会社の忘年会の後、街の繁華街を歩いていると、明かりのついた街灯の下に、一人の女性を見つけた。 女性は小さな机に座っている。 机の上には、タロットと水晶玉が置かれていた。 占い師のようだということは、それを見た隆司はすぐにわかった。
隆司は人波の中で足を止め、その占い師の方を眺めた。 髪が長く、異国風の顔立ち。 結構な美人だった。 日本とどこかのハーフだろうと思った。
若い二人連れの女性が、占い師の前で占いを受けていた。 女性は占いを好むと聞いている。 隆司は、その二人の女性の後に立った。 占いよりも、占いをしているその女性の方に興味があった。
二人連れの女性は、占いに満足をして、帰って行った。 「どうぞ」 と、占い師に言われて、隆司は椅子に腰を下した。 「何を占いましょうか」 「そうですね。結婚とか」 「お名前と、生年月日を」 「高橋隆司、昭和五十六年十月七日生まれ」 「お相手の方の、名前と生年月日は」 「今、相手はいません」 「そうですか。では、何が知りたいのですか」 「ですから、誰と、いつ頃、結婚をするのかと」 「ずい分と、具体的なことを知りたがるのですね。知ってどうするのです?」 「どうするも何も、客の未来を占うのが、占い師の仕事ではないのですか」 「確かに、それはそうですが、知らない方がいいこともあります」 「僕が、いつ、誰と結婚をするのか、知らない方がいいと?」 「だって、楽しみがなくなるのではないですか? 先の幸福がわかってしまうと」 「では、僕は幸福になれるかどうか。それだけを占ってください」 「それはまた、漠然としていますね。幸福か不幸かは、主観的なものですから」 「それでは、あなたは、何を占ってくれるというのですか」 「希望があれば、何でも占います。今までは、私の個人的な意見ですから、気にしないでください。さて、何を占いますか」 占い師は、水晶玉を自分の正面に引き寄せる。 それで、隆司の将来を占うらしい。 隆司は改めて、何を占ってもらうのかを考える。 あまり軽々しいことを言うと、また何かを言い返されそうなので、今度は真剣に考えることにする。 「明日、宝くじを買おうと思っているのだけど、それが当たるかどうか、占うことはできますか」 「できますよ」 そう言うと、占い師は水晶玉に手をかざす。 しばらく、そのまま、水晶玉を眺めた。 そして、ゆっくりと手を机の上におろす。 「宝くじは、全て外れます。買わない方がいいでしょう」 「そうですか」 宝くじは、当たらないものと相場が決まっている。 占ってもらうまでもない。 「では、ロトの当たり番号はわかりませんか」 「そこまで、正確な予言は無理ですね。もし、それがわかるのなら、私が買いますよ」 占い師は、そう言って笑った。 確かに、その通りである。 「それから、もう一つ。また、あなたに会いたいと思いますが、これからも、僕は、あなたに会うことができるでしょうか」 「私は、毎週金曜日の夜に、ここに居ます。会いたくなれば、いつでも来てください」 「それから、お名前を聞かせてください」 「若村静香です。どうぞ、よろしく」 占いの料金は千円だというので、隆司は千円を払った。 隆司の後に占いの順番を待つ人がいたので、いつまでも、ここで話し込むわけにはいかなかった。
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