書の住所にあった、太田敦の部屋に向かう。

 太田敦は、アパートに住んでいる。
 外観は、築数十年といったところの、古いアパートである。
 太田敦の部屋は二階の隅だった。
 ドアをノックしてみるが、返事がない。
 居るのか、居ないのか。
 とりあえず、ドアをノックし続けた。
 十五分ほど、それを続けたところで、ようやく、中から男が出て来た。
「誰」
 と、男は、眠くて、だるそうな顔と声で言った。
「太田敦だな。話がある」
「何だ。お前は」
 大橋は警察手帳を、太田に見せた。
 太田の表情が、一瞬、変わる。
「伏見小枝子という女性を知っているな」
「それが、どうかしましたか」
「これ以上、彼女につきまとうようなら、君を逮捕する。それを伝えに来た」
「……」
「心しておけよ。ストーカーは、犯罪だぞ。すぐに警察は動く。これ以上、彼女に何かあれば、俺はお前を捕まえるからな」
 大橋は、太田に釘を刺しておく。
 どこまで効果があるかはわからないが、何もしていないよりはいいだろう。

 清水絵里と金山小百合の二人は、仕事をしている。
 日中は、家にはいないはずである。
 書類を見ると、彼女たち二人の勤め先も書いてあった。
 仕事場に行って話を聞いてみるのもいいが、相手の迷惑にならないだろうかと思う。
 しかし、大橋には、あまり時間がない。
 金山小百合は、市内のスーパーマーケットで働いているようだった。
 大橋は車を走らせて、そのスーパーに向かった。
 数年前に出来た大型スーパーで、客の数はいつも多い。
 大橋は車を駐車場に置くと、店の中に入り、店員に声をかけた。
「金山小百合という人が、ここで働いていると思うのですが」
「あなたは、誰ですか」
「警察です」
 と、大橋は警察手帳を見せる。
 店員は慌てて、どこかに走って行った。
 しばらく待っていると、その店員が、責任者を連れて帰って来る。
「警察の方が、金山さんに、何の用ですか」
 責任者が言う。
「少し、話を聞きたいことがありまして。大したことではないのです」
 責任者は大橋を事務所の横の応接室に通す。
 店員がそこに金山小百合を連れて来た。
 大橋は、金山小百合と二人だけにしてもらうよう、責任者に頼む。
 責任者と店員は、部屋を出た。
 大橋は、改めて金山小百合と話した。
「高山南署の大橋と言います。金山さんが届を出しているストーカーの件で、話を伺いに来ました」
「はい」
「被害はまだ、続いていますか」
「はい。今も、この店に来ています」
「相手の男が、ですか」
「はい。落ち着いて、仕事も出来ません」
「何か、危害を加えられるということは」
「それは、今のところありませんが、これから先も、不安です」
「相手は、どのような男ですか」
「実は、三か月前まで交際をしていた元彼氏です。恋人関係は解消したのですが、それ以来つきまとわれています」
「なるほど。そういうことですか」
 ストーカーが、知り合いであるという場合は、結構、多いらしい。
 伏見小枝子の場合も、そうだった。
「私の方から、何か忠告をしておきましょうか」
「お願いします」
 大橋は、金山小百合と部屋を出て、男のいる場所に案内をしてもらう。
「男の名前は」
「藤島尚吾といいます」
 男は、階段脇のベンチに座っていた。
 何をするでもなく、ぼんやりとしているようだった。
「藤島くんだな」
 大橋は声をかけた。
 藤島は、座ったままで、大橋の顔を見る。
「金山小百合さんに、つきまとっているようだが」
「つきまとう? 言葉が悪いですね。僕は、彼女を見守っているだけです」
「つきまといは、犯罪だぞ。君を逮捕することもできる」
 大橋は、警察手帳を見せた。
 藤島は、あまり表情には変化を見せない。
「万が一、彼女に危害を加えるようなことがあれば、俺が逮捕する。わかったな」
 藤島は返事をしない。
 ふてぶてしい男である。
 警察を眼中に置いていないということは、かなり危険度も高い気がした。
 しかし、これ以上、強硬な手段に出るわけにも行かない。
「裁判所で、ストーカー規制の許可をもらいましょう。ストーカーを強制的に引き離すことができますよ。もし、それに違反をすれば、即逮捕することもできますし」
 大橋は、小百合に言った。
 とりあえず、効果があるのはそれしかないと思った。


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