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作品名:ある老人の話。 作者:三日月

最終回   3
 その日、広子から、
「体調が悪いので休ませて欲しい」
 という連絡があった。
「別に、構わないよ。ゆっくりと休んでください」
 と、耕三は言った。
 その日は、一人で過ごすものと決めていた。
 が、正午前、一人の娘が、耕三の家を訪れた。
「私は本多広子の娘で、美雪といいます。母親に言われて、これを持って来ました」
 美雪は、手作りの弁当を耕三に渡した。
 美雪は母親の広子によく似ていた。
「まあ、上がって行きなさい」
 と、耕三は、美雪を家に上げた。
「君、年齢はいくつ?」
「十七です」
「十七ということは、高校生か。今日は、学校は?」
「今日は休みました。母親の面倒をみなければいけないので」
「お母さんは、それほど悪いの?」
「いいえ。そういうわけではないのですが」
 美雪は、はっきりとしたことは言わなかった。
 何か、事情があるのかと思う。
「高校を卒業すると、大学に行くのかな」
「いいえ。うちは、それほど裕福ではありませんから」
「じゃあ、高校を卒業すれば、就職かな」
「そういうことになると思います」
 よければ、時々、遊びに来なさいと言って、耕三は美雪を帰した。

 二日後、広子が体調を回復して家に来る。
「ご迷惑をおかけして、すみません」
 広子が言った。
「いや。気にしなくてもいい」
 耕三は言う。
「娘さんに会えて良かったよ。また、遊びに来なさいと言っておいたけど」
「一度、耕三さんに会ってみたいと言っていましたので、迷惑かと思いましたが、弁当を持たせました」
「いや、迷惑どころか。私も会えて、嬉しかったよ」
「近頃は、学校を休みがちで、困っています。登校拒否というわけではないのですが」
「そうですか。子供がいれば、悩みもつきものでしょう」
 その日、広子が帰る時、
「また、娘さんを連れて来てください。楽しみにしていますから」
 と、耕三は言った。

 しかし、それから三日後、耕三は頭に激痛を感じ、部屋の中で倒れ、意識を失った。
 それは、広子がいつものように仕事を終えて、家を出た後、間もなくのことで、誰もそれに気がついた人はいない。
 翌日、広子がいつものように家に来ると、耕三の息はすでになくなっていた。
 耕三は病院に運ばれ、そこで死亡が確認される。
 死因は脳梗塞である。
 唐突な死だった。

 耕三の財産は、息子の慎太郎が相続をすることになる。
 当然のことだが、生前の耕三の意思とは関係なかった。


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