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作品名:煙草販売店 作者:三日月

最終回   3
 客の中には、老人もいた。
 痩せていて、割と身長は高い。
 服装は洒落ていて、なかなかスマートだった。
 若い頃は、格好が良くて、女性にもてたに違いない。
 老人は煙草を買うと喫煙室に入った。
 椅子に座って、煙草を吸う。
「君は、新しい人だね」
 老人が言った。
「はい。今月から、ここで働いています」
「君は、煙草は」
「僕は吸いません」
「そうか。吸わないのか」
「お客さんは、煙草は好きですか?」
「好きだね。最近のものは、昔よりも品質もいいし、味もいい」
「でも、半年後には、煙草の販売は禁止になります」
「そうだな。これも、時代の流れか」
「お客さん、煙草を吸っていても、健康に異常はないのですか」
「僕は老人だから、もちろん、体に悪いところは、いくつもあるよ。でも、それは煙草が原因というわけではない。いや、もしかすると、煙草が遠因になっているものもあるかもしれないが、もう、気にしてはいない。八十歳も生きれば、十分だ」
「八十歳ですか。まだまだ、元気そうですね」
「そうだな。年の割には、元気だろう」
 老人は、品良く、煙草を吸う。
 片岡も、一瞬、憧れる感じだった。
「こうやって見ていると、煙草を吸うのもいい感じですね」
「そうだろう。昔は、皆、煙草を吸ったものだけど、今は……」
「今は、どこも禁煙ですし、煙草を吸う人は、少数派ですものね」
「悲しいものだ」
「半年後には、どうするつもりですか」
「さあな。その時に考えることにするよ」
 老人は一本だけを吸って、帰って行く。
 それが習慣のようだった。

 片岡は、店の煙草を一箱、手にしてみる。
 中の一本を吸ってみようかという誘惑にかられた。
 しばらく、その煙草を手に考える。
 が、結局、元の棚に戻した。
 どうせ、後、半年。
 煙草はその後、この世の中から無くなって行くことだろう。
 経験をしておくのも一つの手だが、そこから抜けられなくなってしまうと困る。
 ここは我慢のしどころだと、片岡は思った。

 


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