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作品名:美人の占い師 作者:三日月

最終回   2
 職場の同僚の中で、仲が良いのは田中政夫という男だった。
 年齢が近く、入社した時期も近い。
 昼食はいつも一緒に、会社の外で食べる。
 今日は、近くのうどん屋に入った。
「先週、美人の女を見つけたよ」
 隆司は言う。
 しかし、意外にも、政夫はそれに関心を示さなかった。
「それどころじゃない。今、ちょっと、大変で」
「何が」
「どうも、彼女が浮気をしているようだ」
「彼女? 岡島さんのことか」
 政夫の恋人は岡島恵子といった。
 隆司とはそれほど親しいわけではなかったが、何度か、会ったことがある。
「浮気って、証拠はあるのか」
「確かな証拠はないけど、どことなく、彼女の様子がおかしい。何か、隠し事をしているようだ」
「それだけで、浮気とは限らないだろう」
「それは、そうだけど」
「ちゃんと、確認してみたらどうだ」
「それができれば、苦労しない」
 政夫は悩んでいるようである。
 隆司はひらめいた。
「占い師に見てもらったらどうだ。紹介をしてやるよ」
「占い師? 信用できるのか」
「できると思うよ。どうする」
「行ってみようか」
 金曜日、仕事が終わると、隆司は政夫を連れて、繁華街に向かった。
 先週と同じ場所で、あの占い師を探す。
 占い師は、同じ場所で同じように、机を出して座っていた。
「こんばんは」
 と、声をかける。
「ああ、先週の」
 と、占い師は、隆司のことを覚えていた。
「今日は、友達を連れて来たので、見てやってください」
「いいですよ。どうぞ」
 占い師は政夫に椅子に座るように促した。
 政夫は、占い師に会釈をして、椅子に座る。
「何を占いましょうか」
「実は、僕の彼女のことで」
「彼女ですか。名前と生年月日を」
「岡島恵子。昭和五十八年五月七日生まれ」
「それと、あなたの名前と生年月日を」
「田中政夫。昭和五十七年九月二十日生まれです」
「なるほど。それで、占って欲しいないようを具体的にお願いします」
「実は、彼女が浮気をしているようなのです。それで、僕はこの先、どうすればいいのかと思いまして」
 占い師は、水晶玉を見つめている。
「その答えは、私が出さなければいけませんか」
「どういう意味です?」
「答えはもう、あなたの中では決まっているはずです」
 政夫は驚いた表情をする。
「それは、そうですが」
「あなたは、私が何と言おうと、彼女とよりを戻すつもりですね。ならば、私が何を言ったところで意味がないと思います」
「確かに、その通りです」
 政夫は、一礼をして立ち上がる。
「凄い占い師だな。僕の心を透視した」
「だろう。なかなかの占い師だ」
 隆司は言ったが、さすがに、そこまでは予想しなかった。
 政夫は、占いの料金千円を払う。
 政夫の顔は生き生きとしていた。
 占い師の言葉で、何かがふっきれたようである。
 それから数日後、政夫は恵子とよりを戻した。
 恵子が浮気をしていたというのは、どうも誤解だったらしい。
「あの占い師によろしく。お礼を言っておいてくれ」
 と、政夫は言う。

 次の金曜日、隆司はまた繁華街に行く。
 占い師は、またそこに居た。
「また、来たの」
「まあ、そう言わずに」
 隆司は、椅子に座る。
「先週の僕の友達が喜んでいましたよ。よりが戻せて、よかったって」
「そうですか。でも、それが良かったかどうかは、別の問題です」
「どういう意味ですか」
「あの二人は、強い運命で結ばれています。しかし、それが、いい運命だとは限りません」
「二人には、悪い運命が待っているということですか」
「そうですね。二人の将来には、破滅が待っています。しかし、二人を離れさせることは不可能でしょう。運命とは、そういうものです」
「なるほど」
 隆司は感心する。
 しかし、破滅とは、どういうことか。
「破滅というのは、具体的には?」
「そこまでは、今のところはわかりません。もう少し、先にならないと」
「その破滅を、食い止めることはできますか」
「それは無理でしょう。それが、二人の運命ですから」
 占い師は、あっさりとそう言った。
 先を見通すということは、冷徹な感情をもたらすのかもしれないと隆司は思った。


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