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作品名:休日 作者:三日月

最終回   恋人を紹介します。
 大橋が病院を退院した。
 大橋は刑事をしていて、犯人に接触をした時に、腹部を刃物で刺されたのだった。
 一時は、生死の境をさ迷ったらしい。
 しかし、無事に退院をして、今日は一緒に夕食を食べる約束をしていた。

 大橋は、焼き肉が好物だった。
 近くには、よく食べに行く焼き肉のバイキングの店がある。
 食べ放題なので、大橋はいつもそこで、延々と肉を食べ続けた。
「休みは、いつまでだ」
「とりあえず、三日。ここ一か月は、ほとんど不眠不休で働いたようなものだから」
「火曜日、水曜日、木曜日か。平日だから、僕は仕事だ」
「明日も、一緒に晩飯を食べるか」
「いいけど、また、焼き肉か」
「いや、明日は、ラーメンでも」
 大橋は、ラーメンも好物だった。
 昔はよく一緒に、ラーメンも食べに行ったものである。

 翌日、僕は朝から仕事である。
 会社勤めも楽ではない。
 それほど大きな会社ではないので、仕事は結構、忙しいが、給料はそれほど高くない。
 恋人の矢口瞳とは結婚を前提にした交際をしているが、共働きでもしないと、生活は楽ではないだろう。
 瞳は以前、僕の会社に事務のアルバイトに来ていた女性である。
 年齢は、二十八。
 かわいらしくて明るい女性で、僕は一目惚れをした。
 何度も交際を申し込み、やっとの思いで、付き合うことが出来たのである。
 交際期間はまだ一年と半年だが、僕は早くから結婚を意識していた。
 瞳の方に、その意識があるのかどうか不安だったが、三か月前に、ようやくそれを確かめることが出来た。
 彼女も同じ気持ちだと知った時、嬉しくて、飛び上がりそうになったものである。
 瞳は、今は、弁当屋でパート従業員をしていた。
 やはり、事務の仕事よりも接客の方が自分には向いていると彼女は言っていた。

 僕は毎日、仕事を終えると彼女に連絡を取る。
 しばらく電話で話をすることが、二人の日課になっていた。
 その日も、仕事が終わると、さっそく瞳のところに電話を入れる。
 弁当屋でのパートは午後の五時に終わるので、瞳はそれから家に帰り、自分の部屋で電話を取っているはずだった。
「今日も、大橋と夕食を食べに行く約束になっているから」
 僕は瞳に言った。
 瞳には大橋のことは話してあるが、まだ、会わせたことはない。
「仲がいいのね。一度、紹介をしてくれればいいのに」
「それは、構わないけど」
 そろそろ、一度は会わせた方がいいのかと思っていた。
 結婚をする相手なので、一度、正式に紹介をしなければならない。
「じゃあ、後で迎えに行く。家で待っていてくれ」
 僕はそう言って、電話を切った。
 しばらく用意を整え、僕は車に乗って、瞳の家に向かった。

 瞳を車に乗せ、僕は大橋と待ち合わせをしているラーメン屋に向かった。
 そこは人気のラーメン屋で、食事時には、結構、客が多い。
 駐車場に車を置いて、店の中に入った。
 広い店内には、大勢の客がいる。
 大橋が先に来ているはずなので、僕は、大橋の姿を探す。
 店内の奥のテーブルに、大橋は一人で座っていた。
「やあ、遅くなった」
 僕はそう言いながら、テーブルに座る。
 大橋は瞳を見て、驚いていた。
「一度、紹介をしておこうと思って。僕の彼女の矢口瞳だ」
「ああ、君が」
 大橋は、瞳に頭を下げる。
「矢口です。よろしく」
 瞳はそう言いながら、僕の隣に座った。
 店員が水を持ってきて、僕たちはラーメンを注文した。
 この店は、ラーメンが出て来るのが結構、早く、すぐに店員がテーブルに持ってきてくれた。
 僕たちは、食べながら話をした。
「大橋さんは、刑事をしているのですよね」
 矢口は、興味深く、大橋に聞く。
「そうだけど。中村に聞いたの」
「よく、話してくれますよ。刑事のお仕事は、大変ですか」
「大変といえば、大変だよ。この間は、死にかけたし」
「死にかけたというのは」
「犯人にお腹を刺されて、一昨日まで、入院をしていた。中村から聞いてない?」
「いいえ、何も」
 僕は、大橋が怪我をしたことは瞳には話していなかった。
 別に、話す必要もないだろうと思っていたからである。
「ニュースでも、報道されたらしいよ。知らなかった?」
「ああ、そういえば、警官が負傷をしたというニュースを聞いた気がします。大橋さんのことだったのですか」
「この町では、それほど凶悪な犯罪は滅多にないから、俺にとっては初めての経験で、色々と勉強になったよ」
「確か、殺人事件の犯人ですよね。この町で殺人事件なんて、私も初めて聞きました」
「あまり詳しいことは話せないけど……」
 大橋は、瞳とよく話をした。
 やはり、大橋も男である。
 女性と話をすることは、嬉しいことなのだろう。

 しばらくして、ラーメンをほとんど食べ終えた頃、瞳が大橋に言った。
「大橋さんは、恋人は」
「俺は、いない」
「どうして? 格好いいのに」
「仕事が仕事だから。女性との付き合いはなかなかできない」
「同業者で、いい人はいないのですか。婦人警官とか」
「うん。いい人はいるけど、なかなか難しいよ」
「じゃあ、片思いってわけですか」
「そういうところかな」
 大橋に好きな人がいるというのは、僕には初耳だった。
 そのうち、詳しく聞いてみようと、頭の中で思った。

 ラーメンを食べた後、しばらく町の繁華街を歩いて、いくつかの店を覗いて楽しんだ。
 午後の九時前に、僕と瞳は大橋と別れる。
 僕は瞳を車で家まで送った。
「どうだった」
 と、僕は瞳に大橋の印象を聞いてみる。
「なかなか、いい人みたいね。刑事と聞くと、納得が出来る感じ」
「厳しい職業らしいよ。今回は、死にかけたということだから」
「生きていて、良かったわね」
「そういうこと」
 僕は家の前で瞳を降ろす。
「寄っていけば」
 瞳は言ったが、僕は、今日は遠慮をしておくことにした。
 明日もまた仕事である。
 今日は早く寝ようと思った。



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